ホンダが新世代の燃料電池車「CR-V e:FCEV」を、2月28日開催の「H2&FC EXPO」にて、お披露目しました。この夏の発売を前に、2月29日より先行予約も始まっています。
「CR-V e:FCEV」の開発責任者である、電動事業開発本部BEV開発センターLPL 生駒浩一氏
◆GMと共同開発したFC(燃料電池)ユニットを搭載
「CR-V e:FCEV」は、既存の「CR-V」に、GM(ゼネラルモータース)と共同開発した燃料電池システムを搭載したFCEV(燃料電池車)です。水素を燃料に、電気を生み出してモーターで走ります。燃料電池システムは、アメリカのミシガン州で生産され、車両自体はオハイオの工場で作られています。日本で発売するときは、いわゆる逆輸入車となります。
FCEVということで、エンジンの代わりに燃料電池システムと、駆動用のモーターとギヤボックス、バッテリー、水素タンクが搭載されています。水素タンクは、後席の下と後輪の斜め上の2つ。ちょうど後席に座る人のお尻の下と、腰の裏側になります。水素での一充填走行可能距離は600km以上。走行性能的には、特にNV(ノイズ・バイブレーション)性能が非常に向上していると言います。静かで、より快適な走りを味わえるということです。


ベースとなるエンジン車の「CR-V」と比べると、デザイン的にはグリルとフェンダー、フード、バンパーを含む車両のAピラーよりも前とリヤバンパーのロア側が異なっています。エンジン車はグリルが上側にありましたが、FCEVは、グリルが下に移動。


フロント周りのデザイン変更分で、全長が110mm延長されています。寸法は、全長4805×全幅1865×全高1690mmです。


◆ポイントとなるのはプラグイン機能があること
「CR-V e:FCEV」の最大の特徴は、プラグイン機能を持たせたところです。バッテリーは、17.7kWhも搭載されているのです。ちなみに2016年にリリースされた「クラリティ FUEL CELL」のバッテリーは1.47kWhでした。新型は、なんと10倍以上もの電池容量となっていたのです。一充電でのEV走行可能距離は60km以上もあります。



このバッテリーに自宅で充電(AC100Vの交流充電)しておけば、最寄りの買い物などは、EVモードで賄うことが可能です。そして、週末のロングドライブはFCEVとして走り、途中の水素充填は3分ほどでOK。さらに、給電機能も備わっているため、ドライブ先でポットや電子レンジを使うこともできます。さらに、専用機材を使えば、大電力のDC給電も可能。ちょっとしたイベントの電源車として使うこともできるのです。
つまり、「水素を燃料とする」というだけでなく、「EVとしても利用可能」「給電機能もある」という新たな価値が追加されているのです。
◆8年前と比べてコストは1/3になった燃料電池システム
「CR-V e:FCEV」に搭載される燃料電池システムはGMと共同開発したものです。その内容は、非常に進化しています。どれだけ進化したかといえば、8年前に登場した「クラリティ FUEL CELL」と比較すると、コストは1/3、耐久性は2倍以上、耐低温性も大幅に向上しているというのです。


また、ホンダは燃料電池システムの開発をさらに進めており、次世代のシステムでは、「CR-V e:FCEV」に対して、コストを1/2、耐久性で2倍以上を目指している説明します。2016年の「クラリティ FUEL CELL」と比べれば、コストは1/6、耐久性は4倍以上となります。それが実現化すれば、FCEVの存在は、もっと身近なものになるのは間違いありません。
◆法人ユースだけでなく、個人ユーザーにも使ってほしい
ホンダが今回、「CR-V e:FCEV」を投入した狙いは、FCEVの本格普及に向けて「より広いユーザーを獲得したい」というものでしょう。これまであったFCEVは、主にセダンでした。


そこでホンダは、ベース車両をSUVとしてさらにプラグイン機能を付与。「水素で走る」だけでなく、多くの魅力を備えたクルマに仕上げたというわけです。この「CR-V e:FCEV」であれば、災害時の電源車に使うこともできますし、個人ユーザーの日常やレジャーに使うこともできます(水素ステーションの数が少ないという課題は残っていますが)。

「CR-V e:FCEV」の正式な発売は2024年夏。すでに先行予約が開始されています。このモデルは一般ユーザーも重要なターゲットになっています。気になる方はホンダのディーラーに相談してみましょう。
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筆者紹介:鈴木ケンイチ

1966年9月15日生まれ。茨城県出身。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。