出身地の愛知で開催された「ラリージャパン」を2度観戦しに行ったASCII.jp自動車部のゆみちぃ部長こと寺坂ユミさん。そんな彼女に現代ラリーの元祖ともいえるクルマの子孫を体験してもらいました。それがアウディ「RS3セダン」です。
ラリーで培った4WD技術を
市販車にフィードバックしたアウディ
「アウディとラリーって、何の関係あるんですか? 今は参戦していませんよね?」とゆみちぃ部長。アウディは、今では当たり前の技術「四輪駆動」を始めてWRCに持ち込んだメーカーなのです。

世界で初めて乗用車にセンターデフを搭載したフルタイム4WDシステム「クアトロ」を開発したアウディは、1980年に「クアトロ」(Ur-クアトロ)を発売すると、1981年の世界ラリー選手権(WRC)に投入。初戦のモンテカルロラリーでフィンランド人のハンヌ・ミッコラが、雪が残った6つのスペシャルステージでトップタイムを記録したのです。
終盤2位に6分近いリードを築くものの、マイナートラブルで惜しくもリタイヤしてしまい、デビューウィンはできませんでしたが、次戦のスウェーデンラリーで初勝利。シーズン3勝を果たすと、翌1982年は7つのラリーで勝利を挙げて、楽々とマニュファクチャラーズ チャンピオンの座を確保。
四輪駆動の優位性を証明するとともに「四駆でなければ勝てない」時代を切り開いたのでした。


そのUr-クアトロに搭載されていたエンジンは、2144㏄のSOHC直列5気筒ターボ型でした。直列4気筒よりスムーズで直列6気筒よりコンパクトな直列5気筒は、アウディが1976年、世界で初めてガソリンエンジンで実用化。Audi 100(第2世代)のトップグレードに搭載しました。
ちなみに、ディーゼルエンジンの直列5気筒は1974年のメルセデス・ベンツが初出と言われています。

つまりクアトロ&直列5気筒はアウディの2枚看板で、今回試乗するアウディ RS3セダンは、技術的に最もアウディらしさを詰め込んだ1台なのです。直列5気筒エンジンを現在も作っているのはアウディだけで、さらにそのパワーユニットを搭載するモデルは、このRS3とSUVのRS Q3のみです。
そんなアウディ RS3はデビューイヤーの2021年、ニュルブルクリンク北コースでタイムアタックを実施。7分40秒748を記録し、ニュルブルクリンク最速コンパクトカーのタイトルを戴冠したというからスゴい!
ちなみに2024年現在、ニュルブルクリンク北コース最速のコンパクトカーは2023年8月31日に記録更新したBMW M2で、そのタイムは7分38秒706。4駆より2駆の方が速く走ったというのが興味深いところ。そしてどちらも「パドルシフト」(AT)でアタックしています。
一目でアウディとわかる特徴的なフロントマスク



ボディサイズは全長×全幅×全高:4540×1850×1410mm、ホイールベースは2630mm。扱いやすいボディーサイズは、兄弟車のアウディ A3、VW ゴルフ譲りです。



フロントグリルを見たゆみちぃ部長は、「黒いグリルに、黒のエンブレムがカッコいい」とニッコリ。「よく見ると、ポジションランプもチェッカーフラッグのように光っていてオシャレですね」と、細かいコダワリにも心がときめいている様子。
アウディは世界で初めてLEDヘッドライトを採用したメーカーで、その使い方には一日の長があります。



ベースモデルのA3と違うのは、大きく張り出したフロントフェンダー。その主張は激しく、それでいてカッコいい! そのホイールハウスの主であるタイヤを見たところ、なんとフロントの方が広くてペッタンコ。多くのクルマは前後同径かリアの方が太いのに……。


エンジンはアウディのアイデンティティといえる2.5L 直5ターボ。その昔はメルセデスやボルボ、トヨタ、ホンダなど、多くのメーカーが作っていましたが、時代が進むにつれ、直4か直6に集約。現在、直5エンジンを作るのはオリジネーターのアウディだけ。このエンジンを手に入れるためだけでも、このRS3のオーナーになる価値はあるというものです。


リアをチェック。排気音は野太いイイ音がします。マフラーエンドは左右出しで、よく見ると2つの排気口があります。これはボタン1つで可変バルブを開閉させて、より大きな音が出すためではないかと思われます。

控えめながら、トランクスポイラーも用意。大きな羽根もカッコいいですが、こういうさり気ないアイテムもイイですね。
足下は狭いが倒せば荷物がたくさん載るリアシート





ラゲッジは普通のセダン並み。後席を倒せばかなりの奥行きを得られます。12Vのアクセサリーソケットを用意している点は◎。床板を取り外すとバッテリーが姿を現わします。これは重量配分を気にしてのことなのかも?






後席は足元がやや狭い印象。シート座面はスウェード調でキルティングっぽい模様により滑りづらい印象を受けます。センタートンネルは結構盛り上がっているので、真ん中に座った人はちょっと窮屈かも。USB充電ソケットはありませんが、代わりに12Vアクセサリーソケットが用意されています。「ドアノブとかの形状がカッコいい」とゆみちぃ部長。エッジの効いたラインはアウディらしさにあふれています。
近未来感のあるコクピットと
メーター横に表示される見やすいナビが魅力




運転席に着座したゆみちぃ部長。エッジの効いた近未来的デザインに心をときめかせます。「このセンスの良さ、カッコよさがアウディですね」とニッコリです。





RSのロゴ入りステアリングホイールは革の質感がとてもよく、大変握り心地がよいもの。やや細めなので、手の小さい方でも握りやすいことでしょう。クルーズコントロールはフォルクスワーゲングループならではの、ステアリングコラムから伸びるレバーで操作するタイプ。アダプティブはもちろん、ハンドル支援もするようです。ただ動作状態のアイコンが小さく見づらいのがネック。




アウディ TTから始まった、フルLCDによるバーチャルコクピットがアウディの美質。ナビ画面がメーターに表示されるのは、本当に便利です。「これは見やすいですし、わかりやすい」とゆみちぃ部長。最近ではマップ画面を表示するクルマは珍しいものではなくなりましたが、拡大縮小までできるモデルは多くありません。



センターコンソールは必要最小限のボタンで構成。ボタン類はドライバー側に向いているので押しやすいです。スマホトレイは横置きでUSB Type-C端子を2系統用意します。


助手席側もエッジの効いたデザインでカッコよさ満点。さりげなく「クアトロ」のエンブレムを配置するあたりが、実に心憎いです。テーブルっぽいデザインですが、モノを載せた状態で走らせればどこかに行くものの、停車中に何かを一時的に置くには実に便利です。

最近のクルマでは当たり前になりつつあるSOSボタンは用意がないようです。
LEDの演出が派手すぎないのがイイ!
多彩な走行モードのおかげでシーンを選ばない


イルミネーションがカッコいいのもLEDマイスター・アウディのよいところ。最小限の演出で最大限の効果で、ゆみちぃ部長もニッコリです。



インフォテインメントは、今では見慣れたスマホライク。上品で見やすいフォントは清潔感を覚えます。



走行モードはエコモード、コンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアル、パフォーマンスと多彩。パフォーマンスはセミスリックタイヤでのトラックモードで一般道での利用はやめたほうがいいでしょう。
「RSトルク・リヤ」はトルクをリヤ外輪に100%配分することで、ドリフトが容易にできるというもの。なるほど、リアタイヤが細いのはドリフトしやすくするためなのでしょう。試しに押すと「公道では使用禁止」の注意書きが。
アウディに限った話ではありませんが、保険会社によっては「レースモードなどを入れた状態で自損事故を起こすと車両保険が下りない」ことがあるそうで、警告メッセージが表示されるのはそのためなのかもしれません。


このトルク配分機構「RSトルク・スプリッター」が、RS3最大のポイント。実はクワトロシステムとしては初搭載の機構ですリアアクスルの左右ドライブシャフトの根元に、電子制御式の多板クラッチを配置。コーナーリング中、外側リアタイヤに多くのトルクを配分しアンダーステアを解消するのだそう。
RS3は巡行状態になるとリアの動力をカットしてFFで走行し、ガソリンの消費を抑える機構も搭載しています。
街中でも気持ちよく走れる乗り心地
排気音もどことなく上品

イグニッションを押すと心地よいエンジンサウンドとに、メーターパネルにはAudi Sportのロゴが表示。ゆみちぃ部長は、思わず身構えてしまいました。

まずはAUTOモードで走行。1500rpmあたりでシフトアップするためか、排気音が低く轟く以外、上質なセダンそのもの。乗り心地も柔らかですし、ステアリングも軽め。シフト時にクルマがガクガクすることもなく「普通のクルマ」そのもの。
実に扱いやすく、最初は身構えたゆみちぃ部長でしたが、リラックスモードで街を流します。この扱いやすさ、運転のしやすさは、ドイツ御三家の中でアウディが最もラク。ドアも気密性がシッカリありながらも、軽い動作で閉まるのもアウディの特質で、女性人気が高いのもうなづけます。

SPORTモードにしてアクセルを踏み、4000rpm以上回すと直列5気筒ターボが覚醒! 独特の図太いサウンドを奏でながら、滑らかに回り、爆発的な加速を慣行。なるほど、BMWの6気筒と、シビック TYPE Rの4気筒の良いところを合わせたかのような独特のエンジンフィール。トルクフルで一気に回る、なるほどコレが5気筒の魅力なのか!
車の動きは実に機敏にしてカジュアル。ドライバーがハンドルを曲げるだけで、ガンガン曲がっていきます。また高速道路での安定性も高いのも美質。
「運転しやすいですね」と、ことあるごとに褒めるゆみちぃ部長。この運転のしやすさや、疲労感の少なさが、ラリーで最も重要なポイントなのかもしれませんし、それがアウディがWRCや世界耐久選手権(WEC)などで輝かしい成績を納めた理由かもしれません。

スポーツグレードが苦手というゆみちぃ部長ですが、アウディ RS3を気に入られた様子。それは押しつけがましいスポーツさではなく、上品さと理性があったからなのだそう。「アウディスポーツ、いいですね」。取材後、ゆみちぃ部長はRS3との別れを惜しんでいるようでした。

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寺坂ユミ(てらさかゆみ)プロフィール

1月29日愛知県名古屋市生まれ。趣味は映画鑑賞。志倉千代丸と桃井はるこがプロデュースする学院型ガールズ・ボーカルユニット「純情のアフィリア」に10期生として加入。また「カードファイト!! ヴァンガード」の大規模大会におけるアシスタント「VANGIRLS」としても活躍する。こだわりが強く、興味を抱くとのめりこむタイプであることから、当連載でお気に入りの1台を探す予定。