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スーパーフォーミュラのKDDIチームに密着
ここ数年で人気急上昇中のモータースポーツ「スーパーフォーミュラ」。市販車ベースのマシンが戦うSUPER GTと違って、F1のようなオープンホイールの、いわゆるフォーミュラカーと呼ばれるマシンが超高速の戦いを繰り広げるレースカテゴリーです。
コースによっては300km/hを超えるスピード、一定時間エンジンパワーを上げて前走車を追い越ししやすくなるオーバーテイクシステム、オンボードカメラや無線が聞けるアプリ「SFgo」など、ほかのレースでは見られない要素が多いのもレースの特徴です。
そんなスーパーフォーミュラには、ASCII.jp的には見逃せないチームがあります。その1つは参戦30年以上を誇る「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」です。名前のとおり、ドコモがメインスポンサーで何度もチャンピオンを獲得している強豪で、レース以外に通信の実証実験をしています(自動車電話から5Gまで進化を、レースで30年タッグを組むドコモとダンディライアンに聞いた)。
そしてもうひとつが、今年から参戦した「KDDI TGMGP TGR-DC」です。こちらはモリゾウこと、トヨタの豊田章男会長がプロデュースしたチームで、KDDIがメインスポンサーとして加わっています。実証実験などはしていませんが、人材育成を掲げて若手ドライバーを起用しています。SUPER GTではauブランドでオレンジのチームカラーですが、こちらはKDDIとしてのスポンサードなので青をメインカラーにしたデザイン(クルマもチームウェアも)になっているのが特徴です。

チーム監督は、SUPER GTでグッドスマイル 初音ミク AMGをドライブする片岡龍也氏、ドライバーは28号車が小高一斗選手(26歳)、29号車が平良 響選手(24歳)という若手の2人。

今回はモビリティリゾートもてぎで開催されたスーパーフォーミュラ 第3~4戦で、KDDIチームに立ち上げのきっかけや、スーパーフォーミュラでの取り組みなどを聞いてきました。
片岡監督に聞く、チームの立ち上げと
育成を核に世界を目指す
SUPER GTやスーパー耐久など、さまざまなカテゴリーに参戦するドライバーでもある片岡監督に、まずはこのチームの設立のきっかけと目標を聞きました。

監督を引き受けることなったのは、昨年、モリゾウさん(豊田章男会長)と「若手育成のためのチームがスーパーフォミュラにあれば」という話が出たことで、モリゾウさん監修のもとでチームの立ち上げが始まったといいます。
片岡監督は現在、トヨタの育成プログラムであるTGR-DC(トヨタガズーレーシング・ドライバー・チャレンジプログラム)レーシングスクールの校長も務めており、オーディションから見てきたドライバーたちの「最終仕上げ」をスーパーフォーミュラで見届けたいと考えているそうです。その目的は、彼らを「しっかり卒業」させること。

たとえば、このチームで活躍してほかのチームの目にとまり、「あのドライバーをぜひうちのチームに」と言ってもらえるようになったら……と片岡選手。チームとしては特定のドライバーを何年も囲い込むのではなく、むしろ一流になって巣立っていってほしいそうです。
現状は苦戦中、シーズン途中でドライバー入れ替えも
ここまでのレース(インタビュー時で3戦まで終了)を振り返り、手応えについて尋ねると、「正直なところ、期待していたよりも苦戦しています」と語りました。第1戦は小高選手がリタイヤ、平良選手が15位、第2戦は小高選手が18位、平良選手が17位、第3戦は小高選手が18位、平良選手が13位と両ドライバーともノーポイントで終わっています。ちなみにインタビュー後の第4戦も小高選手が15位、平良選手がリタイヤという結果でした。

ドライバーは、小高選手がスーパーフォーミュラ3年目、平良選手が今シーズンから本格参戦しています。チーム自体、昨年までもスーパーフォーミュラに参戦していたチームなので、ある程度のノウハウがあるため、意外とすんなりいくのでは、と考えていたようです。苦戦の原因としては今年からエンジンとタイヤが替わったことで、過去のデータを流用しにくくなっており、こうすれば問題ないと言えるほどのデータが揃っていないからだと、監督は分析します。

また、チームとしては人材育成がメインであるものの、レースに参戦する以上、「勝つ」ことも目標ということで、成長を促すための「入れ替え制度」も検討していると言います。現在、小高選手と平良選手のほかに、リザーブドライバーとして野中誠太選手が登録されています。「入れ替えについてはドライバーに説明して納得したうえで乗ってもらっています」とのこと。
「入れ替えの目的は、乗るチャンスを得たドライバーがそこで活躍し、翌年へ繋げること」だと言います。 たとえ入れ替えられる側になったとしても、直前に光るものを見せることができれば、目を付けるチームが出てくるかもしれません。「一人でも多くの選手が人目につくというか、自分をアピールするチャンスを増やしてあげたい」と、片岡監督はチームの思いを語りました。
ライバルはドコモだが、まずは上位陣に追いつけ追い越せ
メインスポンサーがKDDIなら、ライバルはやはりドコモ。DOCOMO TEAM DANDELION RACINGについても聞いた。
片岡監督は「現状においては、ダンディライアンさんは非常に安定して、常に2台揃って高成績を出してるチーム」だと評価しました。実際、第3~4戦は2レース連続でドコモのワンツーフィニッシュでした。「ただ、特定のチームをライバルと定めるというよりは、そういう速いチームに追いつけ追い越せですね」とし、「いずれ自分たちがそこに変わって入れるようになりたい」と、今後の意気込みを語りました。

小高一斗&平良 響選手インタビュー
新規チームへの期待と不安
2台体制のKDDI TGMGP TGR-DC。この2台のステアリングを握る小高選手と平良選手に新規チームに加入した期待と不安を聞きました。
今から10年以上前、グッドスマイルレーシング主催のカート大会に小学生カート選手として出場したこともある小高選手。いまやSUPER GTやスーパーフォーミュラなどで戦うトップドライバーです。

新規チームへの加入に関しては「見た目は新チームですが、中身はしっかり歴史あるチームなので不安はないですね。ただ、昨年からエンジンやタイヤが変わってるんですが、開幕前のテストが雪で中止になったりとかで、まともに走れないまま開幕戦を迎えたのは不安でした」と、ハード面で不安があったそうです。
3戦を終えて「まだセットアップ探しで迷走している」と言います。また、エンジニアとのミーティングでは片岡監督もドライバー目線でのアドバイスをくれるそうです。「監督でありながら、第一線で走ってる方なので、非常に参考になります」とのこと。ドライバー交代制についても「プレッシャーはありません。考えすぎてもよくないので、僕はあまり気にしないようにしています」と自身のメンタルコントロールについて語りました。

今後については「現状、全然結果が出せていないので、しっかりと2台揃ってポイントを取って、優勝もしたいですね。とりあえずは、2台揃って上位でゴールできるような強いチームにならないとと思います」とのこと。

平良選手にこのチームに入るきっかけについて尋ねると、「昨年はスーパーフォーミュラに別チームから参戦させてもらったんですが、途中からでした。そこでしっかりポイントを獲得できたことが今年の機会に繋がったのかなと思います」とのこと。新規チームに参加することに関しては「不安はもちろんありましたけど」と認めつつも「新規とはいえ、中の人たちは経験豊富なエンジニアやメカの人たちばかりなので、不安以上に安心感と信頼感がありました」と期待のほうが大きかったようです。

現状での戦績については「予選がダメダメで。なかなか良い兆しが見えない状況が続いています」と苦戦を明かしました。まずは現状からの脱却を最優先に「試行錯誤を重ねるしかないですね、もう上がるだけなんで」と前向きなコメントでした。

期待と不安が入り混じる新規チームでの挑戦。結果に繋がらない走りに苦悩を抱えながらも、チームとともに一歩ずつ、勝利への「正解」を探し続ける両選手の今後の走りに期待しましょう。
未来の人材を育てるため、キッズ向けイベントも実施
KDDIとしては未来の人材育成ということで、キッズ向けプログラムにも積極的だ。数年前からKDDIグループのKCJ GROUPが「アウトオブキッザニア」として、スーパーフォーミュラにブース出展。モータースポーツのさまざまな仕事を子どもが体験できるイベントを開催しており、今年も継続中。


また、キッズピットツアーとしてファミリーを募集し、ピット内を案内するツアーをKDDI TGMGP TGR-DCでは行なっています。

この件に関して、KDDI側の担当者である、KDDI ブランド・コミュニケーション本部 ブランドマネジメント部 制作2グループ グループリーダー 升本 浩氏にお話をききました。

まず、このチームへの協賛を決めたのは「未来人材育成を目的としたチームという方針に共感したこと」だと言います。「KDDIとしても、誰もが思いを実現できる社会を作るという目標を掲げていますので、そこが今回の取り組みに繋がっています」と説明しました。
今年、全レースで実施したいと考えているという「キッズピットツアー」に関しては、「この取り組みは、子供たちにモータースポーツの現場を体験してもらうことを目的としていて、運営側として関わるアウトオブキッザニアとは異なります。あくまでもお客様側としてレースを体験してもらいます」とのこと。すでに3回開催したとのことですが、キッズたちの反応はどうだったのでしょうか? 「お子さんたちは、将来レーサーになりたいとかメカニックになりたいとか明確な目標があるわけではないかもしれませんが、生でこういう現場に触れて、目キラキラさせてすごく興味や関心を持っていただいています」と手応えを感じているようでした。

升本氏はこの体験を通じて、将来的に「モータースポーツに関わってくれるファンが増えてほしい」という期待があるそうです。今後については「キッズピットツアー以外にもさまざまな取り組みを考えています。特に同じグループのキッザニアとは一緒に何かできないか相談しているところです」と連携の可能性も言及しましたが「まだ何も決まってません」とのこと。
ドコモのように通信の実証実験などは予定していないようで、「スーパーフォーミュラでは通信というよりも、やはりTGRさんとともに未来の人材育成を重視していますので」と、モバイルとは違う部分に主な焦点があることが伺えました。
未来への想いを胸に、新規チームとともに歩み始めたKDDI。彼らの挑戦は、次世代を担う子どもたちにとって、モータースポーツという非日常の世界に触れる貴重な機会を提供するだけでなく、モータースポーツ界全体の未来を活性化する一助となりそうです。今後のKDDIの取り組みにも注目が集まりそうですね!

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