4月23日から5月2日まで開催された上海モーターショー。久しぶりに行った上海モーターショーのレポートをお届けします。
なんでもかんでもQRコードで決済
スマホをなくしたら生きていけない!
筆者は2010年代にせっせと中国に通い、北京と上海のモーターショーを取材してきました。ところがそんな中国取材もコロナ禍で中断。なんと、今年は約7年ぶりとなる中国のショー取材となったのです。ところが、今年になって突如プレスパスの申請が厳密化され、申請には取得の難しいJ2ビザが必須となりました。これで僕のようなフリーランスは、ほぼ申請が通らなくなってしまいました。なんとメディアデイのあとに、有料チケットでの入場となったのです。

ちなみに中国では、買い物から食事、地下鉄に乗るのも、なんでもかんでもスマートフォンでのコード決済となっています。なんと高速道路の料金支払いも、スマートフォンでのコード決済をやっていたのには驚きます。スマートフォンをなくしたら、詰んでしまう社会なのです。
ですから、上海モーターショーのチケット購入もWeChatのアプリ経由で行ないます。

おかげで、以前は当然のようにいた入口前のダフ屋は一切いなくなりました。代わりに、うまくコード入力できない、QRコード難民のような人が発生していたのも、今回の上海モーターショーならではの光景です。
日本の出展は新エネルギー車&中国向けばかり
現在、中国の自動車市場で大きく販売を伸ばしているのが、新エネルギー車(NEV)です。新エネルギー車とは、中国政府が強く推す電動車で、電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)、そして燃料電池車(FCEV)となります。

実際にはBEVとPHEVの2種がメインで、2024年は中国の新車販売の約4割を占めています。実数としては新車販売約3140万台のうち、BEVが約770万台、PHEVが515万台。上海の街を走るクルマを見ても、半数近くが新エネルギー車を示す白とグリーンのナンバーを装着しています。
ですから、日本のメーカーがショーで発表した新型車は、そのすべてが新エネルギー車でした。

ホンダは、BEVの4ドアクーペ「広汽HONDA GT/東風HONDA GT」を発表。昨年の北京モーターショーで発表された中国向けEV「ye(イエ)」シリーズ第2弾です。日産はBEVセダンの「N7」と、PHEVのピックアップトラック「フロンティア・プロ」の2台。そして、マツダはクロスオーバーの「EZ-60」。こちらは長安汽車との共同開発で、BEVとPHEVが用意されます。後輪駆動というのがマツダらしい点です。



とはいえ、これほどの数が発表されたものの、日本で発売されそうなのはレクサスの「ES」と日産の「フロンティア・プロ」くらい。ほかは中国専用で、かろうじて「EZ-60」が欧州でも発売されそうなくらいですね。それだけ中国市場に向けた専用車が増えていることを意味します。
また、トヨタのブースには自動運転レベル4のロボットタクシーが展示されていました。中国ベンチャーである「ポニーAI」とのコラボレーションのクルマです。また、トヨタはほかにモメンタとも自動運転技術の開発を進めており、広州や深センなどの都市で実証実験も進めているそうです。

欧米メーカーではフォルクスワーゲンの奮闘が目立つ
中国市場において、最も大きな存在感を放つのは昔からフォルクスワーゲン・グループでした。フォルクスワーゲンはタクシーや乗用車が大人気ですし、アウディはお役人御用達のクルマでした。そんなフォルクスワーゲン・グループですから、今回の上海モーターショーでも強い気合が感じられました。
まず、会場の入り口には、アウディの巨大な広告が待っていました。
具体的にはフォルクスワーゲンが、コンパクトセダンの「ID.AURA」、フルサイズSUVの「ID.ERA」、SUVクーペの「ID.EVO」の3台。アウディは、「A5L」「A5L Sportback」「Q5L」「A6L e-tron」「E5 Sportback」の5台です。その中でも「E5 Sportback」は、アウディの象徴となる4リングスのエンブレムを使わないことで大いに注目を集めていました。新時代のアウディを感じさせる1台です。


また、メルセデス・ベンツはミニバンの「ビジョンV」を発表します。中国は一人っ子政策を実施していたので、大家族向けのミニバンの需要はいまひとつ。その代わりに、ゴージャスなVIP向けミニバンの人気が急上昇しているそうです。そんな現地ニーズにあわせて用意されたのが「ビジョンV」となります。
デザインの進化が著しい中国メーカーたち
そしてココでも大人気のシャオミ
中国メーカーは、かつて数え切れないほどあった小さなメーカーの出展が減って、ほとんどが大手メーカーと、その派生ブランドばかりという状況です。一汽、上海、長安、東風、北京、広州、奇端(チェリー)といった国営企業と、ジーリー、BYD、長城といった大手民間企業。


7年ぶりの取材ということで、すでに現地では2世代ほど代替わりしているようで、展示車のデザインの進化の大きさに驚きました。かつては日欧米の模倣という雰囲気が強かったものが、いまやすっかりスタイリッシュなデザインになっていたのです。新エネルギー車ということで、日欧米のエンジン車ではない、独自路線を進んだのが良かったのかもしれません。デザインだけであれば、日欧米と遜色ないと言えます。
個人的に格安ブランドと思っていた奇端や、古臭かった紅旗といったブランドも、すっかりあか抜けたデザインとなっていました。
ちなみに見て回った中で飛びぬけて人気があったのがシャオミのブースです。あまりの人気にブースへの入場制限があり、それを待つ人の列が、巨大な建屋全体を1周するほど伸びていました。一体、何時間待つ必要があるのか、あきれるほどです。

最先端の試みを数多く採用
時代はインフルエンサーか……
今回の取材で、日本にはない新しい試みにも出会いました。それがオフィシャルのインフルエンサーです。トヨタのブースでは、おそろいのポロシャツを着たインフルエンサーが、何人も並んでスマートフォンを相手に、クルマの解説を動画配信していたのです。これは昨年、インドネシアのモーターショーでも見られた新しいプロモーションの手法です。そのうち、日本でも採用されるのではないでしょうか(ほかのジャンルではすでに採用されているかもしれません)。

また、BYDのブースでは、ゲーム「黒神話:悟空」とタイアップした孫悟空と出会いました。さらに古代中国風(ゲームモチーフ?)のカスタム車と、古代中国風のコスプレの人も用意され、ゲームの世界観が演出されていました。



また、ソニーのブースでは、漫画をモチーフにしたコスプレとカスタム車が展示されていました。こうした新しい手法は、日本でもそのうち……と思いましたが、痛車やコスプレはむしろ日本のお家芸ですね。
ソニーのブースには、日本の漫画のコスプレとラッピングされた車両が飾られていた。ソニー本体ということで、オーディオや360度ライトフィールドディスプレイなどが展示されていた

今回の上海モーターショー取材は、7年ぶりということで、いろいろなモノや事が変化していて、驚くことばかりでした。とにかく中国自動車メーカーの進化と、市場の変化の大きさには驚かされ、中国の底力を感じることのできる取材となったのでした。



■関連サイト
- 上海モーターショー(中国語)
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
