「クラウンのSUV?」誰もが最初、そう感じたハズ。しかしフタを開けてみたら、クラウン4兄弟(セダン、クロスオーバー、エステート、スポーツ)の中で、最も売れているのがクラウン スポーツだという。
久々に「いつかはクラウン」と思えるクルマが出た

クラウン スポーツRSの価格は765万円と高額だ。プラス100万円出せばメルセデス・ベンツの「GLC」が視野に入るし、「BMW 3シリーズ」のPHEV「330e Mスポーツ」(758万円)よりも高い。この価格ならアウディ「Q5」、レクサス「RX」だって買える。そんな金額であり、日本の給与水準から考えると、庶民にとって高嶺の花。だが、仕事を頑張って出世なり昇給なりすれば手に入る可能性がある、「いつかはクラウン」と思わせるプライスでもある。
団塊の世代は「いつかはクラウン」を夢見て、学歴社会を戦い、就職して仕事に励み、家庭を支え、今の日本を作り上げてきた。しかし、気づけばトヨタから「いつかはクラウン」と思わせるクルマはなくなっていた。それと時を同じくして、日本は失われた30年が始まったように思う。
だが、再び「いつかはクラウン」と思えるクルマが出てきた。「いつかはクラウン」を超えるクルマは、クラウンしかなかったのだ。
【クラウン スポーツRSがイイ理由 1】
SUVモデルならではのビッグボディー



ボディーサイズは全長4720×全幅1880×全高1570mmと、前出のライバルたちに負けず劣らずの立派な躯体。写真で見てわかるとおり、標準的な車庫枠ではいっぱいいっぱいで、隣にクルマが停まっていたら、気を付けないとドアパンチをしてしまいそうなサイズ感だ。

リアドアとリアフェンダー付近はGRスープラを彷彿とさせる曲線で、傷をつけたらちょっと修理が大変そうだ。

タイヤサイズは前が235/45R21 97W、後が235/45R21 97Wで、履いているタイヤミシュランeプライマシー。ホイールは大きいけれど、幅は狭めなのは昨今のトレンドのようで、クラウン スポーツRSもそれにならっているようだ。
【クラウン スポーツRSがイイ理由 2】
急速充電に対応し、車両の電力で家電が動かせる

クラウンスポーツRSは充電できるハイブリッド、PHEVと呼ぶシステムを採用している。エンジンは2.5L 直列4気筒で、最高出力は177馬力。これにフロントに最高出力182馬力、リアに54馬力のモーターが取り付けられ、システム最高出力306馬力を実現している。電気だけで90kmの走行ができる。
四輪駆動だが、エンジンパワーではフロントタイヤのみ駆動。リアはモーターだけだ。この方式をトヨタはE-Fourと呼んでいるが、この方式が世界的な流れになりつつある。

さて、この手のPHEV車の多くは、家庭充電のみに対応し、急速充電は非対応というモデルが多い。だがクラウン スポーツRSには、急速充電にも対応することが特徴。バッテリーがなくなった出先でも、充電すればEVならではのトルクフルで静粛な走りが楽しめる。
ちなみに、バッテリーがなくなっても車両側で発電が可能。発電するため余計にエンジンを回すので、燃費は悪化する。そこは留意しておきたい。


ガソリンはレギュラー。ライバルである輸入車がハイオク専用なので、わずかではあるが燃料費の節約ができる。カタログを見ると、公称燃費はハイブリッドモードで20.3km/L(WLTCモード)。そして、筆者が街乗りや高速道路で走ったところ、23km/Lを記録。これはかなり良い数字ではないだろうか。



実用面でうれしいのは、バッテリーの電力を家電に給電できるAC100Vコンセントを荷室と後席に用意されていること。トヨタのハイブリッド車にはオプションとしてAC100V出力が用意されているが、利用する際はエンジンをかける必要があった。だが、PHEVの場合はエンジンを止めていても利用可能。車両内でPC作業をするといった用途にピッタリだ。
【クラウン スポーツRSがイイ理由 3】
荷室の実用性がとても高い
さすがだな、と思わせるのが荷室のデキ栄え。細かいところまで神経が行き届いていることに驚かされる。



ボディーサイズは大きいものの、いわゆるクーペスタイルなので、バックドアを開けるために後方にスペースを広くとらなくてよいのは◎。これはショッピングセンターなどの駐車場で有効だ。



荷室容量は397L。後席使用時は9.5インチのゴルフバッグを斜めに1個積載できる。



後席を倒すとゴルフバッグが4個積載可能とのこと。筆者はゴルフをしないので分からないが、2人乗り状態で4つゴルフバッグを積むことはあるのだろうか? ともあれ、容積があることには違いはない。また、床面がほぼフラットになるのも使い勝手の点で好印象。


感心したのはプライバシーシェードが折りたたみ式であるということ。この手のシェードは、取り外したあとの収納に困るので、折りたたみ式というのは実用性がぐっと上がる。



スポーツモデルらしい赤いシートベルトが印象的な後席。質感も良く、シートヒーターも用意されているので、寒い日も安心だ。
【クラウン スポーツRSがイイ理由 4】
運転席の使い勝手も良い



運転席はコクピット感が強めのイマドキなデザイン。赤の差し色がスポーツグレード感であることを意識させる。


ホーンボタンにはクラウンのロゴ。これだけで所有感を充たしてくれる。メーターはフルLCDタイプで、左側にパワーメーター、右側に速度計、中央にインフォメーションというシンプルな配置。


ステアリングホイールにはリモコンスイッチが、これでもかと言わんばかりに多数用意されている。筆者的によく利用するクルーズコントロール(右手側)が、特に込み入った印象。クルーズコントロールは、一定速度を走り続けるタイプと、レーダークルーズと呼ぶ前走車追従タイプの2タイプがあるのだが、走行中にいろいろ操作するのは危ないので、前走車追従タイプがあれば十分ではなかろうか。

アクセルペダルはオルガン式を採用。ペダルの位置間隔は良好だった。


パワーシートを採用。3ポジションのメモリー機能を用意する。
ここまではライバルたちと、そう代わりはない。けれど、ここから先はちょっと違う。


センターコンソールを見ると、操作性のコンパクトさに驚かされる。その隣には2列に並んだドリンクホルダーとUSB Type-C端子が2つ。

USBまわりついでに話をすると、アームレストの中に12VアクセサリーソケットとUSB Type-C端子が用意されている。

秀逸なのはスマホトレイ。差し込むタイプでワイヤレス充電に対応。大型タイプのスマホは入らないおそれがあるものの、使い勝手が秀逸なのだ。


スマホ対応でいえば、Apple CarPlayとAndroid Autoに対応。ワイヤレスApple CarPlayに接続できるので、いちいちケーブルを用意しなくてもよい。


しかし、音楽を流す以外にApple CarPlayを使う必要を感じない。というのも、インフォテインメントが秀逸なのだ。特に音声認識はかなり優秀で、ほぼ一発で行先設定ができる。

このインフォテインメントだが、車両のカメラをドラレコとして使う機能も有している。輸入車では当たり前になりつつある機能だが、トヨタも追いついたというわけだ。

そして、輸入車を凌駕しているのが、アラウンドビュー機能。なんと車両の底面までシッカリと映し出すスグレモノなのだ。車両が車庫枠ギリギリだったりするので、この機能は本当にありがたい。
【クラウン スポーツRSがイイ理由 5】
クロスオーバーより乗り心地がよく、クイックな運転が楽しめる
四輪操舵と2770mmという、クラウン クロスオーバーやメルセデス GLC、BMW 330eなどのライバルと比べてショートホイールベース化を図ったことにより、ワインディングでよく曲がるクルマに仕上げられている印象。
驚いたのはクラウン・クロスオーバーよりも乗り心地がソフトで上質であることだ。これは床面にバッテリーを置いたから、という話や、そもそもシャシーが異なることもあるだろうが、ライバルたちと比べて日本の道に合っている感じがした。普段は快適だけど、ちょっと走りたい時に気持ちよく応えてくれる。
最初「クラウンでSUVって何?」「クラウンでスポーツ?」と思ったが、乗ってみてなるほどと思わされた。
気になった点&注意すべき点
そんなクラウン スポーツRSだが、気になったところを2点紹介したい。
●上下の視界が狭く、停止時に信号が見づらい

これは最近のトヨタ車あるあるなのだが、上下の視界が狭いこと。普通に走っている時はあまり気にならないのだが、交差点の一番前に止まった時に信号が見づらいことがあった。停止線のかなり手前で止まるか、信号を見るために体を動かす必要がある。
●警告が多くてドキドキする


車両にはさまざまな運転支援がついており、ドライバーの動きも監視している。たとえばナビを見たときに、わき見運転防止のアラートが鳴る。ほかにも緊急車両が近づいているとか、車両の近くに何かがあるとか、ハンドル支援が動作している時、ハンドルを握っていても、その握力が弱まわると警告が出る。
これらはメインメニューから細かく設定でき、オフにすることもできるのだが、パッと見て何が何を監視しているのかがわからないので、急にアラートがなってドキっとすることも。
【結論】誰もが納得し不満を覚えないデキの1台
冒頭で述べた「いつかはクラウンが戻ってきた」という想いに偽りはなく、デキ栄えの良さから憧れる存在になったのはうれしい限り。しかし、個性が重んじられる時代において、このような団塊世代的考えは古いかもしれない。
だが、クラウンとはトヨタで最も歴史のあるクルマであり、その名は日本人のDNAに刻み付けられている。だから、誰に何を言れようと、日本人の憧れであり続けなければならない宿命なのだ。

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