数々の金字塔を打ち立て、17年に渡り日産自動車のフラグシップとして君臨した「NISSAN GT-R(R35)」が2025年8月に生産を終了します。「NISSAN GT-R Premium Edition T-spec」に触れ、「スポーツカーを買うならGT-Rを買うべき」であると確信。
日本自動車界の金字塔
海外でも大人気のGT-R
NISSAN GT-Rは2007年、サーキットやアウトバーンなどを高速巡航できる動力性能を有しながら、市街地走行時の乗り心地や操縦安定性、静粛性などを考慮した「誰でも、どこでも、いつでも」スーパーカーの魅力を楽しめる1台として誕生しました。

それゆえ動力性能の高さは特筆すべきもの。2013年9月に世界有数の過酷なサーキットで知られるドイツ・ニュルブルクリンク北コースでハイスペックモデル「NISSAN GT-R NISMO」が、当時の量産車世界最速記録となる7分8秒679を樹立。パフォーマンスの面でも日本車が欧州車を上回るという、日本自動車界に新たな1ページを刻んだのでした。

イヤーモデル制を採り毎年進化するのもGT-Rの特徴。当初は480馬力だった最高出力も、最終モデルに近いT-specでは570馬力、NISMOグレードでは600馬力へとアップしました。あわせて排気ガス規制、騒音規制などもクリアしていったのですが、ついに「部品の供給の見通しが立たなくなってきてきたこと」と「2025年末に装着が義務化される衝突被害軽減ブレーキは“あと付け”できない」という2点により、これ以上のアップグレードを断念。2025年に生産を終了するという決断が下されました。




今回試乗したT-spec(MY2024)は、NISMO銘のないモデルとしては最上位。フロントバンパーとリアバンパー、リアウイングに空力性能を向上させる新たなデザインを採用し、空気抵抗を増やさずにダウンフォースを増加させたほか、タイヤの接地性やハンドリング性能も高めることで、洗練された乗り味を実現しています。
RAYSの軽量ホイールとしたほか、カーボンディスクブレーキを採用したのもポイント。足回りの軽量化にともない、サスペンションのセッティングも変更されているでしょう。
そんなわけで、意気揚々とT-specをお借りしてきたのだけれど、担当編集は「NISMOじゃないの」と残念そうな顔。確かに見た目はNISMOの方が派手です。ですが、文頭に書いたとおり、元来NISSAN GT-Rは「誰もが乗れるスーパーカー」であり、サーキットに特化したようなNISMOグレードは本筋と違うような気がするのです。
そんなNISSAN GT-Rの現在の値段は、最も安価なグレード「GT-R Pure edition」で1444万3000円。今回試乗したGT-R Premium edition T-specで2000万円近いプライスタグがついています。そのような高額の国産スポーツカーはほかにないので、ライバルは欧州車、なかでもポルシェの「911」でしょう。
【今こそGT-Rを買うべき理由 その1】
高い実用性








GT-Rが魅力に思える点は、高い実用性にあります。後席が狭い、というより大人が着座するのは不可能に近いのは、この手のスポーツカーではあるあるの話ですが、荷室の広さと大きさは圧倒的にほかのスポーツカーより上です。
「それって、ボディーが大きいからでは?」というのは確かにその通り。パッと見た感じでも大きく、全長4710×全幅1895×全高1370mm、ホイールベースは2780mmとビッグサイズ。なのですが、ライバルといえるポルシェ 911のそれは全長4530×全幅1852×全高1293mm、ホイールベースは2450mmと、あまり大差なかったりします。
【今こそGT-Rを買うべき理由 その2】
乗り心地の良さと居住性の高さ




GT-Rの歴史は、パフォーマンスを高めながら普段使いもできるクルマへの道でもありました。初期GT-Rの車内は、エンジンと車両後部に搭載したミッションの大合唱。ですが年々、タウンスピード領域での車内ノイズは減っていったように思います。


でありながら、踏めばマフラーメーカーのフジツボが作るチタンマフラーから極上の音が聴こえてくる。ターボらしい太く低い音の中に、澄んだ高音を響かせる。スポーツカーの中でも屈指のサウンドといえるでしょう。
一般道でもGT-Rは使いやすい部類といえます。スポーツカーで気を付けるのが、ガソリンスタンドへの入庫。車高が低い都合、スポーツカーによってはフロントリフトをさせるオプションなどを付けたほうが安心度が高まるのですが、GT-RならNISMOグレードを除いて、ほぼそのまま行けます(意外と車高は低くない)。
そして一般道での乗り心地は、T-specが過去のGT-Rの中で最も優秀。もちろん乗用車よりは硬いのですが、ポルシェ 911のような地面からの突き上げで悲鳴をあげたくなるようなことはありません。
さすがにイマドキの10段変速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のような滑らかな加速は得られないのですが、それが逆に機械としてのスゴみをドライバーに伝えます。そしてエンジンルームからはターボのタービン音、リアからはギアとギアが擦れる音が聞こえ、それがまたイイモノ感をドライバーに伝えるのです。
【今こそGT-Rを買うべき理由 その3】
最後のガソリンエンジンスポーツ


日産自動車の横浜工場で作られるGT-Rの心臓部。それを組むのは、匠と呼ばれる選ばれた人のみ、と言われています。ひとりの職人がエンジンを組み立て、そこにバッジをつけるのは、AMGを初めとする海外の少量生産スポーツカーでは珍しいことではありません。ですが、同じことを一般乗用車がメインの日産がしたことが驚き。
もちろん生産台数は量販車に及ばないでしょう。しかも17年も。それだけ長い時間だと、親から子へ、のような生産技術の伝承と深化します。このエンジンには、単にひとりのッ職人の思いではなく、GT-Rに携わったすべての人の思いが詰まっているのです。
エンジンの動きは滑らかの一言。直列6気筒が最も滑らかと言われますが、GT-Rの滑らかさもスゴいものがあります。そして、アクセルを踏み込んだ瞬間に、爆発的なパワーを生み出す。日本のエンジニアリングの頂点といってもよいエンジンなのです。
【今こそGT-Rを買うべき理由 その4】
まず見かけないレアな車種

最近、街でGT-Rを見かけたことがありますか? 筆者は仕事で六本木や港区に頻繁に足を運びますが、ここ1年、ほぼ見たことがありません。同価格帯のポルシェは毎日見るのに……。
ポルシェは世界各国で販売していますが、GT-Rは排気ガス規制や騒音規制などから、MY2020モデルを最後に欧州で販売が終了しています。また、クルマ好きとして納得できる話かどうかは別として、第二世代GT-Rは中古市場で人気を集める車種。当然、本機も人気を集めることは予想できます。また生産台数も年1500台程度で、年5万台が国内で販売されているポルシェ 911よりも絶対的な数が少ないことも影響しているでしょう。
また、GT-Rが購入できる富裕層にとって、輸入車ディーラーと国産ディーラーではサービス対応が違ったり、そもそも富裕層は国産車を過小評価をする傾向が強かったりで、結果的に彼らは買わない。ゆえに港区や六本木ではレアな車種になるのでしょう。
【今こそGT-Rを買うべき理由 その5】
最後のガソリンエンジン車としての価値

小池百合子都知事は以前、「フォーミュラE 東京大会」の事前イベントで「東京都は、2030年に新車販売で非ガソリン車100%を目指しております」と、従来の主張を改めて明言していました。2023年1~12月の乗用車販売台数(乗用車、登録車+軽自動車)のうち、電動車は200万9725台と、電動車比率は50.3%という状況。果たしてあと5年で達成できるのか? とか思ったり。
【GT-Rで気になったところ】
インフォテインメントなどが古い



走り出せば古さは感じないものの、内装や快適装備に時代を感じるところは否定できません。クルーズコントロールは日産ご自慢のプロパイロットではありませんし、メーターも指針式。ナビなどを表示するディスプレイも、時代相応の解像度の低さを覚えます。
また、Apple CarPlayは対応しますが、Android Autoは非対応。これらは年次改良で取り残されてきた部分でもあります。
【まとめ】もはや買えるかわからないが
買えるなら買っておきたいGT-R
パフォーマンスでは電動車が上回りつつあるものの、古き良き時代のラストガソリンエンジン車として手に置いておきたい気持ちになりませんか? 17年間にわたり、さまざまなエンジニアが磨き上げてきた想いが詰まった1台。お金と在庫があれば、いま一番買いなクルマのように見えてきたことを正直に告白します。

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