auは、国内の主要なサーキットである富士スピードウェイおよび鈴鹿サーキットにおいて、5Gのエリア対策が完了した。これにより、国内のFIA グレード1(F1開催基準)を満たすサーキットで、快適な5G通信が利用できるようになった。
SUPER GT第2戦の予選日にKDDI担当者やau TOM'Sの関係者に電波対策のこと、今シーズンのレースのこと、モータースポーツでの取り組みなどをインタビューしたので、まとめてお届けする。

富士スピードウェイにおける通信対策
ユーザーの傾向を見つつ負荷を自動で分散
2025年3月末までの対策により、富士スピードウェイのコースほぼ全域でau 5G(サブ6)が入るようになっている。対策については、ユーザーの利用実態を詳細に分析し、サーキットのどこにいても、そしてどの観覧席にいても、同じように5Gを利用できるように設計されているという。

また、レース観戦中に自席で動画視聴されるユーザーが多いことや、イベントによってはQRコードでの入場・決済が中心となることなどを踏まえ、動画視聴も快適に、かつ多様なユースケースの変化にも対応できる容量設計を実施している。その結果、2024年および2025年のSUPER GT開催時において、基地局の臨時設置をすることなく、安定した通信環境を提供できたと担当者は説明した。イベント当日は、基地局の負荷を均等化するための自動負荷分散チューニングも実施しているとのこと。
鈴鹿サーキットにおける対策
F1でも臨時基地局ナシで乗り切った
鈴鹿サーキットでも、2025年3月末までにサーキット全域でau 5G(主にサブ6)のエリア対策が完了している。富士スピードウェイ同様、サーキット全域で高速大容量の5G通信が快適に使えるようになった。

鈴鹿サーキットの対策も、サーキット全域、どの観覧席でも快適に5Gが利用できる設計や、動画視聴、多様なユースケースに対応した容量設計を重視している。この対策の効果は、4月に開催されたF1日本グランプリで顕著に現れている。3日間で26万人を超えるファンが来場したにもかかわらず、移動基地局や、基地局の臨時設置をすることなくイベントは終了し、電波についての不満は見られなかった。
サーキットでの電波環境の展望
自動負荷分散システムを拡充
auは今後も5G利用者の増加を見込み、自動負荷分散システムの機能拡充を進める考えだ。基本的な方針として、既存基地局の容量を最大限に活用しつつ、ユーザーのトラフィック動向を詳細に分析し、必要に応じて容量増対策を検討していくことで、通信品質の維持・向上に繋げていくという。
両サーキットを訪れるユーザーが、コンマ1秒を競い合うモータースポーツを集中して楽しめるよう、今後もより快適な通信環境の構築に期待したい。

SUPER GTだけでなく、スーパーフォーミュラやラリーなど、数多くのモータースポーツを支援するKDDI(au)。実はモータースポーツに限らず、auブランドとしてスポンサードしているのはSUPER GTだけ。KDDIブランドとは違うアプローチでレースを盛り上げるauだが、その活動内容をKDDI ブランド・コミュニケーション本部 ブランドマネジメント部 制作2グループ グループリーダー 升本 浩氏に聞いた。

auのモータースポーツ協賛活動は「おもしろいほうの未来へ」
未来を担う人材育成にも力を入れる
auでは「おもしろいほうの未来へ」のブランドメッセージのもと、モータースポーツ協賛を通じてファンの皆様に喜んでいただき、業界全体を共に盛り上げることを目指しています。また、さまざまなスポーツ支援を通じて、未来を担う子供たちの人材育成にも力を入れています。

SUPER GTでの具体的な活動としては、富士スピードウェイでのファンシート企画は人気で、毎回完売しているほどです。協賛カテゴリーはSUPER GTに加え、今年からスーパーフォーミュラへも拡大しており、モータースポーツへの取り組みを広げています。
ファンとの接点を増やすため、SNSや各カテゴリーのホームページに加え、今年3月には「未来人材」サイトを開設しました。キッズピットツアー(通常は入れないピット内を親子で見学できる)などを通じて、子供たちがモータースポーツに触れる機会を提供しています。
通信会社としては、レース場での通信インフラ確保に注力し、auのお客様が安心して楽しめる環境を整備し、さまざまなアプリ利用やau Payなどの決済が快適にできるよう努めています。
協賛名義は目的で使い分けています。au名義はファンとのエンゲージメントが主目的。スーパーフォーミュラでのKDDI名義は、人材育成をテーマとしたコーポレートブランディングとしており、チームの理念に賛同する形で活動しています。

今後の展望として、協賛活動をさらに拡大し、ファンに喜ばれる企画を増やしていきたいと考えています。通信インフラ強化に加え、まだ何も決まっていませんが、今後は技術的な観戦サポートもできればと思っています。
auとの長年にわたるパートナーシップと、現在のチームの状況について、TOM'Sのマーケティング部長 スポンサー営業部 部長 TFC事業部 部長の神山裕示氏に聞いた(このインタビューはSUPER GT 第2戦の予選日に収録された)。

auとの絆、そして10年目へ
auさんとのご関係は、今年で約10年目になります。2016年からメインスポンサーとして、長年にわたり絶大なご支援をいただいています。特に2016年は、チームがペトロナスさんとの契約終了で非常に厳しい状況だった時に助けていただきまして、このご恩は一番忘れてはいけないと思っています。

auカラーなのになかなか勝てなかった時期もありましたが、2023年、2024年と2連覇中であり、このまま3連覇を達成できれば、来年のスポンサード10周年を非常に良い関係で迎えられると考えています。来年は10周年記念として、特別なカラーリングなども含めアニバーサリー的なことができたら良いなという希望もあります。
チーム体制変更をしない自信の根拠
今年の体制面では、カラーリングやドライバー、監督に変更はありませんでした。唯一変わったのはエンジニアです。若手育成もあり、ここ数年トラックエンジニア(ドライバーとの対話から、クルマのセッティングや仕様、タイヤなどを決めるポジション)を務めた吉武 聡氏がチーフエンジニアに昇格し、データエンジニアだった伊藤大晴氏がトラックエンジニアとなりました。

伊藤氏はこれまでも車作りに深く関わってきたため、ドライバーから非常に信頼度が高い状態です。
スポンサーシップの広がりと新たな取り組み
auさんによるファンの拡大も実感しています。auさんが企画してくださったファンシートは当初100人だったものが今は200人になり、チームが強いこともあり、auのウェアを着ているファンの方も増えました。今後もauさんのファン感謝祭などを拡大していきたいと考えています。

auのトップの方々も、最近はレース結果に非常に興味を持ってくださるようになり、真剣に状況を見ていただけて、10年を目前にして大変ありがたいと感じています。
ビジネスとしてのモータースポーツ
モータースポーツのビジネスについては、F1のようにチーム独自で収益を上げる取り組みが重要と考え、スポンサー様ではない方に向けてもクリスタルルームで観戦できるプレミアムチケット(今年のSUPER GTでは1枚20万円)を販売しています。これは、増え続けるコストをスポンサー様にお願いするのではなく、自分たちで稼ぐために必要なことだと考えていて、今後もいろんな企画を考えていく予定です。

【まとめ】通信会社がモータースポーツを支援する意義
日本において、野球やサッカーに比べるとマイナーと言わざるを得ないモータースポーツ。そのモータースポーツを日本のインフラ企業が積極的に支援する意義とは何なのだろうか?

まず、通信会社がサーキット全域に5G通信環境を整備することで、観客は自席で快適に動画視聴や情報取得ができ、リアルタイムでレースに集中して楽しめる。これにより、従来より現地観戦の課題だった「通信がつながりにくい」「レースの状況がわからない」という不満を解消しつつ、ファンの満足度やレースそのものの価値向上に直結するだろう。
さらに、高度な通信インフラは、レース運営や安全管理にも不可欠。
次に新しい観戦スタイルやサービスの実現だ。5Gを始め、先進通信技術を活用することで、ライブストリーミングやマルチアングル映像、AR/VRを使った観戦体験など、今までなかったサービスが得られるようになる。現地だけでなくサーキットに行けないファンもレースを楽しめるようになり、モータースポーツの裾野拡大に貢献する。サーキットは遠方にあるため、金銭的にもスケジュール的にもファンがみんな来られるわけではないという、最大の障壁が取り除かれるのだ。

また、モータースポーツは地元地域の理解が不可欠。モータースポーツ会場のDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)推進は、地域のスポーツ振興や経済活性化にも繋がる。通信インフラを整備することで、イベント時の観光促進や地域ブランド価値の向上にも繋がるだろう。

今回のインタビューでも関係者が語っていたが、通信会社がチームやイベントのスポンサーとなることで、ブランドの認知度向上や新規顧客の獲得が期待できる。また、社内コミュニティーが生まれたり、社員のエンゲージメントが向上するなど、インナーブランディング(社内でのブランディング)効果も生まれているようだ。
すでに通信と自動車は切っても切れない関係になっているが、それはモータースポーツでも同じで、通信環境を整備することで、モータースポーツの満足度があがり、通信会社としてもファン獲得や自社の技術をすぐにユーザーに体験してもらえるなど、共生関係になっているのである。
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