コンパクトなボディーによく回るエンジン。元気のよい走りで80~90年代に人気を集めた通称「ボーイズレーサー」や「ホットハッチ」。

ですが、最近はそういうクルマって見かけないような?


 いえいえ、トヨタの「GRヤリス」、日産の「AURA NISMO 4WD」、Hondaの「FIT e:HEV RS」があるじゃないですか! そんな3台に触れることで、それぞれのメーカーの思想の違いが見えて面白かったので紹介します。


【GRヤリスRZハイパフォーマンス】世界一ホットな3ドアハッチ

ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を...の画像はこちら >>
トヨタ/GRヤリスRZハイパフォーマンス(価格=533万円/テスト車=583万5450円)

 本来ならGR SPORTグレードのアクアが適任なのですが、あえてトヨタの大看板のひとつであり、昨年マイナーチェンジしたGRヤリスをチョイス。価格的にも車格的にはRSグレードが好ましいかったのですが、マイナーチェンジでRSグレードは廃止のため、RZグレードになりました。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 ボディーサイズは全長3995×全幅1805×全高1455mm、ホイールベースは2560mmと軽自動車とあまり変わらなかったりします。このボディーサイズはWRCなどのラリーで導き出されたサイズであることは言うまでもありません。ちなみにランチアの名車「ストラトス」はもっとショートホイールベースです……。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 エンジンは最高出力304PS、最大トルク40.8kgf・mを発する1.6L 直3ターボ。これを6MTまたは8ATで四輪に伝えます。燃費はWLTCモードでMTが12.4km/L、ATが10.8km/L。価格はMTが498万円、ATが533万円。オプションでインタークーラーを冷却する「クーリングパッケージ」を用意するほか、標準でトルセンLSD(左右の駆動輪の回転速度差を自動的に調整して駆動力を伝達する装置)が用意されています。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 マイナーチェンジで大幅に変わったインテリア。シートはセミバケット式で、シート位置は前期型に比べて25mmダウン。

運転席というよりコクピットという形容がふさわしい印象。フルLCD化したメーターパネルはかなり見やすく、必要な情報をすぐに呼び出せます。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 四輪駆動のモード切替や、走行モード切替などが充実しているのもGRヤリスの特徴。クルマ好きの心をくすぐります。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 GRヤリスは4人乗り。後席はあるにはあるものの常用は難しいという印象で、4名が乗るには前席はかなり前に動かさないといけないでしょう。USB充電端子などの用意もありません。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 荷室はかなり簡素な印象。容量は174Lで、後席を倒すと225/40ZR18(標準サイズ)のタイヤが4本収納できるとのこと。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 ステアリングもペダル類も重めで剛性感を覚えます。車内はイマドキのクルマとしてはかなりノイジーで、足回りの硬さと相まって後席に座るのは拷問といえそう。ですが、運転しているほうは、楽しいことこのうえなく。


 意のままにクイックにクルマが動く! しかも圧倒的な速さで。とんでもない速さなのにこわくないのは、クルマがシッカリと地面をつかんでいるからで、それがドライバーにもキチンと伝わってきます。クルマというよりウェポンという表現が合っているかも。このクルマの「速く走るための道具感」はスゴイ!


 車幅こそ1800mmあるものの、全長が短いため峠道などでは取り回しが容易。コンパクトなボディーゆえ、峠道を縦横無尽にかッ飛びます。GRヤリスをホットを超えたスーパーなハッチバックと手放しで称えたいと思います。


【AURA NISMO チューンドe-POWER 4WD】電動なのに古典的

ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
日産自動車/AURA NISMOチューンドe-POWER 4WD(347万3800円、テスト車両455万1729円)

 続いてAURA NISMOチューンドe-POWER 4WD(347万3800円、テスト車両455万1729円)。「AURA NISMOってそんなに高いの?」と、筆者も最初そう思いました。価格表をよく見ると、車両のみなら、標準のAURAより約30万円高に収められています。


 高く感じるのは100万円近いオプションのうち、Nissan ConnectナビゲーションシステムやBOSEパーソナルプラスサウンドシステム、プロパイロットなどが42万円、リクライニング機能付きのレカロ製スポーツシート44万円が含まれているから。「日産車でプロパイロットがないのは画竜点睛を欠く」し、NISMOでレカロシートがないのも同様。実に悩ましいところです。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 ボディーサイズは全長4120×全幅1735×全高1505mmで、ホイールベースは2580mm。

全長はGRヤリスより長いですが、全幅は狭く、実質5ナンバーサイズ(全幅1700mm以下)と言ってもよいかも。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 標準のAURAと比べると、エクステリアのNISMO化は「赤いライン」以外、あまり変わっていないような。リアバンパー中央にフォグランプを配置するのは、NISMOロードカーの証。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 パワーユニットは最高出力82PS、最大トルク103N・m を発生する1.2L 3気筒エンジンを発電機として用い、最高出力136PS/最大トルク30.6kgf・mのフロントモーターと、標準よりパワーアンプした最高出力82PS/最大トルク15.3kgf・mのリアモーターを駆動します。パワーアップした分、トルク制御も専用化しているとのこと。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 AURA同様にコクピット感が強い室内。44万円のレカロ製電動シートが目を惹きます。黒と赤で彩られた室内は、よく見ると赤が織り込まれたカーボン調パネルが配置されています。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 走行モードは3種類。パワーオン時はエコモードになっていますが、これはAURAのスポーツモードに相当するとのこと。NISMOとECOはe-Pedal(ワンペダル動作)です。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 後席は実用的な広さ。

さすがに大人3人が座るのは難しいけれど、きちんと5人乗りです。


 荷室容量は260L。プライバシートレイは大きく質素な印象を受けます。


 走り始めると、イマドキの純正スポーツモデルとしては硬めの乗り味。跳ねて手に負えないということはありませんが、古典的という印象。それが逆に楽しさにつながっているように思います。


 AURAよりも剛性は高く、GRヤリスほどではありませんが剛体感を覚えて安心。一方、想像以上に静かなクルマなので、メカニカルノイズによる気分の高揚というのは得づらいでしょう。


 電動車らしいラグのない加速は新時代ホットハッチと言いたくなる乗り味で、「電気でもクルマは面白い」と素直に感心するデキ栄え。コーナーでアクセルを踏むほどにクルマが安定します。ワンペダル動作もワインディングと相性がよく、丁寧なアクセルコントロールが身に着くようで、乗れば乗るほど運転が上手くなった気にさえなります。


 AURA NISMOは端的に言えば扱いやすく楽しい1台で、オプションのレカロシートは高いけれど、ノーマルの30万円アップで車両が手に入るなら断然NISMOを選ぶべき、と思いました。


【FIT e:HEV RS】普段乗りを楽しみたい方に向けた1台

ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
Honda/FIT e:HEV RS。価格=254万1000円

 最後にHondaのコンパクトカー、FIT e:HEV RSを紹介します。価格は254万1000円と、ベーシックなFIT e:HEV HOMEの約20万円アップに留めています。今回取り上げる車両の中で最も安価で、純正ナビなどのオプションを取り付けても300万円を超えることはないでしょう。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 ボディーサイズは全長4080×全幅1695×全高1540mmで、ホイールベースは2530mm。3車種で最も全高がありますが、高さ制限(1.55m)以下の立体駐車場に入ります。全幅は1700mmを切った5ナンバーサイズで、一般的な車線幅でアウトインアウトができるサイズです。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 パワートレインは1.5L 直4の自然吸気エンジンに、モーターを組合せたハイブリッド。エンジンの最高出力は106PS、モーターの最高出力は123PS。足して231PS……にはならず、どちらかが駆動する方式を採ります。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 現行型FITは2本スポークのステアリングですが、RSは3本スポークへと変更。パドルシフトはCVTの疑似MT用ではなく、回生ブレーキ量の変更スイッチです。ダッシュボードは低く、3車種の中で最も低い位置、逆に言えばフロントの視界が広い印象を受けます。


 シートはウルトラスエードとプライムスムースの組み合わせ。背もたれの厚さが印象的で、ここまで肉厚なシートはコンパクトカーでは珍しいのでは?


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い
ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 後席はHonda自慢のチルトアップに対応。足元も広く、荷物も人もシッカリ積載できます。スマホ充電に便利なUSBポートは1つのみ。これはAURA NISMOも同様です。ちなみにGRヤリスには用意されていません。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 荷室は3車種の中で最も広い印象。なにより後席を倒すとフルフラットになるのは美質です。


 ポルシェなら「レーンシュポルト」、ルノーなら「ルノー・スポール」、英語圏なら「レーシングスポーツ」と、ガチなスポーツグレードに付けられがちなRSという名前。ですが、Hondaの場合はガチなスポーツグレードには「TYPE R」が与えられ、RSは「ロードセーリング」という意味で、まるでハンドリングを楽しむクルマにつけられるのだそう。


ヤリス! AURA! FIT! 新時代国産ホットハッチ3台を乗り比べてわかったメーカー思想の違い

 確かに前出の2台に比べると、FIT e:HEV RSは血沸き肉躍るようなクルマではありません。ですがキビキビした走りは確かに楽しく、引き締まった足回りは、結果的にFITの他グレードよりも上質な乗り味を実現しています。誰でもハンドリングが楽しめ、そして同乗者にも負担を与えないというのがRSの目指すところなのでしょう。


 さらに日常的な使い勝手の良さと、このクルマは実によくできていると感心しきり。でもやはり、血が湧きあがるホットハッチに仕立ててほしいという欲があるのも事実。昔の話を出すのは老害とわかりつつも、初期の「シビック TYPE R」であったり、「シティ・ブルドッグ」のようなクルマが出るといいのにと願ってしまうのは、ないものねだりですね。


【まとめ】速さのトヨタ、快適さのHonda、中庸の日産

 こうして3台を比べると、走行性能に全振りするトヨタに対し、日常を忘れずドライバーに寄り添うHondaという印象。日産はちょうど中間の絶妙なバランスとポジションといえるでしょうか。それが各社らしいように思えます。


 というのも、トヨタや日産はクルマが主役の耐久レースに力を入れるのに対し、Hondaはフォーミュラなどのドライバー中心のレースに多く出場するから。


 今回紹介したクルマに共通するのは、いわゆる後期型。つまり完成度が高まっています。よって、どれを選んでも満足度は高いといえます。あとはクルマをどのように使い、どのように運転したいのかというところで選ぶべきであると感じました。


■関連サイト


編集部おすすめ