6月7日、ロンドンで開催された「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025」の開幕戦にて、シャオミのスーパーEV「Xiaomi SU7 Ultra」が中国車として初めて同ゲームに収録されることが発表され、さらにサプライズでコンセプトカーの「VISON GRANTURISMO」にも登場することが予告されました(「グランツーリスモ 7」にシャオミのEV「Xiaomi SU7 Ultra」が初登場! 世界中の人がシャオミEVを体験可能に)。
リアルドライビングシミュレーターの金字塔である「グランツーリスモ7」(以下GT7)と、急成長を遂げるテクノロジー企業のシャオミがコラボレーションすることで、どのようなシナジーを生み出すのか? コラボのきっかけを始め、Xiaomi SU7 Ultraの乗り味や、ゲーム内でXiaomi SU7 Ultraはどのように再現されるのか?
大会の会場となるロンドンの地で、GT7を開発するポリフォニー・デジタルの代表でありGTシリーズプロデューサーの山内一典氏と、Xiaomi EVのチーフテストドライバー兼車両性能開発責任者であるZhoucan Ren氏にお話を聞きました。

「すごい会社に出会った!」
山内氏を感動させたシャオミの情熱
コラボレーションの始まりは、山内氏がグランツーリスモの中国スタッフに「今、中国で一番面白い自動車メーカーはどこか」と尋ねたことでした。その答えが「シャオミ」だというのです。山内氏はすぐ、シャオミにメールを送付したといいます。

決定打となったのは、その後のシャオミ側の対応でした。山内氏がF1観戦(上海GP、2024年4月20~21日)のため上海に滞在していることを知るやいなや、シャオミの担当者が北京からすぐに駆けつけたのです。このレスポンスの速さに、山内氏はまず感動したと語りました。そしてシャオミCEOの雷軍(レイジュン)氏とも会談しました。
Xiaomi CEOのレイ・ジュンさんと、お話する機会がありました。 グランツーリスモの中国語版を正式にリリースしていないのにもかかわらず、Xiaomiのみなさんは、とにかくグランツーリスモの熱狂的なファンで、それは嬉しい驚きでした。
I had the opportunity to speak with Xiaomi CEO Lei Jun.… pic.twitter.com/eD7K2F4G3e
— 山内 一典 / Kaz Yamauchi (@Kaz_Yamauchi) May 31, 2025
さらに、シャオミ関係者からのプレゼンテーションを聞いて、山内氏は彼らの車作りに対する「好奇心と情熱、そして謙虚さ」をすぐに感じ取ったといいます。それまでシャオミブランドについて詳しく知らなかった山内氏でしたが、「すごい会社に出会った」と感じ、これがコラボレーションの出発点となったのです。
新鮮だったシャオミの車作りと
Xiaomi SU7 Ultraへの「驚き」
シャオミは自動車分野に参入してまだ日が浅い企業です。販売も今のところ中国国内のみです。しかし、山内氏は「車のことを本当に愛し、車作りを楽しんでいる様子を強く感じた」と言います。最新のテクノロジーを使って車がどう面白くなるのかを、素直に、ピュアに追求している姿勢は、これまでの自動車業界の常識とは異なり、とても新鮮に見えたようです。

特に、フラッグシップモデルであるXiaomi SU7 Ultraを試乗した際の感想は「驚きました」の一言に尽きるそうです。「本当にトラック(サーキット)を全力で走ったんですけど、トラックを全開で走っても何ともないというか。こういう車が今存在するんだという驚きがありました」。ブレーキの効きやボディー剛性などが、ハードな走行にも耐えられるように作られている点に驚きを感じたといいます。電気自動車は全開走行が長いとバッテリーが熱ダレしてパフォーマンスが落ちる傾向にありますから、その仕上がりの良さを実感したのでしょう。

さらに、この車は非常にユニークな特性を持っていると山内氏は語ります。最大1548PSのパワー、0-100km/hが1.98秒という加速性能や350km/hを超える最高速度、そしてコーナリング時の前後横Gが「同じぐらい出る」ということ。具体的には1.4Gという数値を挙げ、「市販車でこういう車ってこれまでなかった」と、頭の中を切り替える必要を感じるほどだったそうです。これは、シャオミが独自開発した3モーター構成システム「HyperEngine V8」(27200rpm、578PS、635N・m)など、先進技術によるものといえるでしょう。
ニュルブルクリンク最速記録への挑戦
Xiaomi SU7 Ultraは、プロトタイプがグリーンヘルことドイツのニュルブルクリンク ノルドシュライフ(北コース)で4ドアEVセダン最速記録を樹立したことでも注目されています。この数値は以前のレコードホルダー、ポルシェのタイカン プロトタイプより20秒以上速いというから驚きです。

シャオミのテストドライバー兼車両性能開発責任者であるZhoucan Ren氏も、記録更新のために製品改良を続けたと言います。タイムアタックのために作られたプロトタイプではありましたが、量産車と同じテクノロジーとコンディションでの走行にこだわったとのこと。可能な限りの軽量化と性能向上に注力した結果、山内氏がテストで体感したとおり、加速・減速能力が向上したそうです。

Ren氏は、ニュルブルクリンクは非常に混雑したサーキットであり、良い走行タイミングを見つけるのが難しく、約1ヵ月待ってようやくアタックのチャンスを得たという劇的なプロセスだったと言います。それでもコース上にはウェットパッチ(コース内に点在する水たまり)があり、完全なドライコンディションであればさらに良いタイムが出ていたはずだ、と語るRen氏は少し悔しそうでした。
いつどのようにゲーム内に登場する?
GT7での忠実な再現と今後の展開
GT7では、シャオミEVとの共同開発を通じて、Xiaomi SU7 Ultraがゲーム内に忠実に再現されます。プレイヤーは、そのデザインと卓越したドライビング性能を、バーチャルな世界で体験できるようになります。現在中国でしか販売されていないですし、そもそも日本円で約1100万円のクルマなので、買える人が限られますが、GT7に登場すれば世界中の人がバーチャルで乗れるのです。


ゲーム内での入手方法について聞いたところ、いわゆる「カーマニュファクチャーブランド」としてブランドセントラル(自動車が買えるディーラー)に収録され、ゲーム内通貨で購入できる予定です。プレゼントカーや有料DLCとしての提供ではないとのこと。ただ、ゲーム内通貨といってもいくらくらいになるのか、PP(パフォーマンスポイント)がどのくらいになるのかはまだ未定。山内氏いわく「今、開発している最中です」とのことなので、もう少し時間がかかりそうです。
さて、「このパートナーシップは今回限りで終わるものではない」ことを山内氏は強調しました。もっと長期的なものであると明言しています。今後の展望として、シャオミとグランツーリスモは「Xiaomi VISION GRAN TURISMO」のコンセプトカーの開発においても、さらなる協力関係を築いていくとしています。また、山内氏が先日北京でXiaomi SU7の実車を見学し「かっこいい車でした」と語ったことから、いずれシャオミEVのほかのモデルが登場する可能性もありそうです。最近発表された「Xiaomi YU7」について訪ねたところ「ゲーム内に登場させてみたい」とも。
On 7 June, Polyphony Digital announced a collaboration between Xiaomi and Gran Turismo.
Headquartered in Beijing, China, Xiaomi announced their entrance to the EV market in 2021 before announcing their first production EV, the SU7, in 2024. Then the SU7 Ultra Prototype, which… pic.twitter.com/EtH1plN7Wq
— Gran Turismo (@thegranturismo) June 7, 2025
フィロソフィー(哲学)の共鳴と
2027年へのマイルストーン
今回のコラボレーションの最も大きな目的は、ポリフォニー・デジタルとシャオミのフィロソフィーやスピリットが共鳴したことだと、山内氏は語ります。単なる互いの利益のためのものではなく、思想的な共鳴が重要だったのです。


シャオミ側としては、まず自動車分野での能力や存在感を高めたいという目的があります。そして、グランツーリスモに収録されることで、ハイパフォーマンス車や最新テクノロジーに関心を持つコミュニティーとのエンゲージメントを高めたいという狙いもありました。
Xiaomi SU7 Ultraは、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、家電まで含む「Human×Car×Home」エコシステムを完成させたシャオミにとって、非常に重要な意味を持つ車両です。グランツーリスモとのコラボレーションは「シャオミが最高の技術を使って自動車業界のテクノロジーをここまで実現できる」という、2027年の世界自動車市場参入を目指すうえでの、シャオミにとって重要なマイルストーンの1つであるとRen氏は語りました。

シャオミは、スマートフォン、タブレット、ウェアラブルデバイス、家電、車といったさまざまなデバイスが、すべて同じOS、同じAIで動くというユニークなビジョンを持っています。山内氏は「これはテスラ、アップル、グーグルといったほかの大手Tech企業でもまだ実現できていないことであり、そういった困難なことを実現しようとしているシャオミは、これまでの自動車業界の常識では考えられない可能性を秘めている」と語り、今後のコラボレーションの発展に期待を示しました。


なお、スマートフォンなどとGT7のコラボはあるのかと訪ねましたが「今回は自動車だけのパートナーシップ」としたうえで「シャオミはとてもユニークに企業。今後、コラボ拡大もありかも」と、先が楽しみな回答が返ってきました。シャオミスマホのGTコラボバージョンなんて出たら、絶対買ってしまいそうです。
【まとめ】単なる車両が追加されただけではない
シャオミにとってもGTにとっても未来への第一歩
今回のシャオミとグランツーリスモのパートナーシップは、単なるゲームへの車両追加に留まらず、両社のフィロソフィーと技術への情熱が共鳴した結果であり、シャオミが目指す未来への重要な一歩となるようです。また、同社のスマホから車までを連携させる独自のビジョンは、これまでの自動車業界の常識を超える可能性を秘めています
そしてゲームの世界ではXiaomi SU7 Ultraがどのような走りを見せるのか、そして両社の今後の協力関係がどのように発展していくのか、大きな注目が集まることでしょう。
実装されたらXiaomi SU7 Ultraのワンメイクレースやタイムアタックなんかをやってみたいですね!
GTワールドシリーズ2025第1戦の結果
GTワールドシリーズ2025の開幕戦では、世界中から勝ち抜いてきた12名が争うネイションズカップと、日本人12人がメーカー別のクルマを操って勝敗を競うマニュファクチャラーズカップの2レースが開催されました。ダイジェストでレポートします。
まず最初にマニュファクチャラーズカップが開催。2回の予選(ノックアウト方式)を経て、決勝グリッドが決まります。コースはTokyo Expressway 南コース。決勝ではポールを獲ったBMWのS.SUZUKI選手と、フロントローのスバル・T.MIYAZONO選手がスタートから一歩抜きんでた速さを見せ、20周のレースも終盤にさしかかったところ、虎視眈々と背後でチャンスをうかがっていたMIYAZONO選手がしかけ、見事にオーバーテイク。逆転優勝を飾りました。2位には僅差でSUZUKI選手、3位には6番手スタートながら追い上げたマツダのR.KOKUBUN選手が入りました。



次は世界中の強豪が戦うネイションズカップ。予選方法は少し変わっていて、まずはタイムアタック、その結果がグリッド順になり5周のスプリントレース。さらにこの結果が決勝のグリッド順になりました。決勝レースは30周、マシンは「Red Bull X2019 Competition」のワンメイクです。長いのでタイヤチョイスとピットに入るタイミングが鍵になるレースでした。

予選から速さを見せていたスペインのJ.SERRANO選手とP.URRA選手が、決勝でもワンツーでスタート。ミディアムタイヤで走り始め、レースの折り返し付近ではさすがにタイヤのグリップが落ちてきてペースダウン。何度か抜かれましたが、残り10周の段階でスペインの両選手はピットイン。ソフトタイヤで勝負をしかけます。ほかの選手よりピットインを引っ張ったため、フレッシュタイヤの利を活かして25周目に再びワンツー体制で、そのままチェッカー。スペイン勢の速さが目立ったレースでした。

どれもハイレベルなレースで、普通のレース観戦と同じくらい熱くなってしまいました。機会があればぜひ観戦してみてください!
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