いきなり結論から申し上げると、大当り! 「コンパクトカーのお手本」と、たとえられるフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」は、コンパクトカーの秀作が数多くある現在でもやっぱりお手本でした。
そんな大当たりのゴルフ、中でもスポーティーグレードの「eTSI Rライン」をご紹介します。
誕生50周年を迎えた国民車「ゴルフ」

VW・ゴルフが登場したのは1974年のこと。横置き4気筒エンジンのFF車、イタルデザイン・ジウジアーロによるハッチバックボディーとパッケージング、そして高い運動性能により世界中で人気を集めました。

高い実用性を誇るハッチバックボディーに、エンジンとサスペンションをライトチューンした「ホットハッチ」を作ったのもゴルフと言われています。その代表グレードであるGTIはヨーロッパを中心に人気を集めました。

実用車であったゴルフが、高級路線に切り替わったのが1997年発売の4代目から。バリエーションも豊富になり、3.2L V6エンジンに4WDシステムを搭載したR32もラインアップに加わりました。

その後もゴルフは進化を続けていきます。パワーユニットはダウンサイズターボ化を推進したほか、運転支援機能や安全性などをブラシュアップしていきました。
こうして2019年の秋に、デジタル化と軽量化を進めた8代目が登場。そしてゴルフ誕生50周年を迎えた2024年に、電動化とデジタル化をいっそう進めたマイナーチェンジモデルがデビュー。今回紹介するのは、1.5L 4気筒直噴ターボにマイルドハイブリッド機構を取り付けたeTSI Rラインというモデルになります。
そして今回の試乗車は、オプションとしてディスカバーパッケージ(17万6000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円)が加わっているので、お値段は493万8000円に! ここまでくると国民車というよりプレミアム国民車と表現するのがよさそうな……。
【エクステリア】大きくなったと言われるけど
そんなに大きくなった?



ボディーサイズは全長4295×全幅1790×全高1475mmでホイールベースは2620mm。全長でいえばトヨタ「ヤリスクロス」や日産「キックス」、Honda「ヴェゼル」あたりでしょうか。
ゴルフは新型車が出るたびに「大きくなった」と言われがちです。この手の話は、ロングラン車種の新型にはつきもの。おそらく大きいという話は、初代の全長3725×全幅1610mmと比べて、だと思います。確かに国内の道路のうち8割は1970年以前に整備され、また70年以前の登録車の多くが5ナンバー(車幅1700mm以下)だったことから、5ナンバー車だったゴルフが3ナンバーになったのは抵抗を覚えるのでしょう。

ですが、3ナンバーになったとはいえ、普通に車庫枠に入ります。また、4代目の全長4020×全幅1695mmと比べ「言われるほどは大きくなっていない」のです。7代目の全長4265×全幅1799mmとほぼ同等か、わずかに小さくなっている程度。このへんでゴルフの大型化は止まるのではないでしょうか?
マイナーチェンジではフロントグリルとバンパー、それにLEDヘッドライトが新形状になり、VWエンブレムが光ります。精悍な印象を与えますが「あまり変わった感じがしない」という印象です。それゆえ、遠くから見ても「ゴルフだ」とわかるわけで、それだけデザイン的に完成されているのです。
【パワートレイン】パワーと燃費が高バランス

パワートレインは最高出力150馬力の1.5L 直4ターボ。これに最高出力19馬力のベルトスタータージェネレーター(モーター)が加わります。いわゆるマイルドハイブリッドで、スターターとしてエンジンを始動するとともに、ブーストする役目も担います。
燃費は高速道路7割、一般道3割で17km/h弱。同クラスの日本のハイブリッド車に比べると少し悪い程度でしょうか。


走行モードはエコ、コンフォート、スポーツ、カスタムとあり、カスタムでは細かく設定できます。モード切替によりアクセルレスポンス、サスペンションセッティング(減衰力調整)が変化します。
【インフォテインメント】A4サイズで使いやすい

大型化したインフォテインメントディスプレイのサイズは12.9インチ。簡単にいえば13インチのiPad Proとほぼ同じサイズで、かなりヌルヌルと動きます。ChatGPT採用の音声アシスタント「IDA」を搭載しているのですが、活舌の悪い筆者との相性はあまりよくなく……。



USBはすべてType-Cで、フロントに2系統、リアにも2系統を用意。ワイヤレス充電にも対応していますが、車両個体の問題かと思いますが、内部のサーボモーターの音がちょっと大きいように感じました。
【荷室】小型車だけど最大1231リットルと大容量!


荷室容積は381リットル。後席背もたれは60:40分割式なのは他社と同様ですが、長物を収納するのに便利なスキーホールを備えるのは好印象。また、12Vアクセサリーソケットも用意されている点も好印象です。

一方、プライバシートレイがただの板で、取り外したボードをどこに収納すればいいのかがわからないのが難点。フロア下かなと思ったら、パンク修理キットではなくタイヤが入っていて驚きました。
【車内】シンプルで嫌味のない大人の空間




室内はいたってシンプル。水平基調のデザインですので、拡がり感があります。触った感触も上々。華美な装飾がなく、また室内イルミネーションもスッキリデザインで好感を抱きました。


後席は大人がしっかり着座できる広さを確保。サイドシルは、このサイズのクルマとしては標準的な高さです。センタートンネルはやや高めで、大人が座るのは難しそう。センターコンソールには、エアコンの温度調整のほか充電用のUSB Type-Cポートを2系統用意しています。
【走行性能】いつまでも走っていたいコンパクトカー
驚いたのは走り。モータートルクの恩恵か適度に速く、何より車体の安定感が一級品! まるで氷上を滑るかのようなスムースな乗り味に、ただただ脱帽です。普段の街乗りが快適で楽しいのも美質。柔らかくもなく、硬くもなく。
【気になったところ 1】お値段は450万円とお高めに
これは仕方のないところですが、450万円というお値段は、大きさやブランドネームから考えるとちょっとお高いと感じてしまいます。日本のハイブリッド車なら、よりボディーサイズの大きな「シビック e:HEV」が買えますし、ブランドネームで語るならアウディの「A3」が視界に入ってきます。
【気になったところ 2】個性に乏しい優等生感
インテリアも使い勝手もインフォテインメントも、誰が使っても文句はない反面、VWらしさ、というのが希薄に感じました。国民車ゆえか、どこか最大公約数的で個性に乏しいような。ですが、ソツがないゆえの完成度の高さもあり。人間、ないものねだりだなと思う次第です。
【まとめ】目立たないでイイモノが欲しい人に
コンパクトカーで諸々500万円は高いと思うのですが、出来栄えは「さすが500万円」と感心しきり。そしてクルマから降り、エクステリアを見ながらイイモノ感を改めて感じます。遠くに離れると「普通のクルマ」という印象。
言い方を変えれば目立たないし、嫌味にならない。そういうところで「イイモノが欲しいけれど、目立ちたくない人」にピッタリのクルマではないかと感じました。
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