15車種のラインアップ中、8車種がSUVを占めるレクサス。それだけSUVが多いと何を選べばよいのかわからなくなりそう。
RZのFFモデルがオススメの理由
まず2つの条件とは何か。ひとつ目は価格。RZ300e Version Lの車両本体価格は820万円で、試乗した車両にはさらに66万5500円のオプションが加わり886万5500円。メルセデス・ベンツのGLC、BMWのX3、アウディ Q5などの輸入車が購入できる金額です。
「だったら輸入車を選ぶ」と思われそうですが、RZ300e Version Lには欧州車にはない魅力があるのです。

RZ300eは、トヨタ「bZ4X」のレクサス版。つまり電気自動車なので「充電環境があれば」というのが2つ目の条件。「電気自動車? 興味ないね」と、本稿を“そっ閉じ”しないでください。RZは今後のレクサスの方向性を示すクルマであり、本当にレクサスの現行ラインアップの中でRZ300eが最も魅力的なのですから。2つの条件が合えば、ですが……。
RZは、4WDのRZ450e Version Lと前輪駆動(FF)の300e Version Lという2グレード展開。RZ450eとRZ300eの価格差は60万円ですので、ちょっと頑張って4WDモデルの方がいいのでは? と思うことでしょう。



というのも「電気自動車は冬場、暖房を使うと航続距離が短くなる」と言われています。残念ながらRZ300e Version Lもその例に漏れません。外気温が10度以下の時にエアコンを入れない状態で262kmの航続可能距離だったとします。まず、ステアリングヒーターをシートヒーターをオンにしてみると262kmと変わらず。ですがエアコンを入れた途端、223kmと15%ほど短くなってしまいました。
ということは、493km走行できるとうたうRZ450e Version Lは、暖房をつけると約420kmしか走れない可能性が……。まあ、420kmも立派な数字ですが。しかし、RZ300e Version Lなら暖房をガンガンにつけても約500km走行可能で、理論上東京から大阪まで行けるということになります。これはすごい!
【レクサスで最も推しの1台と思う理由 その1】
使い勝手がよい設計



レクサスRZのボディーサイズは、全長4805×全幅1895×全高1635mm。全長と全幅はランドクルーザープラドやRXとあまり変わらない大きさの、ラージサイズSUVです。



さっそく、都心部のコインパーキングに入れてみると、全幅1.9mはやはり大きく、車庫枠に収まりません。さらに最小回転半径は5.6mなので、最初のうちは「思ったより曲がらない」と思うことでしょう。
その中でRZ300e Version Lはその中で車幅1.9mに留めているのは、昨今ではまだ良識的といいますか、優しいほうといえます。

駐車枠によってはうしろとの壁が近く、バックドアが開かないことがあります。ですが、RZはクーペスタイルなので、そこは問題ありません。これは使い勝手に大きく影響します。





さらにラゲッジ容積は522Lと大容量なうえに使い勝手が良好。まず、最大1500Wが出力できるAC100Vコンセントを用意。移動中にノートPCの充電ができるほか、キャンプ場でホットプレートや炊飯器などの家電が使えます。


プライバシートレイが折りたたみ式で、ラゲッジの床下に収納できるのも美質。大きな荷物を入れた時、プライバシートレイをどこに置けばよいかわからないクルマって、意外と多かったりします。ここらへんは実にきめ細やか。


ドアラッチは長いネイルの女性にとってはうれしい電動式。車内から出る時は親指で押すだけで解錠します。ちなみに、万が一電動ラッチが壊れたとしても、ラッチを2回引けば開きます。


さらに、ドアがサイドシルを覆う形状であるため、雨の時、ロングスカートの裾が濡れずらい配慮がなされています。また、サイドシルは立っていないので、跨いで乗車するようなこともありません。

さらに運転席だけでなく後席も貼り合わせガラスを採用し、電動ということも相まって室内はとても静寂。大きな声を出さなくても車内で会話が楽しめます。これも実に重要なところ。




試乗車はホワイトスムースレザーと青みがかったウルトラスエードのバイカラー「オラージュ」で彩られており、女性のハートをガッチリキャッチできそう。このカラーリングは輸入車ではあまり見かけません。もちろん座り心地は上々。特に後席はセンタートンネルがないため、座席間の移動がラクラクです。
自動車を購入する際、家庭がある場合はどうしてもパートナーの了承が必要になります。RZなら内装やしつらえだけで「このクルマにしましょう」と言われること間違いなさそうです。
【レクサスで最も推しの1台と思う理由 その2】
いつまでも乗っていたいと思わせる心地よさ

フロントに搭載する駆動用モーターは最高出力204馬力。最大トルク266N・mを発生します。


ロータリー式のシフトセレクターをDにセットして走り始めると、速くはないけれど、遅くもないという印象。試しに走行モードを見ると、レクサスでよく見かけた「SPORT+」モードはなくSPORTに一本化された様子。
切り替えるとレスポンスは俊敏になりますが、気分的に「そっちじゃない」という気持ちに。というのも、標準タイヤがRZ300eは18インチであるのに対し、RZ450eが20インチの設定だから。筆者がレクサスの営業マンなら「スポーティーさを求められるならRZ450eをどうぞ」とお話をすることでしょう。


オルガン式のアクセルペダルには遊びがなくポルシェ的だし、ステアリングも適度な重さがあるなど、乗用車的なダルい部分はありません。変な回生ブレーキの挙動はありません。

過去レクサス車の多くは、ラグジュアリーまたはスポーティーを全面に押し出していました。それが肩ひじを張ったようにも思え、それもまたレクサスの味なのかと思っていたのですが、RZ300e Version Lは、スポーティーらしさが薄まったことで自然体に。
電動車のトルクフルさと低重心さが相まって、ワンクラス上の品位の高いクルマに感じさせるのです。しっとりとした乗り味は、居心地の良さもあって、いつまでも乗っていたいと思わせ、つい寄り道したくなったり。肌合いのよいクルマというのを、過去のレクサス車で感じたことはありませんでした。
ついにレクサスは肩の力が抜け、見た目だけではない、真のラグジュアリーを手に入れたように思えるのです。これは新境地であり、これからのレクサス像のよう感じました。
【レクサスで最も推しの1台と思う理由 その3】
電費がとてもよい

いつまでも走っていたいと願っても、電力がなくなれば走れません。ですがRZ300e Version Lは筆者が乗った数多の電気自動車の中で、最も良いといえる電費5.3km/kWhを記録! テストは山梨方面へ片道150kmの往復で、高速道路で100km/h巡行しましたし、さらに言えばいくつもの峠を走りました。
このサイズのSUVは4km/kWhなかばくらい出れば上出来ですので、「トヨタはハイブリッドだけでなく、BEV(バッテリーEV)も燃費がいいのか!」とひとり驚嘆。



では充電はどうでしょうか? 最近、高速道路でよく見かけるニチコン製の90kW機で充電してみました。




スタートは29%でしたが、30分後には72%にまで回復しました。ちなみにレクサスの充電プランは3つあり、月額4950円のプランなら、30分の急速充電をした場合、1650円という計算になります。リッター180円のガソリンなら約9L分。これで150km分くらい走れるらしいので、リッター16kmのクルマと同等のコストパフォーマンスといえそうです。
さらに2025年7月からは、アウディやポルシェ、フォルクスワーゲンなどが所属する急速充電器ネットワーク「急速充電器ネットワーク プレミアム チャージング アライアンス(Premium Charging Alliance: PCA)」が利用できるとのこと。
プレミアムチャージングアライアンスは150kW級の高速充電ができるので、これは実に便利! 利用条件は「LEXUS Electrified Program」に加入し、専用アプリをスマホにインストール。充電器の予約などの操作をするとのこと。

高速道路でいえば、運転支援が気になるところですが、これもまたRZ300eは実に優秀であったことをご報告いたします。
【RZ300eで気になったところ】SUVにしては天井が低い


試乗車にはオプションとして電気的に曇りガラスにして遮光する「パノラマルーフ<IR・UVカット機能、Low-Eコート、調光機能>(26万9500円)」が取り付けられていました。「おぉコレは素敵!」と思ったのですが、筆者の過去の経験でいえば、この手のグラスルーフは断熱性能が普通のルーフに比べて劣るため、夏は暑くて冬は寒かったりします。
「自分がこのクルマを買うなら、このルーフはイラナイなぁ」と思って天井に触れてみると……、身長185cmの筆者がシートを最も下げた状態で頭とグラスルーフの隙間は約10cm程度しかありません。おそらくグラスルーフでない仕様では、頭髪が擦れるか擦れないか、ではないかと思います。
全高1635mmのSUVとしては普通の高さだと思いますが、おそらく床面にバッテリーを敷き詰めていることで、シート座面が上がったのではないかと推測しました。
【RZ300eにピッタリな人】充電環境があり、家族との時間を大切にしたい人
47)普通にイイクルマなRZ300e Version L。家族や友達と、静かで上質な移動時間を過ごすことを望むなら、このクルマはピッタリの1台といえるでしょう。しかも充電ナシで片道200kmの快適なワンデードライブに対応できそうな実力の持ち主。侮れません。
「お金があって、借りている駐車場に充電環境があれば」という2つの高いハードルが悩みの種であり、それを乗り越えられない己の不甲斐なさを呪いつつも、出来栄えのよいRZ300e Version Lの誕生を心より喜びたいと思います。レクサスのこれからに期待できそうです!
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