ロータス/エレトレR(2324万3000円)

 ポルシェにランボルギーニ。そして自ら認めてはいないものの、フェラーリといったスポーツカーブランドがSUVを販売するのは珍しい話ではなくなった。

それでも2022年にロータスがエレトレを発表した時は、「ロータス、お前もか」と落胆した。しかもラグジュアリーなBEV(バッテリーEV)ということに、「コーリン・チャップマン(創業者)が泣いているぞ」などと勝手に思っていた。


 こうしたわだかまりを抱いたまま、ロータス初の4ドアSUVの「エレトレ」に触れた。試乗を終え、自分の考えが浅はかだったことに気づくとともに、ジャーマン・スリー(BMW、メルセデス・ベンツ、アウディ)のラグジュアリーBEV(バッテリーEV)のSUVより心が傾いていることを告白する。


紆余曲折の末、高級BEVブランドへ
ロータスの歴史を知ってほしい

ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
Bピラーに取り付けられたエンブレム

 1948年に創業し、70年近い歴史を有する自動車ビルダーであるロータス。我が国では漫画「サーキットの狼」で主人公が駆るロータス「ヨーロッパSP」で青少年の心を熱くした。モータースポーツ好きなら、日本人初のF1パイロット、中嶋 悟さんの愛車としても知られていることだろう。007のボンドカーや「氷の微笑」でシャロン・ストーンの愛車として銀幕を彩ったこともあった。


 その名門は、創業者のコーリン・チャップマンが急逝した80年代から経営難に陥っていた。86年には米・ゼネラルモーターズの傘下に入ると、街の遊撃手であるいすゞ・ジェミニの「ハンドリング by ロータス」(88年)など、オペルやいすゞのスペシャルモデルを担当した。


 だが、経営難であることには変わりなく、93年にブガッティを所有するロマーノ・アルティオーリの元へ。しかしブガッティも95年に破産し、96年からマレーシアのプロトン傘下となった。


 プロトン時代、タイプ111「エリーゼ」が大成功を収め経営危機から脱却。

その後、エキシージなどの派生モデルと、2009年に4人乗りのスポーツカー「エヴォーラ」を発売した。


 時を同じくして、フェラーリの副社長だったダニー・バハールがCEOに就任するや「英国のフェラーリ化」路線を掲げ、ライトウェイトスポーツから高級スポーツまで車種を揃える拡大路線へ方針転換した。これで名門復活と思いきや、親会社ともども経営が悪化。2012年、プロトンは投資家であるDRBヒルコムに売却されることに……。ダニー・バハールは解雇され、再び冬の時代を迎えたのだった。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 2017年にボルボも傘下に収める中国の吉利汽車控股有限公司(ジーリー・オートモービル)に加わると体制を一新。それまで本社、開発、工場を英国ノーフォーク州ヘセルに集中させていたものを、へセルは本社機能と企画部門、開発はドイツ・ラインハウムに新設したGIC(ドイツイノベーションセンター)、生産は中国・武漢、さらにマーケティングとPRはドバイと、グローバル企業に生まれ変わった。


 それに伴ってか、従来のライトウェイトスポーツブランドからスポーティーでラグジュアリーなBEVブランドへと転身した。まずは2021年にフラグシップスポーツで2000馬力のハイパーBEV「エヴァイア」(4億円!)を発表すると、エヴォーラの後継にして、最後のミッドシップのガソリンエンジン車として「エミーラ」をリリース。そして2022年に「エレトレ」、2023年に5ドアのGTカー「エメヤ」を発売し現在に至る。


先進的で実用的、それがエレトレ

ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
ロータス/エレトレR

 エレトレはベースモデル(1578万5000円)のほか、充実装備が魅力の「エレトレS(1905万2000円)」、速さを追い求めた「エレトレR(2324万3000円)」の3種類を用意する。すべて四輪駆動車で、エレトレとエレトレSは最高出力612馬力、エレトレRに至っては918馬力と、世界で最もパワフルなSUVといってもよい。今回はそのハイパフォーマンスモデルをお借りしたので、そちらをレビューする。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
全幅2019×全高1636mm
ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
全長5103mm
ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
リアビュー

 エレトレを目の前にして、思わず「大きい」と心の声が漏れた。ボディーサイズは全長5103×全幅2019×全高1636mmもあり、ホイールベース(前輪と後輪の間)も3mを越える。サイズや価格からして、ライバルはメルセデス・ベンツの「EQS SUV」、BMW「iX」、アウディ「Q8」あたりだろう。


 フロントボンネットには黄色いロータスのバッジが輝く。リアにもLOTUSの文字(エンブレム)があるのだが、ボディーと同色で視認できない。それゆえ知人と会うたびに「どこのクルマ?」と尋ねられ、ロータスと答えると驚きの声があがった。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 高級車が珍しくない広尾や六本木でも、街行く人から痛いほどの視線を感じた。その特異な形はもちろんのこと、レーシングカーで見られるホイールハウス内の乱流抜きなど、効果的なエアロデバイスがあちこちに設けられており、それが“本物感”として人々の注目を集めたに違いない。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 さらにスポーツグレードのエレトレRでは、あちこちに取り付けられたカーボンパーツや、23インチの大径タイヤが設けられていた。高級車に見慣れた人にしても、只事ではない何かを感じ取っただろう。


広がる積載空間と実用性バツグンのユーティリティー

ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 バックドアを開けて荷室をチェック。大型SUVらしく、後席を使う状態で688L、後席を倒すと1532Lと桁違いの容量を誇る。大きな荷物が出し入れしやすいよう、ハンズフリードアのほか、後輪だけ車高を下げる機能も用意される。

アメニティーの面でもポータブル電源の充電に便利な12Vのアクセサリーソケットも用意する。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 ちなみにボンネットを開けると、46Lのストレージも用意されており、充電ケーブルなどを収納するのに活用できそうだ。


EV性能と充電、走行可能距離は最大600km!

ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 電気自動車といえば、一充電の航続距離が気になるところ。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は112kWhで、一般的なAC充電(3kWh)を利用した場合、充電時間は電欠状態から満充電まで37時間以上かかる計算になる。


 満充電時の航続距離は、エレトレが600km、エレトレSが570km、そしてエレトレRが490kmの走行が可能だという。ライバルたちに比べると少しだけ短いが、それでもベースグレードとエレトレSは600km近く走行できるので、東京から大阪まで無充電で行けそうだ。


上質なインテリアと最新技術てんこ盛りのコックピット

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 ドアを開けるには、専用のカードキーをBピラーに当てる、または“おむすび型”のワイヤレスキーを近づけると、ドアノブが飛び出してくる。


 一方、物理的なキーがないので、バッテリーが上がったらどうするのかが気になるところ。何か対策しているだろうが。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 ドアがピラーまで覆っていることに気づいた。これは雨などでボディーが濡れている時、ロングスカートの裾が濡れづらいという配慮だろう。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 ドアを見て気づいたのが、前席だけでなく後席も遮音性に効果の高い貼り合わせガラスを採用していた。そして英国KEFの同軸ユニットが目に飛び込んできた。KEFは60年以上にわたりホームエンターテインメントでは知られた存在だが、カーオーディオは初。

ラグジュアリー初のロータスと相まって初物同士の組合せだ。


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 今回取材するエレトレRの車内は、スエード調レザーに赤いステッチというスポーティな雰囲気で満ちている。六角形のステアリングホイールと、巨大なセンターディスプレイが目を引く。ディスプレイは15.1インチの有機ELで輝度が高く明るい場所でも見やすかった。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 使ってみると、どこかテスラを思い出す。そういえばテスラの最初に車両「ロードスター」はロータスの車両をベースにしていた。その関係が今も続いているのかと思ったが無関係とのこと。ちなみに、OSの名前はLOTUS Hyper OSと名付けられている。「ロータスにこのような技術力があったのか」と感心させられた。


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 USBポートはすべてType-Cで、運転席側がアームレスト内部に2ポート、後席側が座面中央部に2ポート備える。車両とつながるのはアームレスト内部の助手席側で、Apple CarPlayとAndroid Autoに対応する。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 走行モードは数多く、エレトレRにはトラックモードも用意されていた。

選択するとESCオフと表示されるほか、残走行距離も一気に減る。さらにスポーツモードとトラックモードではシートのサイドプロテクターが膨らみサポート力がアップする。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 そのモード切替はステアリングホイール右手側のパドルスイッチで行なうのが目新しい。パドルスイッチはバタフライタイプで、上側と下側でサイクリック(繰り返し)動作する。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 天井面は透明/不透明の切り替えが可能な、インテリジェントパノラミックガラスルーフが装着され解放感たっぷり。


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ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 後席も広く、床面はほぼフラット。座面も広く、家族はもちろんのこと、取引先の上役などVIPから文句のひとつも出ないことだろう。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
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 後席はリクライニング機構があり、センターコンソールの液晶ディスプレイで調整可能。リクライニング機構を動かすと、荷室のプライバシートレイが少し動いていることがわかった。「ここまでやるのか?」「本当にロータスなのか?」と良い意味で驚かされる。とても初めてラグジュアリーカーを作ったとは思えない仕立てで、他車をかなり研究したことと、優秀なエンジニアが在籍していることをうかがわせた。


とんでもないパワーだが走りはスマート
エレトレは二面性のあるクルマだ

 試乗車は900馬力を超えるスポーツグレード。BMWのXMレーベルのような硬さがあるのでは? と覚悟した。

だが街乗りはわずかに芯の硬さを覚えるものの、しなやかな乗り味。一言でいえば極上で、ライバルたちに対して一歩も引けをとらない。ドイツのライバルたちほどの剛体感は薄いのだが、それゆえにクルマ全体で振動を吸収していると印象を受けた。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ
ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 アクセルペダルはワンペダル動作にも対応。ステアリングホイール左手側のパドルスイッチで回生が4段階まで調整ができる。街乗りでは便利そのもの。ADASもしっかりしており、車線をはみ出せばパワーステアリングでグイッと戻そうとするし、高速道路では車線監視機能付きアダプティブクルーズ(前走車追従)が実に優秀。ライントレース機能がすこぶる高い。


 運転しながら気づくのは、シートポジションの良さ。ヒップポイントが深く、少し足を伸ばすような、ちょっとレーシーなポジション。乗用車っぽくないので、長時間ドライブもラクだろう。


 圧巻はワンペダル動作状態でのスポーツモード。アクセルペダルの加減で、並みのスポーツカーは裸足で逃げ出すほど、とんでもない加速をみせる。直線番長だと思いきやとんでもない。大型SUVとは思えないほどグングン曲がる。普段乗りは快適、アクセルを踏めばとんでもなく速い。電気の力を思い知るとともに、ライバルにはない魅力に虜になった。


良いモノを良いと見抜ける人に(ロータスは)オススメできる

ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 ラグジュアリー市場に舵を切ったロータス。「こんなのロータスじゃない!」という気持ちもわからなくもない。だが、その実質第1弾といえるSUV・エレトレは、ラグジュアリー市場を研究し、そして見事な答えを導いてきたように感じた。


 そして、ただ豪華装備にしたのではなく、運転の楽しさを与えた。ドイツのライバルたちではなく、ロータスを選ぶ価値は確かにあるし、価格的満足度はかなり高いと断言する。


ロータスのEV「エレトレ」はブランド名ではなく己の審美眼を信じる人に似合うクルマ

 ブランド力ではジャーマン・スリーに及ばないものの、ドライバビリティーの良さ、使い勝手の良さに軍配を挙げざるを得ない。名前ではなく、真に良いものを手に入れたい人にオススメしたい1台だ。これからのロータスに注目したい。


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