ヒョンデ「IONIQ 5 N」 価格:858万円~

 電気自動車って走りが面白くないんでしょ? そんな風に思ってた時代が俺にもありました……。


 電気自動車(EV)は電力でモーターを動かして走るため、ガソリンをぶちまけてエネルギーを発生させるエンジンが必要ありません。

それはメリットなのですが、反面、ガソリン車ならではの力強い加速感などがスポイルされている……とも言われています。


 果たして、本当にそうなのか? 韓国ヒョンデのEVスポーツカー「IONIQ 5 N」を長期間お借りしたので、EVのメリットやデメリットを紹介します。


日本に再参入したヒョンデは
世界シェアは3位の巨大メーカー

 みなさんはヒョンデと聞いてどんなイメージを持ちますか? 一度日本から撤退している、EVが燃えたなどのネガティブなイメージが先行しているかもしれません。たしかにそれは事実なのですが、現在ではトヨタ、フォルクスワーゲングループに次ぐ世界3位のメーカーなのです。日本ではシェアは少ないものの、海外では結構走っているクルマを見かけます。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 そんなヒョンデが日本への再参入として投入したのがSUVの「IONIQ 5」です。今回紹介するIONIQ 5 Nは、「IONIQ 5」をベースに、同社のスポーツ部門である「N」がチューニングしたスポーツEVなのです。Nブランドのトップに以前インタビューをしましたが、この方も生粋のクルマ好きで「EVだからスポーツ走行できないと思われるのは心外!」と、このクルマを作ったそうです(EVなのにドリフト!? 変速ショックもあるヒョンデ「IONIQ 5N」に新 唯も興奮!)。


 IONIQ 5 Nは海外ではワンメイクレースを開催していたり、オーナーズミーティングも盛んに行なわれています。日本でも自動車系イベントでドリフト仕様をデモランさせたり、ラリージャパンに参戦したりなど(ヒョンデはフル参戦だから来て当然ですが)、スポーツのイメージを全面に打ち出しています。ちなみに、Nブランドは日産の「NISMO」やメルセデス・ベンツの「AMG」のような存在です。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

スポーツモードでの演出が
クルマ好きの琴線に触れる

 筆者はノーマルのIONIQ 5にも乗ったことがありますが、正直なところあまりピンと来ませんでした。クルマ自体のデキはいいのですが、ゆえに退屈というか、ノーマルとNでは、まったくの別モノでした。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 まず最高出力が650PSという部分に驚かされます。

ノーマルのIONIQ 5が229PSなので、約3倍近いパワーです。トルクもIONIQ 5が350NmでIONIQ 5 Nは770Nmと、こちらも倍。これだけ性能がアップしているということで、ボディーにもかなり多くの補強が入っているんだとか。


 乗ってみてすぐに混乱するのがスイッチの多さ。最近は物理スイッチを減らすメーカーが多い中、IONIQ 5 Nには謎なボタンがたくさんあります。とりあえず左上の水色のスイッチがドライブモードの選択なので、ここからスポーツモードに変更し出発。今回は千葉県から会津若松市までの300km超のロングドライブです。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 一般道でもノーマルよりスポーツモードが快適です。それはアクセルレスポンスがいいから。踏めばスッと加速してくれます。ノーマルモードだとエコ寄りなので、アクセルをある程度踏み込まないと加速しないし、加速感もゆっくりです。


 え、今EVに乗ってるよね? と思ってしまうのが、エンジン車のような演出。

たとえば、目の前のディスプレーにはタコメーターが表示され(もちろん演出です)、回転数合わせてに音も変わっていく、減速する際にブリッピング(空ぶかし)をするなど、さすがクルマ好きが作っただけあります。面白いのがレッドゾーンまで回すと、ガクンと一瞬減速してしっかりフューエルカットのような動きをすることです(エンジン車はレッドゾーンまで回すとエンジン保護のリミッターが働いて燃料カットされます)。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
レッドゾーンになると針の動きやフューエルカット(燃料カット)のような動きをします。スポーツカー好きなら「おほ~!」とうなってしまいます

 パドルシフトではシフトアップ、シフトダウンの演出もあります。シフトアップすればシフトショックがありますし、シフトダウンではマフラーからのパンッという音も出ます。もちろん、IONIQ 5 Nにはギアボックスもマフラーもありません。


 スポーツカー好きにはたまらない演出です。エンジンもギアボックスもないEVなのにここまでこだわっているなら、ガソリン車でもいいんじゃ……と思ってしまいますが、EVでやるから楽しいのです。


大きなボディーだからこその車内空間

 筆者の愛車は2ドアのコンパクトカーなので、家族4人で出かけるときは非常に窮屈です。IONIQ 5 Nは全長4715×全幅1940×全高1625mm、ホイールベース3000mmというサイズで、後部座席も足下まで広々なので、家族からの評判が非常に良かったのです。前側のシートがセミバケットシートで、ホールド感もよく、さらにシートエアコン搭載で暑い時期でも背中が蒸れません。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
横幅が大きいので、駐車場では横に注意したいところ。ぶつけるだけでなく、ぶつけられないように……
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荷室はかなり広くとられています

 後部座席にもUSB Type-Cのコネクターがあるので、後ろに座った人も安心してスマホやタブレットが使えます。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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 高速道路を走るとホイールベース3000mmが地味に効いていて、直進安定性がかなり良いです。ハンドルを小刻みに動かしてクルマの体勢を整える必要がほとんどないので、長距離運転でも疲れませんでした。優秀なクルーズコントロールと合わせて、高速移動は非常に優秀です。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
家族で移動したので、チャイルドシートを設置。かなり足下も広いので、子どももストレスを感じなかったようで、すぐ寝ました

刺激が強すぎて思わずアクセルを抜いてしまう

 IONIQ 5 Nはスポーツカー的な演出が優れているだけのクルマではありません。自ら「ハイパフォーマンスEV」と呼ぶだけあって、走行性能も非常に高いのです。高速を走っているときに、ついつい好奇心に逆らえず、ハンドル右上の「NGB」を推してみました。これは「N Grin Boost」という10秒間だけMAXパワーの650PSを絞り出すもの(通常は609PS)。このNGBを使うと0-100km/h加速は3.4秒というからおそろしいですね。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 それまでクルーズコントロールでタラタラ走っていたところ、NGBを押してアクセルを踏んだ瞬間、背中からヒンヤリした汗が……。これは公道で使うものではない、と10秒も経たないうちにアクセルを抜きました。家族フル乗車で押すもんじゃありません。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 実は以前の試乗会ではサーキットでこのNGBを体験しましたが、そのときはサーキットだったこともあって、そこまでビビりませんでしたが、公道では危険ですね。

最近のスーパーカー(高級車)は、軒並み「Trackモード」というサーキット専用モードがありますが、IONIQ 5 Nは約850万円でこの機能が楽しめると考えたら安いかも。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 EVは高負荷の長時間走行に弱いと言われており、耐久レースなどには向かないイメージがありますが、IONIQ 5 Nには「スプリントモード」と「エンデュランスモード」があり、バッテリーの負荷を最小限に速く走ったり、長距離を走ったりできるのです。今回はこのモードは使いませんでしたが。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
エンジン音(?)も3種類から選べます。SuperSonicはこのまま離陸するんじゃ……という雰囲気の音でした

「楽しい」と「エコ」のジレンマ

 IONIQ 5 Nはクルマとしてのデキの良さだけなく、クルマ好きを唸らせるギミックが随所にあり、かつ同じようなスペックのスーパーカーより安い(約850万円)というEVです。


 しかし、今回長距離を走ってEVならではのデメリットを身をもって体験しました。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 それはスポーツモードなどのハイパフォーマンスモードで走ると、みるみる航続距離が減っていくのです。これはガソリン車でも同じなのですが、ガソリンスタンドと充電ステーションの数を比較すると、かなり心配になります。


 カタログ値では一充電あたりの走行距離は561km。しかし、エアコンつけたり音楽聴いたりしながらスポーツモードでパドルシフトしながら走っていたら、気がつけば会津若松までたどり着けるか否かというレベルまで電池が減っていました。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 なので、数々の楽しい演出で気持ちのいいドライブをしたいところ、次の充電ポイントまでエアコンを切ってエコモードでの走行をしました。


 走りを取るか航続距離を取るか、楽しさとエコのアンビバレンツが悩ましいクルマと言えるでしょう。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

 あとは車体の大きさも日本ではデメリットかもしれません。

なにせ全幅1940mmはフェラーリやランボルギーニと同じようなサイズです。ホイールベース3000mmも駐車場だと先端がはみ出してしまうほど。狭い道、駐車場を避けて運転する必要があり、実はこの部分が一番ストレスでした。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット

満足な充電スポットが少ない問題

 これはIONIQ 5 Nに限った話ではなく、EV全体の問題であり、もはや国が率先して旗を振っていかないといけませんが、あまりにも地方に充電スポットが見あたりません。現在はかなり数が増えていますし、特に都内では困ることはありませんが、地方や高速道路上での急速充電器の数が足りていないように感じます。3~6kWの普通充電器は多いのですが。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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 また、50~150kWの急速充電器はディーラーに設置されていることも多いのですが、ディーラーによっては休業中は貸し出していなかったりで、せっかく立ち寄っても入れないから充電できないなんてこともありました。あとは他メーカーのクルマに乗ってディーラーに入って充電できる根性も必要です(筆者は日産とメルセデスのディーラーにお世話になりました)。


 今回、高速道路の充電器も使いましたが、大きめのサービスエリアでも急速充電器が1台しかないところもあり、先約がすでにいると「充電完了するのは1時間後かあ」と、EVの旅行では時間に余裕を持たないといけない(充電の時間を考慮しないといけない)と思い知らされました。さらに、場所によって急速充電の出力が違うので、同じ30分の充電でも10%→30%だったり、10%→50%だったりと「あれ、思ったり充電できてなくね?」となることも。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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 筆者が使っていた充電プランはだいたい30分で2000~3000円くらいでしたが、会津若松に行くまでに4回充電(高速2回、会津で2回)しており、千葉に戻ってからも広報車返却のため2回ほど充電しています。最初からエコモードで走っていればもう少し充電回数を減らせたかもしれませんが、仕方ありません。スポーツモードが楽しすぎるから。


 EVは家に充電器があるかないかでもコストが変わりますので、一概にガソリンとEV、どっちがオトクかは判断できません。もし家に充電器を設置できて、あまり遠出をしないのであれば、ガソリン代が高騰する中、EVという選択は最適です。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
場所によってはまったく手入れされていないのか、画面が見づらい充電器も。というかほとんど見えない……
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うっすら見えてますが、太陽光で非常に見づらくて、カンで操作しました
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高速道路でもこんな感じですが、これはまだ見やすいほうです

 ちなみに、スマホと違ってバッテリーは満充電にはなりません。80~90%くらいでストッパーが働きます。これはバッテリーを守るためです。30分充電を2回連続で行なうのもバッテリーが高温になるので推奨されません。しばらく時間をおいたほうがいいでしょう。


 試乗会や広報車を借りて2~3日ちょろっと乗るだけでは、以上のようなデメリットにも気がつかなかったと思うので長期間貸していただいたヒョンデには感謝です。


【まとめ】そろそろ普通のEVに飽きてきた人は検討を!

 以上、EVならではのデメリットもありますが、クルマとしては非常にデキがよく、なにより乗っていて楽しいのです。運転するならドライブが楽しいのはこれ以上ない条件ではないでしょうか。車内も広いので、長距離を走るグランドツアラー的にも使えます(ただし充電ポイントは事前に調べておきましょう)。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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 また、ノーマルのIONIQ 5よりも乗り心地が良く感じたのは足周りが電子制御ダンパーだからかもしれません。


 使いこなすには機能が多すぎだとは思いますが、逆にそれだけ楽しめるということ。最近はサーキットにも充電器があったりしますので、サーキットで全開走行して、休憩や後片付けしながら充電して、サーキットをあとにする、なんてこともできるでしょう。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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 オーナーイベントが開催されるほどオーナーも多いので(海外に比べるとまだまだですが)、情報交換もできそうです。


 ほかのEVと比べると、明らかに異質でやりすぎ(褒め言葉)な存在のIONIQ 5 N。ちょっとお金に余裕があって、人と同じクルマには乗りたくないという人には、ぜひとも選択肢に加えてもらいたい1台でした。


IONIQ 5 Nに2週間乗って実感した遊び心と快適さ、そしてEVゆえのメリット・デメリット
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