8月下旬に、マツダとユーグレナ、平野石油、いすゞによる法人向けの「次世代バイオディーゼル体験会」が実施されました。どのようなイベントであり、どんな狙いがあったのかを紹介します。

軽油に替わるCN(カーボンニュートラル)燃料
マツダとユーグレナ、平野石油、いすゞによる、次世代バイオディーゼル体験会ですが、これはユーグレナが製造・販売するバイオディーゼル燃料「サステオ」を使って、マツダといすゞのディーゼル・エンジン車を社用車で走らせれば、企業としてのCO2排出量を減らせるということをアピールするものです。
サステオは、ミドリムシや植物油由来の廃油から作られるHVO(水素化植物油)を軽油に51%混ぜたものです。HVOだけならば、実質CO2排出ゼロのいわゆるCN(カーボンニュートラル)燃料となりますが、現行の法規・税制にあわせて、サステオは軽油との51%混合になっています。

サステオの特徴は、軽油と同等の性能を持っており、従来のディーゼル・エンジン車に軽油代わりにそのまま使えることです。この特性は「ドロップイン」と呼ばれます。そのため普段使う軽油を、サステオに替えるだけで、簡単にCO2排出量を約半分に減らすことができるのです。ちなみに、現在のサステオの販売価格は、軽油の3倍程度で、将来的には2倍程度を目指すそうです。
そして、平野石油はサステオを給油するための簡易給油機を開発、販売しています。
つまり、今回の主催である4社の関係は、ユーグレナで作った次世代バイオディーゼルを平野石油の給油機で給油し、マツダといすゞのディーゼル・エンジン車で走るという取り組みなのです。

国を挙げて次世代燃料を導入していく!
イベントで最初にプレゼンを行ったのは、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部燃料供給基盤整備課の東 哲也氏です。東氏は「日本の道路交通部門における基本戦略はマルチパスウェイ戦略である」と説明します。日本はEV/FCV(燃料電池車)だけでなく、バイオ燃料や合成燃料といった持続可能燃料を使うHEV(ハイブリッド)なども組み合わせて、交通部門のCNを目指していくというのです。

次世代のCNといえば、「電気や水素などを燃料に」と考えがちですが、東氏は「エネルギー密度の高い液体燃料は重要だ」と強調します。
そのため国としては、ガソリン代替となる合成燃料(e-fuel)の商用化に向けたロードマップを策定・公表しています。それには2030~2034年の合成燃料商用化、2035年~39年の生産量拡大とあります。2030年代前半での商用化を目指すのが方針です。

同様に、ガソリン代替のバイオエタノールに関しては、2030年度までに最大濃度10%の低炭素ガソリン(E10)の供給開始を目指し、2040年度からは、最大濃度20%(E20)の供給を開始する方針です。一方、新車メーカーに対しては、2030年代のなるべく早い時点での、新車販売におけるE20対応車の比率100%を求めるそうです。
そして軽油代替のバイオディーゼルは、航空機燃料であるSAFの連産品としてHVO生産を期待しており、規格や税制上の取り扱いを検討する必要があると述べていました。
使うところでのCO2排出量削減が重要に
続いて登壇したのはマツダの専務執行役員兼CSO(最高戦略責任者)でカーボンニュートラル推進統括補佐の小島岳二氏です。小島氏は、企業に求められるCO2排出量の情報開示がより厳格化され、スコープ3(サプライチェーン全体)まで及んでくることを指摘します。特にクルマに関して言えば、製造時よりも、運用時の「クルマを使う」際のCO2排出量が多いため、サプライチェーン全体での連携した取り組みが必要であると説明します。

そして、いくつかある次世代のCN燃料のうち、HVOはグローバルでの量産化や利用が進展しており、「今すぐにCO2削減が可能な燃料」であると強調しました。そして、マツダ車を使った試算によると、HVOを使用することで、従来のディーゼル車だけでなく、EVよりもCO2排出が少ないというのです。また、経済性でも5年のリース契約で比較すると、HVOの価格が軽油の2~3倍であってもEVよりも安価になるそうです。

そしてマツダは、ユーグレナ、平野石油、三井住友銀行と組んで、2025年4月より、サステオを使った運用を開始。CO2削減だけでなくBCP(災害などの非常時も事業を継続させる)対策の2つを狙うモデルを生み出しています。
バイオ燃料の普及に向けたユーグレナの取り組み
続いての登壇は、サステオを製造販売するユーグレナの上席執行役員カンパニー長の新田直氏でした。新田氏は、ユーグレナの紹介に始まり、日本でのバイオ燃料普及の遅れ、そしてバイオ燃料そのものの説明、そして社会実装に向けての取り組みを説明しました。

ユーグレナは、「Sustainability First」を経営哲学に「人と地球を健康にする」をパーパス(存在意義)とする企業です。ミドリムシを使ったバイオマスで、食物や繊維、燃料まで幅広い領域で事業を展開しています。緑色のネクタイをした社長が特に有名です。
そのユーグレナが提供する次世代バイオディーゼル燃料がサステオとなります。ミドリムシや植物油由来の廃油から作られたHVO(水素化植物油)を軽油に51%配合したもので、軽油規格に適合しているのが特徴です。ちなみに実証製造ではミドリムシを使用していましたが、コスト低減のために現在は廃油を使用しているとか。

また現在、マレーシアにおいて大規模な商業プラントを建設中であり、完成後は年間約10万キロリットルのバイオ燃料を日本に供給する計画だそうです。当初は廃油由来で製造しますが、将来的には微細藻類などのバイオマス原料の使用も目指しているそうです。
次世代バイオディーゼル燃料と平野石油の簡易給油機
平野石油は代表取締役の平野賢一郎氏が登壇し、平野石油の紹介と、サステオと簡易給油機を使った脱炭素とBCP対策の提案が行なわれました。

平野石油は、1都1府8県、全国21の営業所を持つ燃料配送の会社です。提携会社を通じて、日本全国に燃料を配送することが可能です。そんな平野石油は、これまで東日本大震災をはじめ、全国各地の災害地への燃料搬送を実施してきた経験があります。そうした経験から、燃料として軽油は、ガソリンよりも扱いやすく、車両だけでなく発電機にも使えるなど汎用性が高いため、災害時に有用な燃料だと言います。

そんな軽油を、より手軽に扱うために平野石油は、190リッターの次世代バイオディーゼル燃料のための簡易給油機を開発しました。これは容量が小さいため、消防法の規制外となり、普通のビルの地下駐車場などにも設置が可能となります。

そして、平野石油としては、次世代バイオディーゼル燃料のサステオと簡易給油機をセットで使うことで、“脱炭素”と“BCP対策(災害時の事業継続)”に役立てることを提案しました。簡易給油機に備えたサステオを、平時は社用車の燃料に使って脱炭素とし、有事の際はBCP対策の緊急用の燃料として利用しようというものです。まさに一石二鳥を実現する施策となります。
バイオディーゼル燃料でのCO2削減を実現する
マツダのエンジン
平野石油に続いて、再びマツダのプレゼンが行なわれました。今度のプレゼンターはパワートレイン開発本部エンジン性能開発部首席エンジニアの志茂大輔氏です。志茂氏は、主に次世代バイオディーゼル燃料を使う、マツダのディーゼル・エンジンである「e-SKYACTIV D3.3」の説明をしました。

「e-SKYACTIV D3.3」は、マツダの「CX-60」と「CX-80」に搭載される、3.3リッターの直列6気筒ディーゼル・エンジンです。

その「e-SKYACTIV D3.3」は、次世代バイオディーゼル燃料となるHVOのサステオに対して、しっかりとした性能調整がなされており、そのまま燃料タンクに入れて使える、いわゆるドロップインが実現しています。そして、HVOを50%ブレンドした混合軽油燃料と「e-SKYACTIV D3.3」を組み合わせると、車両のライフサイクルを通じての大幅なCO2削減が可能であり、そのポテンシャルは日本の現状での電源構成のEVをもしのぐというのです。

商用車のCN実現に向けたいすゞの取り組み
マツダに続いたのがいすゞ自動車の執行役員SVP渉外担当の古川和成氏です。商用車メーカーであるいすゞの古川氏は「商用車は、働ける、環境に優しい、事業者に優しい(経済合理性)が必要」だと説明します。そのため商用車のCN(カーボンニュートラル)は、マルチパスウェイでの対応が必要だと強調します。そして、そのひとつの方策がCN燃料だというのです。
いすゞでは2014年からユーグレナと共同でバイオディーゼル燃料を開発してきた歴史がある
そんな、いすゞは2014年からユーグレナと次世代バイオディーゼル燃料の共同研究をしてきました。いすゞの工場内でのバスの実証走行を2014年からスタートし、2024年10月からはHVO51%混合燃料での通勤バスへの使用を開始。2025年3月には、ユーグレナが統括するいすゞを含む9社合同の東京都の社会実装事業も採択され、HVOの普及促進に向けて活動していると説明しました。
次世代バイオディーゼル燃料を導入した
三井住友ファイナンシャルグループ
プレゼンの最後に登壇したのが三井住友ファイナンシャルグループの執行役員グループチーフ・サスティナビリティ・オフィサーの高梨雅之氏です。三井住友ファイナンシャルグループは「自社のGHG排出量削減の取り組みとして2030年度までの国内営業車の100%環境配慮車化を目指している」と説明。ただし、「EV導入は充電設備設置場所の制約があり、FCVも水素ステーションが少ないということもあり、バイオディーゼル燃料を使うディーゼル車は、極めて重要な選択肢である」と考えているとか。


また、次世代バイオディーゼル燃料はガソリンと比べて、運搬・管理が容易で、BCP対応の点でも有用と見ているそうです。
そうしたこともあり、三井住友ファイナンシャルグループは、2025年4月にメガバンクとして初となる次世代バイオディーゼル車(マツダ「CX-80」)を社用車として導入しました。プレゼンでは「導入のネックは、高コストであると認識しつつも、金融機関の広いネットワークと影響力を生かし、社会的価値の高いバイオ燃料の普及に貢献してまいりたい」と語りました。
会場の周辺でサステオを体感した
大きな課題は残るが未来への道筋は感じた
会場内でのプレゼン終了後には試乗会が行われました。HVO51%配合のバイオディーゼル燃料であるサステオを給油したマツダ「CX-60」を走らせるというもの。実際のところ、サステオは軽油代替として開発されており、「CX-60」のディーゼル・エンジンもサステオ利用のための調整が行なわれています。そのため走らせてみれば、これまで試乗した「CX-60」とまったく変わりはありません。走行性能と走行フィールそのままで、CO2排出をHVO配合分だけ減らせるというのが、バイオディーゼル燃料の最大のメリットでしょう。

ただし、課題はまだまだ山積みです。サステオの価格は現在のところ軽油の3倍程度であり、将来的にも2倍程度にしか価格低減ができそうにないというのです。それ以上の低価格化は、さらなる技術開発が必要だとか。また、現状では生産量が少ないため、販売はごく限られた法人向けだけという状況です。
価格低減と、量産化という大きな課題が残っているのです。それでも、今あるエンジン車をそのままにCNの道筋が見えてきたというのは、まさに朗報です。さらなる技術の進歩に期待したいと思います。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
