マツダの「ロードスター」といえば、世界的にも稀有な大衆向けライトウェイトスポーツカーであり、日本の至宝です。ただ、近年の物価高の影響で、残念ながらエントリー価格も上昇。
そこで、いまさらですが、昨年マイナーチェンジしたエントリ-グレード「S」に試乗したのでレポートします。
2024年にマイナーチェンジを実施したロードスター
Sグレードは装備を簡素化して
価格を抑えたシンプルなモデル
このマイナーチェンジモデル(MCモデル)では、内外装の変更は部分的ですが、エンジン性能の向上やアシンメトリックLSD(加速時と減速時で異なる差動制限力を発揮する新開発のLSD)の採用を含む駆動系、電動パワーステアリングのチューニングなど、走りに関する部分の改良がメインです。

エントリーグレードの「S」は、ロードスターの中でもシンプルイズベストな存在。マニュアルエアコンに代表されるように、一部装備を簡素化することで、価格と重量を抑えています。もちろん、基本的な装備はしっかりと搭載されているので、不足ない内容です。たとえば、着脱式ドリンクホルダーは1つだけですが、必要ならば買い足すことができます。そんな小さな積み重ねでも価格を抑えているのです。
さて、Sらしい特徴ですが、MCモデルでのウリの1つであるアシンメトリックLSDはAT車同様に省かれます。とはいえ、これも「S」の魅力でもあり、LSDなしのナチュラルなコーナリングフィールを持ち味としています。

スマホ連携で利便性がグッと上がった
機能面での「S」の目玉は、オーディオシステムの変更です。前モデルまでは、Bluetooth接続対応のセグメント液晶付きラジオだったものから、全車共通の新インフォテイメントシステムを標準化。その結果、純正ナビの追加に加え、Apple Carplay&Android Autoにも対応したことで、日常での利便性が大きく向上しました。

その一方で、安全面などの装備追加もあり、990kgだった車重が1110kgまで上昇することに。安全装備は重要ですが、ストイックなスポーツカーにエンタメ要素は不要ではと思う節もありますが、スマホナビが安全に使えるようになるなどのメリットもあるため、ここは時代の流れと受け止め、その利便性を最大限活用すべきでしょう。

そのネガを薄めるうれしい情報もあり。それがエンジン出力の向上です。最高出力が4psアップの136psに。発生回転数や最大トルクは同様なので、どのような変化が感じられるのかも楽しみなところ。
8.8インチのディスプレーで今どきのクルマ感が増した
運転席に着座してみると、Sでは標準化、他グレードではアップデートとなる8.8インチのワイドモニターの存在感がスゴイ。今流行の横長タイプなので、モニター1つで、クルマがより新しくなったように感じさせます。そして、スマホ接続でナビが使えるのは、やはり便利! 「S」であちこちに出かけたい運転好きには、プラスな存在だと思います。

話題のアシンメトリックLSDはないけど、主にエンジンとパワステのチューニングが図られたMCモデルの「S」は、どんな走りを体験させてくれるかと期待に胸を膨らませて試乗へ。

車体は重くなったが加減速が鋭くなった
まず感じたのは、自慢の「人馬一体」の感覚が高まったこと。たとえるなら、肌触りと着心地の良いラフな服装から高機能なスポーツウェアに着替えたような感覚なのです。どちらも身体に負担がなく、動きやすいのだけど、スポーツウェアの方がフィットしているぶん、ワンテンポ早く動けるし、動作にも無駄がない。つまり、よりドライバーの意思通りに動く感覚が強まっていたのです。

具体的には、ステアリングの操作に対する反応とフィーリングも良くなり、走行中のクルマの挙動もより機敏に。これは、出力が4馬力アップで、より早めにパワーが得られるようになったことに加え、アクセルオフの応答性も高めたとのこと。だから、より加減速もドライバーの操作とマッチしているようです。

ただ感覚では、かなり加速が良くなったように感じられ、数字以上の進化が味わえます。そして、最大のポイントは、高速での直進安定性が高まったこと。これによりロングドライブでの疲れも軽減されます。まさに改良のポイントは、スポーツカーとしての走りの魅力の向上にあります。

ただ、従来型と比べると、Tシャツとジーパンのようなラフさが失われたようにも感じます。

デビュー時から魅力の根本はまったく変わらず
ただロードスターの魅力は、スポーティーな走りを楽しむことだけではありません。屋根を取り去り、風を感じて走ることにもあります。それを200万円台から提供できていることは大いに評価すべき。やはり、オープンカーを気軽に乗りたいという人にとって、「S」の存在は偉大だと思います。凝った料理よりも、ダシの効いた素うどんや卵かけご飯が好きという人には、ぜひ味わっていただきたい逸品。

その魅力が、デビュー時からまったく変わっていないと確信できたドライブでした。

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