岡山理科大学生命科学部生物科学科の研究グループは、がん細胞の内部には苦味受容体が存在し、これが細胞内に侵入した抗がん剤の細胞外排出、ひいては多剤耐性化能獲得に深く関わることを世界で初めて発見しました。“良薬口に苦し” 、この古代の教えは現代の基礎医学で注目を集めることになりそうです。


 研究成果は7月28日、ネイチャー・リサーチ社が発行する科学雑誌 『Scientific Reports』電子版で公開されました。
https://www.nature.com/articles/s41598-025-12889-5
 ヒトは有害物が口内に入ると舌の味細胞にある苦味受容体がこれを感受し、“苦い”と感じることで体内侵入を阻止します。同グループは昨年、皮膚の角化細胞内に舌と同一の苦味受容体が局在し、これが経皮侵入した様々な有害物を感知すると細胞外への吐き出しを活発化させ、皮膚を保護していることを発見しました。今回はがん細胞、例えば乳がん細胞や肺がん細胞にも皮膚と同じ機構が存在し、これが抗がん剤に対する耐性化の基点となることを発見しました。


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 がん細胞内部には多種多様な抗がん剤でも感受しうる苦味受容体が常に待ち構えます。抗がん剤が細胞内に入り込むとこれにより受容体は活性化され、“排出ポンプ”を作動し、薬剤の細胞内蓄積を抑えていたのです。
 この機構を逆手に取れば、苦味受容体の特異的ブロッカーで抗がん剤感知を遮断することで耐性化が回避できると同グループは考えました。(右図参照)。


 抗がん剤の頻回投与による耐性化は重大な問題ですが、苦味受容体ブロッカーとの併用で耐性化回避への道が開けます。臨床現場では免疫療法、放射線治療、外科治療など様々ながん治療が行われますが、今回の発見が一助となって化学療法が新たなステージに進むことを期待しています。


【本資料の問い合わせ先】
岡山理科大学生命科学部 生物科学科 教授 中村 元直
電話:086-256-9541、携帯:090-4825-8942、メール:moto-nakamura@ous.ac.jp

岡山理科大学 : https://www.ous.ac.jp/

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