本共同研究では、2021年より進めてきた学校図書館支援の取り組みをさらに大きく展開し、AIを活用した「AI学校司書」の実現を目指します。
■共同研究の背景
学校図書館は、読書を中心とした活動となる傾向にあり、児童生徒の主体的・能動的な学習および教員の教材研究や授業実践を支援する機能が十分に活用されていない現状があります。また、司書教諭や、学校司書の配置状況は地域や学校によって異なり、資料の選定や活用における地域間の格差も課題となっています。
大平教授は、こうした課題を改善するため、各学校図書館が備える資料が教材として教科学習の中で誰に、どのように活用されたのか、その実態を蓄積し、データベース化したものを学校間で共有することにより、司書が教科学習における資料の選択にあたって参照できる基準(スタンダード)の構築につなげようとする研究を進められていました。
この度のNJCとの共同研究では、小中学校の教員や学校司書が資料を選択する際、他の教員がどのように活用したかの追跡、確認をリアルタイムで可能にし、自身の活用方法についてもコミュニティ内での共有を可能にする「遠隔レファレンス」アプリケーションを開発し、そのアプリをタブレットやスマートフォンに実装し、実証試験を行います。これらの情報の共有を通じて、地域における教育の機会均等の実現に貢献することを目指します。
■共同研究の概要
現在、千葉県千葉市と和歌山県日高川町において、記録アプリとしてBOOK MARRY(ブックマリー)を活用した実証研究を進めています。児童生徒や教員が、主に教科学習に使用した学校図書館の資料について、BOOK MARRYへレビューを記録しています。
(1) 5段階の★評価にて本の評価を実施
(2) 選択項目にて、資料の使用者(児童生徒 or 教員)、学年、教科、使用用途を選択
(3) 自由入力で単元名と使用方法、使用後の感想や本のレビューを記入
◇「AI学校司書」の運用
学校司書が不在の状況でも、児童生徒や教員の問いに対して適切な「資料」を提供できる仕組みをAIで実現します。この「AI学校司書」を構築するために、以下の多様なデータをAIに読み込ませています。
・千葉市、日高川町にてBOOK MARRYに投稿されているレビューデータ
・学校指導要領・教科書データ
・各教員が作成した教材データ
・出版・流通している書籍データ
・著作権処理済の画像データなど
これらのデータをAIが学習することにより、これまでの情報検索とは異なり、教員が実際に授業で使用した教材データなどと、学習指導要領や教科書の内容、さらには外部データを取り込むことを通じて、より実践的で深度のある資料提供が可能となる見込みです。
■今後の展望
本共同研究期間は2025年度から2027年度までの3年間を予定しており、この期間内に地域限定、科目限定での「教育現場の集合知+AI」による遠隔レファレンスの実現を図ります。
NJCは2028年度以降、本研究の成果をもとに、初等教育・中等教育分野における学習支援、読書支援ソリューションの開発・展開を本格的に行っていきたいと考えております。そして、2030年には現在主力の高等教育分野での売上規模を上回る伸長を目指し、教育現場への貢献を一層強化してまいります。
■本研究に対するコメント
◇京都産業大学 大平 睦美 教授
図書館は情報を提供する場ですが、情報は知識ではありません。情報を知識に変えるためには、多様な情報を収集し比較検討することが必要です。
学校図書館の現状は、読書活動(好きな本を読むこと)に特化する傾向があります。そのため教員も児童生徒も調べる学習の経験が少なく、調べるための資料も読書資料と比較して少ないことが通例です。そこで、本研究では調べる学習の作り手である教員の支援をしたいと考えました。学校図書館の司書教諭や学校司書が、授業を担当する教員に資料を提供する際、また調べる授業を実施する教員が先輩や同僚から経験値を得られ、AIを使ったデータを利用することで「経験値とデータとの融合」を実現し、授業担当教員や司書教諭、学校司書のみなさんをサポートしたいと考えます。
それと共に、司書教諭の発令や学校司書が配置されていない地域の学校にも、司書教諭や学校司書がいる学校と同様の図書館支援を実現したいと考えています。なぜなら、日本には学校図書館法が存在し、全ての学校に学校図書館が存在するにもかかわらず、人の配置がないために学校図書館を授業に利用できないならば、教育の機会均等が失われます。遠隔レファレンスによる「AI学校司書」は、学校図書館の活動を通じて教育の機会均等も推進することを目指しています。
本研究では特に教科学習についてのレファレンスを中心に考えています。
◇日本事務器株式会社
京都産業大学 大平教授は、学校図書館の機能拡充と教育格差の解消に向けて、先進的な研究を重ねてこられました。教科学習における資料活用の実態を蓄積・共有するという教授のアプローチは、学校図書館の新たな可能性を切り開くものと考えています。
当社はこれまで、高等教育分野でのICTソリューション提供を中心に事業を展開してきましたが、本研究を通じて初等・中等教育における学習支援の領域に踏み出します。当社が長年蓄積した文献の活用や読書推進、図書館の利用拡大といった分野の経験やノウハウと、AIを使った「遠隔レファレンス」の組み合わせによる「AI学校司書」の実現は、学校図書館のデジタル化推進と機能強化に大きく寄与するものと確信しています。
この共同研究で得られる知見を基に、教育現場のニーズに即した革新的なソリューションを開発し、教育の質の向上と機会均等の実現に貢献してまいります。
■サービス・団体・企業の概要
◇BOOK MARRYについて
学生・教職員の間で参考文献や本のレビューを共有できるアプリ。レビューを共有することで、講義やレポートの参考文献を探したり、他の人の意見を参考にしたり、新たな書籍との出会いを促したりすることができます。
詳細情報: https://www.njc.co.jp/neocilius/bm/
◇京都産業大学 大平 睦美 教授について
学校図書館資料活用データの学校間共有:遠隔レファレンスによる教材選択の最適化支援と情報格差の是正を目的にする研究に取り組んでいます。学校図書館の備える資料や教材が児童生徒の学習や授業でどう活用されたかをデータベース化し、オンラインで学校間共有する仕組みを構築し、学校図書館に人の配置がない地域においても、人の配置がある地域と同様の学習活動を可能にする学校図書館の実現により、教育の地域格差の改善を目指しています。
◇日本事務器株式会社について
NJCは、2024年に創業100周年を迎えました。
特に図書館の分野においてはクラウド型図書館情報サービス「ネオシリウス」シリーズが大学図書館や専門図書館を中心に多数の導入実績があります。
詳細情報: https://www.njc.co.jp/neocilius/
会社名 : 日本事務器株式会社
代表者 : 代表取締役社長 田中 啓一
創業 : 1924年2月
従業員数 : 844名(NJCグループ 1,185名)[2025年3月期]
事業内容 : トータルソリューションサービスの提供
(コンサルティング、情報システム開発、情報システムの運用と保守)
本社所在地: 東京都渋谷区本町三丁目12番1号 住友不動産西新宿ビル6号館
URL : https://www.njc.co.jp/