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図1. BaMnGe2O7+δの可逆的な酸素吸収放出における色の変化と結晶構造変化
神奈川大学化学生命学部 本橋輝樹 教授、大石耕作 研究員らの研究グループは、東北大学多元物質科学研究所 山根久典 教授(当時)、京都工芸繊維大学材料化学系 細川三郎 教授、近畿大学理工学部 杉本邦久 教授、Zi Lang Goo博士研究員(当時)との共同研究により、メリライト型構造(注1)をもつ酸素貯蔵材料Ba2MnGe2O7+δが従来にない特異な酸素吸収放出特性を示すことを発見しました。放射光X線吸収分光法(注2)、放射光その場X線回折(注3)、単結晶X線回折(注4)、粉末中性子回折(注5)を用いた先端分析により、酸素吸収放出に伴う複雑な結晶構造変化を解明しました。
従来のマンガン系酸素貯蔵材料では酸素を放出するために水素などの還元雰囲気(注6)が必要でしたが、本材料は大気中や酸素雰囲気中でも温度変化だけで可逆的に酸素吸収放出できます。また、酸素吸収放出に伴い青色⇔白色と可逆的に変色するユニークな特徴も見出し、酸素センサーや酸素感応性無機顔料としての応用が期待されます。
本研究成果は、2026年1月24日付で米国の化学会の専門誌「Chemistry of Materials」に掲載されました。
【研究成果のポイント】
●大気中や酸素雰囲気中でも可逆的に酸素吸収放出する新しい酸素貯蔵材料Ba2MnGe2O7+δを発見
●200~500℃の温度領域で最大酸素貯蔵量1.2重量% (δ ≈ 0.45) の酸素貯蔵・放出を実現
●酸素吸収に伴い白色から青色への顕著な色の変化を確認
●単結晶X線回折および粉末中性子回折による詳細な結晶構造解析により、複雑な超構造(注7)を解明
●酸素センサーや酸素感応性無機顔料などへの応用に期待
【研究の背景】
酸素貯蔵材料は、温度や雰囲気の変化に応じて酸素を可逆的に吸収放出できる機能性酸化物である。自動車排ガス浄化触媒として広く使用されているセリア-ジルコニア固溶体(CeO2-ZrO2)が代表例であり、酸化還元触媒、酸素分離膜、固体酸化物形燃料電池、酸化物イオン電池などへの応用が期待されている。
マンガンを含む酸素貯蔵材料は、マンガンの価数変化(Mn2+/Mn3+)を利用して酸素吸収放出特性を示す。しかし、従来のマンガン系酸素貯蔵材料(YMnO3-δやBaYMn2O5+δなど)では、酸素を放出するために5%水素/窒素やアンモニアなどの強い還元雰囲気が必要であった。新たな酸素関連技術を発展させるために、より穏やかな条件で動作する新規酸素貯蔵材料の開発が求められている。
【研究の内容】
本研究では、メリライト型構造をもつA2MnC2O7(A = Sr、Ba; C = Si、Ge)系酸化物の酸素貯蔵特性を系統的に調査した。その結果、Ba2MnGe2O7+δ(BMG)がもっとも優れた酸素貯蔵特性を示すことを発見した。
BMGの注目すべき特徴は、大気中や酸素雰囲気中でも温度変化のみで酸素を放出できることである。従来のMn2+/Mn3+レドックスを利用した材料では、酸素放出に強い還元雰囲気が必須であり、酸素含有雰囲気中では常に酸素吸収状態となる。
放射光X線吸収分光法、放射光その場X線回折、単結晶X線回折、粉末中性子回折を用いた詳細な結晶構造解析により、酸素吸収・放出のメカニズムを解明した。酸素吸収時には、Mn2+がMn3+に酸化され、結晶構造中のMnO4四面体ユニットがMnO5三角両錐ユニットへと変化する。これに伴い、結晶構造は基本的なメリライト型構造(正方晶、空間群P-421m)から、5a×5a×1cの超構造(正方晶、空間群P-4)へと相転移する(図1)。
さらに興味深いことに、BMGは酸素を取り込むと白色から鮮やかな青色に変化し、酸素の放出に伴い可逆的に白色へ戻る(図1)。この青色への変化は、Mn3+が三角両錐配位(D3h対称性)をとることにより可視光応答の電子遷移(d-d遷移)が許容されることに起因する。これは青色無機顔料「YInMnブルー」と同様のメカニズムである。
【研究の展開】
BMGの「酸素含有雰囲気中での酸素放出」というユニークな性質は、酸素吸収相における稜共有する多面体ネットワーク(Mn3+O5-Ge4+O5-Mn3+O5)の構造不安定性に起因すると考えられる。この知見は、新しい酸素貯蔵材料の設計指針として重要である。BMGを含むマンガン系メリライト酸化物では、穏やかな条件下での可逆的な酸素吸収放出特性を利用した酸素ガス製造、Mn2+/Mn3+の価数変化を利用した触媒応用などが期待される。さらに、雰囲気に応じた白色/青色の顕著な色の変化は、酸素センサーや酸素感応性無機顔料など、新たな応用分野を開拓する可能性を秘めている。
【掲載論文】
題名 :Unconventional Oxygen Storage/Release Properties of Melilite-Type Ba2MnGe2O7+δ
Associated with Complex Structural Transformation
著者名 :Kosaku Ohishi、Satoshi Ogawa、Hisanori Yamane、Saburo Hosokawa、Zi Lang Goo、Kunihisa
Sugimoto、Miwa Saito、*Teruki Motohashi
掲載誌 :Chemistry of Materials 2026、38、3、1084-1093.
掲載URL:https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.5c02228
【謝辞】
本研究は、科学技術振興機構(JST)総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)戦略的創造研究推進事業(SIP)「脱炭素社会に向けたエネルギーシステム」、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(課題番号JP20H02827)、学術変革領域研究(A)「超セラミックス:分子が拓く無機材料のフロンティア」(課題番号JP22H05142、JP22H05143、JP22H05145)の支援を受けて行われました。
【用語解説】
(注1)メリライト型構造
一般式A2BC2X7で表される結晶構造。天然鉱物のメリライト(黄長石、化学式Ca2MgSi2O7)に由来する名称で、構造中の四面体配位したカチオンが層状に連なった平面ネットワークを特徴とする。さまざまな元素の組み合わせが可能で、磁性体、蛍光体、イオン伝導体、触媒など幅広い機能性材料の母体構造として注目されている。
(注2)放射光X線吸収分光法
放射光X線を用いた分析法。物質にX線を照射し、特定元素による吸収スペクトルを測定することにより、その元素の価数や局所的な配位環境を調べることができる。本研究ではSPring-8、BL28XUにて測定を実施した。
(注3)放射光その場X線回折
結晶構造の分析法。温度変化や特殊雰囲気などの条件下で試料の結晶構造変化をリアルタイムに観測する手法。高輝度の放射光を利用して短時間でデータ取得することにより、反応中の構造変化を追跡できる。本研究ではSPring-8、BL13XUにて測定を実施した。
(注4)単結晶X線回折
結晶構造の分析法。
(注5)粉末中性子回折
結晶構造の分析法。試料からの中性子散乱における干渉効果(回折)を利用して物質中の原子配列を決定する。水素など軽元素の感度が高いため、軽元素を多く含む物質の結晶構造解析に有効である。本研究ではJ-PARC、BL09、SPICAにて測定を実施した。
(注6)還元雰囲気
物質から酸素を奪い取る性質をもつガス雰囲気。水素、アンモニア、一酸化炭素などが代表例。製鉄において鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄を得る工程など、工業的に広く利用されている。
(注7)超構造
基本となる結晶構造よりも長い周期をもつ結晶構造。原子やイオンの規則的な配列により形成される。本研究では、酸素を貯蔵した酸化相において基本構造の5倍×5倍×1倍の超構造が形成されることを発見した(図1)。
【関連リンク】
理工学部 理学科 教授 杉本邦久(スギモトクニヒサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2743-sugimoto-kunihisa.html
理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/