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農薬を噴霧したメロンうどんこ病菌の菌糸(左)・農薬処理後に菌寄生菌の胞子を噴霧したメロンうどんこ病菌の菌糸(右)
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士前期課程1年 佐藤唯都、農学部農業生産科学科4年 生駒華菜、同4年 津村莉沙(研究当時)、農学部農業生産科学科教授 野々村照雄らの研究グループは、植物病原菌の一つである「うどんこ病菌」のうち、特に「メロンうどんこ病菌※1」と、それに寄生する「菌寄生菌※2」について研究しています。
そのなかで、農薬に耐性があるメロンうどんこ病菌に菌寄生菌の胞子液を噴霧することで、メロンうどんこ病菌の生育と胞子放出を抑制できることを、世界で初めて明らかにしました。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)3月19日(木)に、英国の出版社が発行する世界的な植物病理学専門誌"Plant Pathology(プラント パソロジー)"に掲載されました。
【本件のポイント】
●農薬耐性のあるメロンうどんこ病菌に対する、菌寄生菌の感染行動を観察・解析
●メロンうどんこ病菌に菌寄生菌の胞子液を噴霧することで、うどんこ病菌の生育と胞子放出を抑制し、感染拡大を防止できることを世界で初めて確認
●新たな病害防除法の開発と、それによる農薬使用量の低減につながる研究成果
【本件の背景】
うどんこ病は、農作物、雑草、樹木など多種多様な植物で発生する身近な植物の病気で、農業分野では、本病が発症すると良質な果実ができなくなり、収量にも影響を与えるため、重大な植物病害の一つとされています。うどんこ病が発症すると、うどんの粉を振りかけたような白い斑点が発生することから、この名が付きました。うどんこ病菌(カビ)の胞子が植物に付着後、侵入・感染することで白い斑点(菌叢※3)を形成し、菌叢内に多くの分生子柄※4 がつくられます。この分生子柄上には子孫となる胞子がつくられ、その胞子が放出・飛散することで周りの健全な植物に感染します。一般的に、うどんこ病の防除には農薬(殺菌剤)が使われますが、環境に負荷を与えるうえ、農薬が効かない農薬耐性菌の出現も国内外で報告されていることから、農薬に耐性を示すうどんこ病菌の生育や胞子放出を抑制する新たな防除法の開発が求められています。
【本件の内容】
研究グループは、これまでウリ科植物に発生するうどんこ病に注目し、病害の防除に関する研究を進めてきました。本研究では、農薬に耐性があるメロンうどんこ病菌に対して、うどんこ病菌に寄生する菌がもたらす防除効果を検証しました。
まず、メロンうどんこ病菌に37種類の市販の農薬(36種類の化学農薬と1種類の生物農薬)をそれぞれ噴霧して培養し、胞子を回収・計測して農薬への耐性を評価しました。その結果、メロンうどんこ病菌は14種類の農薬に対して耐性があることを確認しました。
次に、メロンうどんこ病菌に菌寄生菌の胞子液を噴霧したところ、噴霧後約10日目以降にメロンうどんこ病菌からの胞子放出、および菌の生育が抑制されました。
以上のことから、農薬存在下でも、菌寄生菌は農薬耐性のあるメロンうどんこ病菌に寄生し、胞子放出を抑制することを、世界で初めて明らかにしました。
なお、今回使用した菌寄生菌は、うどんこ病の防除に実績があり、農作物に影響がないことを先行研究で確認済みのものです。
【論文掲載】
掲載誌:Plant Pathology(インパクトファクター:2.4@2024)
論文名:Biotrophic interactions between mycoparasitic Ampelomyces fungi and
Podosphaera xanthii on fungicide-treated melon leaves
(殺菌剤処理メロン葉上でのアンペロマイセス属菌とメロンうどんこ病菌の相互作用)
著者 :佐藤唯都1、生駒華菜2、Mark Z Nemeth3、津村莉沙2、Diana Seress3、
Levente Kiss3,4、野々村照雄1,2,5,* *責任著者
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 近畿大学農学部、
3 ハンガリー研究ネットワーク 農業研究センター、4 クイーンズランド大学、
5 近畿大学アグリ技術革新研究所
URL :https://doi.org/10.1111/ppa.70149
DOI :10.1111/ppa.70149
【本件の詳細】
研究グループは、農薬の残留性や農薬耐性菌の出現という問題から、化学農薬のみに依存しないうどんこ病に対する新たな防除法の確立に取り組んでいます。先行研究において、メロンうどんこ病菌を単離して分類・同定し、形態的な特徴や感染可能な植物種(宿主範囲)について報告しています。また、うどんこ病菌に寄生する菌寄生菌についても分類・同定し、形態的および遺伝学的特徴について報告しています。近年は、メロンうどんこ病菌の単一菌叢※5 から生涯にわたり放出される胞子数を量的に解析するとともに、静電気技術を用いてメロンうどんこ病菌の農薬に対する感受性を量的に評価し、5種類の殺菌剤(クレソキシムメチル、メパニピリム、フェナリモル、トリフォリンおよびチオファネートメチル)に対して農薬感受性が低い(農薬耐性がある)ことを報告しています。
本研究では、菌寄生菌である「アンペロマイセス属菌」を利用して農薬感受性が低いメロンうどんこ病菌に対する生育抑制効果を量的に評価するため、農薬存在下で生育したメロンうどんこ病菌の単一菌叢に菌寄生菌を噴霧接種した後に、静電気技術※6 と顕微鏡技術を用いて、メロンうどんこ病菌の単一菌叢から放出される子孫胞子数を測定するとともに、分生子柄の形態を観察しました。
まず、1個のメロンうどんこ病菌の胞子をメロン葉に接種・感染させた後、7日間培養して菌叢を形成させました。その後、メロンうどんこ病菌の単一菌叢全体に37種類の市販の農薬をそれぞれ噴霧した後、3日間培養し、静電気技術を用いて胞子を回収・計測することで、本菌の農薬感受性を評価しました。その結果、メロンうどんこ病菌は14種類の農薬に対して感受性が低いことを確認しました。
一方で、市販農薬に対する菌寄生菌の感受性も評価しました。
次に、メロン(Cucumis melo)の葉上に、高解像能デジタル顕微鏡※7 下で微小ガラス針を用いてメロンうどんこ病菌の単一胞子を接種した後、7日間培養して菌叢を形成させました。そのメロンうどんこ病菌の単一菌叢に、感受性が低い14種類の農薬をそれぞれ噴霧処理してから3日間培養し、菌寄生菌の胞子液を菌叢全体(接種後10日目の菌叢)に噴霧しました。その後、研究グループが考案した静電気胞子回収装置※8(静電気板)を用いて、菌寄生菌を噴霧した農薬感受性が低いメロンうどんこ病菌の単一菌叢から胞子の回収を行い、静電気板に捕捉された胞子の数を顕微鏡下で計測しました。その結果、菌寄生菌を噴霧した単一菌叢からは、噴霧接種後10日で胞子が回収されず、菌叢生育も抑制されました(図1、抜粋した農薬5種を記載)。さらに、クレソキシムメチルを処理したメロンうどんこ病菌の菌叢に菌寄生菌を噴霧した後、その寄生行動を観察したところ、処理後7日目にメロンうどんこ病菌の菌糸が萎縮・崩壊しました。次に、胞子回収が終了した10日目の単一菌叢をもつ感染葉を脱色・固定した後、生体染色し、光学顕微鏡を用いて菌叢面積を測定するとともに、菌叢内に形成されたメロンうどんこ病菌の正常な分生子柄数を計測しました。その結果、生育抑制効果が見られ、かつ正常な分生子柄は確認されませんでした(図1)。
以上のことから、農薬存在下でも菌寄生菌はうどんこ病菌に感染・寄生することができ、防除効果が得られることが明らかとなりました。
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図1:静電気技術を用いて農薬および農薬と菌寄生菌で処理されたメロンうどんこ病菌の単一菌叢から回収された胞子の数と正常な分生子柄の数の測定(14種の農薬のうち5種を抜粋)
【研究者のコメント】
野々村照雄(ノノムラテルオ)
所属 :近畿大学農学部農業生産科学科、近畿大学大学院農学研究科、
近畿大学アグリ技術革新研究所
職位 :教授
学位 :博士(農学)
コメント:うどんこ病は身近な植物病害として知られています。農作物にうどんこ病が発生すると化学農薬を使用して防除しますが、農薬耐性菌の出現や環境負荷の問題を考慮すると、化学農薬のみに依存しない新たな防除法の開発が必要となります。防除戦略を講じるためにも、病気を引き起こす原因となるうどんこ病菌の形態学的、生理学的および生態学的特性を明らかにしておく必要があります。
【用語解説】
※1 メロンうどんこ病菌:Podosphaera xanthii KMP-6N。ウリ科植物のみに感染する植物病原菌で、カビの一種。うどんこ病菌は栄養培地では培養できないカビ菌であり、生きた植物のみに感染し、増殖する。このような菌を絶対寄生菌と呼ぶ。
※2 菌寄生菌:Ampelomyces sp. Xs-q。オナモミ(Xanthium stramonium)に感染していたうどんこ病菌(Podosphaera xanthii)から分離した菌で、カビの一種。栄養培地で培養できるカビ菌であり、うどんこ病菌に寄生し、増殖する。
※3 菌叢(きんそう):カビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集したもの。例えば、1個のカビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集すると肉眼では同心円状にみえる。
※4 分生子柄(ぶんせいしへい):うどんこ病菌が子孫の胞子を生産・形成する感染構造体。
※5 単一菌叢:1個のカビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集したもの。
※6 静電気技術:静電気のクーロン力を利用して、カビ胞子を捕捉・回収する技術。
※7 高解像能デジタル顕微鏡:高倍率で観察できる落射型の実体顕微鏡。サンプルを生きた(自然な)状態で観察できるため、葉の表面で生育するうどんこ病菌の観察に適している。
※8 静電気胞子回収装置:透明な絶縁性の板(回収板)を静電気で帯電させ、菌叢から放出される胞子を捕捉・回収する装置。
【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 教授 野々村照雄(ノノムラテルオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/162-nonomura-teruo.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/