【木村ヒデノリのTech Magic #029】 熟成肉がスーパーでも売られるようになって久しい。個人的には玉石混交状態で「これは本当に熟成肉なのか?」と思ってしまう肉も多く売られている。
かといって家庭で作るのは菌の繁殖など心配な面が多い。米国では熟成肉を作る専用冷蔵庫など、ガジェットも多く販売されているが、日本の小さめな家には不向きだ。筆者も熟成肉の仕込みが可能な製品を物色したが、今回紹介するDry Aging Bag(ドライエイジングバッグ)が唯一日本でも手軽にチャレンジできる製品だった。

●見た目は真空パックだが水分だけを効率よく外に出してくれる
 先日紹介したツヴィリングのFresh&Saveは真空にすることで保存期間を長くするものだった。対して、一見すると同じようなパックに見えるDry Aging Bagは水分だけを外に出す特殊な構造で作られている。
 真空パックは長く置いても乾燥してくることはないが、Dry Aging Bagは5日くらい経過すると表面が濃い色になってくる。色は傷んでしまったものに現れるような茶色ではなく濃い赤で、明らかに腐敗しているのとは違う様子がうかがえる。常に調理をしている筆者としても長期間肉をこの状態で冷蔵庫に入れておくのに半信半疑だったが、数日で明らかに腐敗とは違う変化があり胸を撫で下ろすことになった。
●熟成させなくても美味しい高級肉 VS 熟成させた安価な肉
 今回、Dry Aging Bagで熟成させたのは、1kgで3000円弱のA5ランク飛騨牛と1kgで1600円弱のオージービーフだ。熟成肉はそもそもA5ランクのような肉を想定していないものだが、水分が少なくなるので油が多いA5ランクの方が柔らかく食べやすい印象だった。
 どちらが美味しいか、と聞かれると難しいが、A5ランクの肉が劣るかといえばそうでもない。A5ランクの肉は油が多いだけに、熟成後に焼いても固くなりづらく初心者でも調理しやすい印象だった。

 逆にオージービーフは(今回使ったのがグラスフェッドビーフだったので…)ハーブのような香りがとても強くなったのが特徴的だった。焼くと固くなりやすいのが扱いづらいが、調理法や切り出す厚さによっては美味しく食べられるかもしれない。
 固くなってしまうのを防ぐためには、低温調理するか、2cmくらい厚めに切り出すのが良さそうだ。水分を保った調理法であれば、赤みが多い肉が旨味も十分に感じられた。
●食べるにはある程度トリミングするのが無難
 Dry Aging Bagの場合、熟成後外側はかなり乾燥してしまう。常に空気が入れ替わる本格的な装置の場合は別として、今回のようなバッグでは食べる前に外側をトリミングしてしまった方が良さそうだ。今回は25~30日熟成させたが、熟成が終わった直後の肉は外側がかなり硬く、色も濃くなっている。
 これらの肉は、外側を筋切り包丁などで5mm~1cmほど取り除くと食べられるようになる。そんなにトリミングするならそもそも塊でない肉を使えばと思うかもしれないが、なかなかそうもいかない。熟成させる際にどうしても外側の数パーセントを犠牲にせざるを得ないので、1kg程度のブロック肉が熟成に向いていると言えるだろう。トリミングした肉は小分けにしてジップロックに入れ、冷凍することである程度保存することができるので安心して欲しい。
 トリミング後は通常の肉と変わらない色が出てきて食欲をそそる。
ただ、脂身に関しては熟成の効果が少ない印象だった。したがって、サーロインのような外側に脂身が多い部位に関しては熟成に向かないかもしれない。個人的にはリブロースが香り高く、味も良かった。
●絶対に大丈夫というわけではないので注意は必要
 Dry Aging Bagを使ったからといって、絶対に安全ではない点は注意してほしい。傷まない保証はないので、初回は15日くらいからなど、それぞれの状況において試してもらいたい。また、真空状態にする機材も大切で、吸引が弱いと20日以降くらいから空気が入ってしまうこともある。外側はすでに乾燥しているのでそこまで問題になることはないが、できれば高い吸引力で真空状態を保てる機材を選ぶのがいいだろう。
 また、Dry Aging Bag自体も複数のメーカーから発売されている。紹介したメーカーがマッチしないかもしれないので、いくつか試してみると良い。今回のものは閉じ口に黄色いメッシュ素材を挟むタイプだが、そうした処理をせずに熟成させるものもある。当然閉じ口に何も介さない方が密閉はしやすいので、最初は1kgの肉塊を3等分するなどしてどのバッグが良いのかを検証するのもいいだろう。
 総じて言えば誰でも簡単に使える製品とは言い難い。
しかし自ら熟成した肉は、下手な料理店で出されるものとは一線を画す味であるのも事実だ。経験値を積めば「安い肉を高級ステーキに昇華できる」と考えれば安い投資だと思うので、興味がある方はチャレンジしてもらいたい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。
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