一般的に宇宙は、高度80~100km以上の空間を指す。岩谷技研の高高度気球が上昇できるのはおよそ25km上空まで。成層圏を出ることはできず、厳密には宇宙空間には届かない「Near Space」体験ができる乗り物だ。しかし、ここまで高く上がれば、空気はなく温度は極めて低い。
宇宙といえば、ブリヂストンの「月面探査用タイヤ」も注目を集めていた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、トヨタ自動車とともに「国際宇宙探索ミッション」に「チームジャパン」として参加している同社が参考出品したものだ。月面に拠点を建設し宇宙の探査活動を行うという、壮大で国際的なミッション。その中で、月面を自在に走破できる車両のために開発した。マイナス170℃~プラス120℃と激しい温度差があり、宇宙放射線が容赦なく降り注ぐ環境でゴムはすぐに劣化し役に立たないという。しかし、車体が沈み込むこともある砂地のような月面を走る車両のタイヤには、ゴムと同様の弾力性が必要だ。そこで、金属素材を使いながら、周囲にアルミ繊維を巻き付ける構造のタイヤを開発した。
新素材をひっさげて新たな提案をする出展社もあった。住友金属鉱山だ。その名も「SOLAMENT」。同社が発明した近赤外線を吸収するナノ微粒子CWOを使った素材テクノロジーだ。SOLAMENTには太陽光に含まれる近赤外線を熱に変換する性質がある。ブースでは、SOLAMENTを使った透明のビニール素材のジャケットを展示。一見すると寒々しいが、実際に着てみるととても暖かい。また、太陽光を吸収する性質もあるため、遮熱も可能。車の窓ガラスに使用することで、車内の温度上昇を防ぐこともできる。
地上のモビリティに目を向ければ、ひときわ異彩を放っていたのが、ツバメインダストリの搭乗操作型ロボット「アーカックス」だ。9月に国内先行受注販売を開始した本体を世界初公開した。
ヤマハ発動機が世界初披露した倒れないオートバイ「MOTOROiD2」も大人気だった。
もちろん、主役はやはり車だ。今年のトピックスは全固体電池(ASSB)を搭載した電気自動車だろう。充電時間が短いながらも走行距離は長く、ガソリン車に近い使い勝手を実現するとあって、トヨタを筆頭に開発に余念がない。トヨタに負けじと日産もコンセプトカー「ニッサン ハイパーフォース」を内田誠社長自らが世界に向けて初披露。
もう一つ、注目のメーカーはソニー・ホンダモビリティだ。日本を代表する2社がタッグを組んで生み出す新たな車がどこまでやれるのか。1台の「AFEELA Prototype」を配置しただけのシンプルでこじんまりとしたブースには、多くの人が訪れていた。同社では、ユーザーに提供する価値を、Autonomy(進化する自律性)、Augmentation(身体、時空間の拡張)、Affinity(人との協調、社会との共生)の三つとし、頭文字をとり「3A」と定義する。ユーザーにとって唯一無二で愛着を持てる車を目指し、好みに合わせて継続的に進化。新しいモビリティの可能性を追求する。モビリティ開発環境のオープン化を行い、社内外のクリエイターやデベロッパーがアプリケーションやサービスを開発できる環境を提供する。こうした取り組みが、自動運転にプラスアルファで加わる、新たな車の価値をどこまで創造できるか、期待が集まっている。
車といえばやはりトヨタだ。ブースのテーマは「クルマの未来を変えていこう」。佐藤恒治社長は、多様な価値観、多様なニーズをキーワードにプレゼンテーションを行った。EVと暮らす未来を示し、カスタマイズすることで自在にユーザーのニーズに応えられる車や、社会をつなぐモビリティの重要性についても言及した。スポーツタイプのコンセプトモデル「FT-Se」、SUVタイプのコンセプトモデル「FT-3e」などをメインにさまざまな生活シーンに溶け込むモビリティを展示していた。
宇宙から地上、素材までをカバーするジャパンモビリティショー。まだ名称になじめない感はあるものの、これまでより深みのある内容に進化した。近年は、小ぶりな東京ビッグサイトに大ぶりの車ばかりで、少々単調な展示会になってしまっていたが、今回は見所が多く楽しめた。次回はどんなモビリティが現れるのか、今から楽しみだ。(BCN・道越一郎)