そんな意味で、ゲーミングPCは非常に高スペックのPCというわけだ。しかし、なぜあんなにギラギラと派手なんだろうか。
グラフィックボードやマザーボード、ゲーミングノートPCが主力商品の日本ギガバイト、渡辺隆之 プロダクトマーケティングリーダーは「パーツ系はズバリ見た目が刺さる。あまり詳しくない人にもウケるためには見た目はカッコよくなければならない。傾向として見た目が派手なものはスペックも高く価格も高い。スペックと見た目のバランスで派手になっていく」と話す。さらに、ギガバイトは真っ白、真っ黒なマザーボードも販売している。渡邊氏は「若い女性にも興味を持っていただいている」とも。台北で6月に開かれたCOMPUTEX TAIPEI 2024のギガバイトブースでも、真っ白、真っ黒なマザーボードが展示されており、興味を引いていた。
さすが世界のPC生産基地台湾。COMPUTEX TAIPEIでは、数多くの変わり種のPC周辺機器が展示されていた。中でも最も目を引いたのがケースだ。ケースの中で光るパーツは確かに目立つ。しかしケースそのものの存在感にはかなわない。中にはジョークなのか本気なのか区別がつかないようなケースもあり、来場者を楽しませていた。キューブ状の透明ケースで角を下にして設置するタイプのものや、朱塗りの大門を模したもの、パーツの取り外しが容易なよう、電動で形状が大きく形状が変化するもの、ケースの中にフィギアの展示スペースを設けたものと様々。特に目立ったのはPCケースのメーカーとして知名度の高いThermaltake。定期的に行っている改造コンテストに出品された作品を展示していた。例えば、ガソリンスタンドの給油機をモチーフに改造されたケースは、もはや元がなんだか分からないほどだ。ここまでくるとPCケースなのか何なのかすらわからないほどの大変身を遂げている。
ゲーミングPCを筆頭に、こうしたPCの見た目が重視されてきていることについて、デルテクノロジーズの稲村陽 シニアマネジャーは「ゲーミングPCにはまっていくと、スペックを高くするのはもちろん、デザイン性、見た目のカッコよさにもこだわりたくなる。光ればやってる感も高まり、周辺機器もそろえたくなる。マウス、キーボード、ヘッドホン、チェアなどなど。ゲーミング一式が入るバッグなどもふくめて一つの世界にしたくなってくる。ゲーミングPCとその周辺機器は、こうした世界観を実現するエコシステム。お客様は趣味層なので、お金も使い、単価も高い」と話す。メーカーとしても大いにメリットがあるのが、見た目も重視するゲーミングPCというわけだ。ゲーム中は画面に集中しているので、本体が光ったりする必要はない。普段は、部屋にある「インテリアとしてのゲーミングPC」という要素もありそうだ。
ところで、ゲーミングPCはいつごろから増え始めたのだろうか。ゲーミングPCでは老舗、ドスパラでおなじみのサードウェーブ、製品・マーケティング統括本部の西村祐典 執行役員 兼 統括本部長は「10年、15年前はゲーミングPCのブランドは少なかった。しかしコロナ禍ぐらいから急増。
しかし、ドスパラは知名度の高さを利用して、ハイスペックPCをゲーミング用途、クリエイティブ用途を問わず「GALLERIA(ガレリア)」ブランドとして販売している。西村統括本部長は「個人のハイエンドパソコンをGALLERIAに統合し、やりたいことをすべて叶える方向としてブランドを拡張していく」と話す。確かに、同じようなスペックのPCを、かたやゲーミングPCとして、かたやクリエーター向けPCとしてラインアップするのも、メーカーとしては痛し痒し。売りやすいかもしれないが反面、販売・製造の両面でコストがかさむ。最近では光らない地味なゲーミングPCのニーズも増えているという。
ギラギラと光るデコレーション満載のゲーミングPCは、PCの一つの終着点だった。ハイスペックPCに求められる象徴的な用途がゲームであり、ある程度の金さえ払えば、スペックは横並び。あとは「派手さで勝負」の世界に突入していたわけだ。PC自体が成熟の域に達しつつあったともいえる。しかし状況は徐々に変わりつつある。世界をひっくり返すかもしれない、量子コンピュータの本格的な実用化はまだ数十年先。しかし、その手前にAIが躍り出てきた。2024年はAI PC元年になるだろう。これから数年のうちに、PCの用途がAI中心になり、再び激しいスペック争いが再燃するのではないだろうか。PC黎明期、「秒進分歩」でスペックがどんどん上がっていくワクワクを、また感じられるようになるかもしれない。
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