レンズ交換式カメラで、ボディーと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが交換レンズ。カメラボディーを選ぶにあたって、どんなレンズが使えるかで選ぶ、という考え方もある。
つまり、どのレンズマウントを選ぶかは、結構重要な問題だ。では実際、レンズの販売状況はどうなのか。全国2300店舗の家電量販店やオンラインショップ、カメラ専門店のPOSデータを集めるBCNランキングの集計では、圧倒的に売れているのは、ソニーのEマウント用レンズだ。5月現在の販売本数シェアで41.5%を占めている。次いでニコンのZマウントで14.3%。キヤノンのRFマウントレンズが12.7%。1位と、2位・3位の差はとても大きい。

 キヤノンやニコンなどと比べ、ソニーはマウント情報の外部提供に積極的。そのためソニー以外のメーカーからも、Eマウント用レンズが数多く発売されている。ユーザーとしてはレンズの選択肢が増えるので歓迎だ。結果、ボディーもソニー製を選ぶ傾向が高まる、という好循環も生まれる。一方で、ソニーにとっては、せっかくの自社製ボディー用のレンズなのに、独占販売できない、というデメリットもある。
売り上げを他社に奪われることにもつながり、痛し痒しだ。事実、この5月では、Eマウントレンズの販売本数シェアでトップに立ったのは、ソニーではなくタムロンだった。ただし、販売金額では依然としてソニーは1位。とりあえずソニーにとってマウント情報公開戦略は、今のところうまくいっている、と言えるだろう。
 現在、Eマウントレンズを販売しているメーカーは数多い。メインプレーヤーはソニーを筆頭にタムロンとシグマの3社だ。販売本数の9割以上を占めている。他にも、このEマウントの勢いに乗って、ユニークなレンズをリリースしているメーカーもある。それが韓国のLK SAMYANG(サムヤン)だ。同社は1972年に創業した光学機器の老舗。SAMYANGブランドの交換レンズの歴史も古く、コストパフォーマンスの高さが評価されてきた。最近では、Eマウントレンズを中心に、ユニークな製品ラインアップが目立つ。
例えば「V-AF」シリーズ。ソニーの動画向けカメラFXシリーズを意識した、動画用のAF交換レンズ群だ。焦点距離別に、20mm、24mm、35mm、45mm、75mm、100mmの6モデル。特に良く使う24mm~75mmまでの4本に関しては、ジンバル使用時でもスムースにレンズ交換できるよう、大きさやバランスをほぼ同一にしているのも大きな特徴だ。
 そのほか「Remaster Slim」も面白い。本体とレンズモジュールの2つの部分に分かれていて、交換するのは小さなレンズモジュールのみ、という構造だ。各モジュールにはクラシックレンズ風の味つけがなされており、「味」の違いを楽しむこともできる。これもEマウントに対応の交換レンズだ。レンズモジュールは、21mm、28mm、32mmの3種類。交換レンズを持ち運ぶ際にも、小さな箱に収まる。また直近では、今年のCP+でこっそり展示していた「LK SAMYANG AF 14-24mm F2.8 FE Schneider-Kreuznach」が秀逸。5月にケンコートキナーから発売した。
これもEマウントレンズだ。14mm始まりの超広角レンズにも拘わらず、通常のレンズフィルターが使えるというのが驚き。14mm始まりの広角ズームの場合、対物レンズは「出目金」になってしまうことがほとんど。つまり、被写体に向ける側のレンズが極端に出っ張るために、フィルターがつけられないのが普通だが、その常識を打ち破った。
 さらにこのレンズ、特筆すべきはシュナイダー・クロイツナッハとのダブルネームになっている点だ。シュナイダーは、知る人ぞ知るドイツの老舗レンズメーカー。産業用途の他、カメラ用では大判カメラ用のスーパーアンギュロンやジンマーなどで知られており、ライカ用のレンズも提供していた。LK SAMYANG日本支社のキム・ウォンヨン支社長は「シュナイダーの基準は厳しく、クリアするのに苦労したが、やっと第一弾のレンズが発売できた」と話す。試用したプロカメラマン達が「収差が小さく、夜景や星空撮影にも耐える」と高い評価を下しているのもうなずける話だ。キム支社長は「今後もシュナイダーとのダブルネームのレンズをリリースできるよう準備を進めている」とし、いくつかのレンズプロジェクトが走っていることを明かしてくれた。こうした挑戦的な製品が出せるのも、Eマウントレンズが圧倒的なシェアを握っているからこそ。LK SAMYANGに続けとばかり、Eマウントレンズに参入するメーカーが増えてくれば、市場はさらに盛り上がりそうだ。
(BCN・道越一郎)
【注目の記事】
スマホを使って有線LANをWi-Fi化【道越一郎のカットエッジ】
Z5II発売でニコンが初のトップシェア獲得【道越一郎のカットエッジ】
ニコンのZ5IIってどんなカメラ? 春の鎌倉と夜桜と子猫を撮って確かめた【道越一郎のカットエッジ】
激安のSnapdragon搭載Windows AI PCは本当に使えるのか?【道越一郎のカットエッジ】
息吹き返すかコンパクトカメラ――今年に入り好調維持【道越一郎のカットエッジ】
編集部おすすめ