なお、同提携は、決済・ポイントにとどまらず、ソフトバンクのAIサービスの導入から両社による新しいデジタルサービスの創出まで多岐に渡り、決済についても、三井住友銀行の個人向け総合金融サービス「Olive」と法人向け総合金融サービス「Trunk(トランク)」それぞれで協業を進めるが、今回は個人ユーザー向けの「Olive」に絞って考察したい。
●PayPayで三井住友カード、「Olive」でPayPayを優遇
この業務提携は、もともとソフトバンクのヘルスケアサービスを「Olive」の非金融サービスのラインアップの一つとして採用して欲しいと売り込んだことがきっかけという。ここ半年、楽天グループとみずほ銀行が資本業務提携、KDDIがローソンを子会社化するなど、競合がそれぞれの経済圏を強化する動きを見せているが、そうした動きとは関係なく、またキャンペーンでの連携は現時点では検討していないとの回答だった
PayPayは、取引時に負担する手数料の高さから、「PayPayカード/PayPayカード ゴールド(以降PayPayカード)」以外のクレジットカードでの決済を2025年1月(当初は23年8月以降)に廃止すると発表したが、ユーザーの声を受けて撤回。代わりに、クレジットカードの再登録が必須となる新たな利用方式を25年夏以降に提供し、その際、利用者に手数料の負担を求める可能性があるとしていた(※)。この手数料が発生する新たな利用方式において三井住友カードを対象外とし、事実上、PayPayと三井住友カードが一体化する。AmazonやANAなどとの提携カードも同様に優遇(手数料無料)の対象だ。
※参考記事:
PayPay、2025年1月に延期した「他社クレジットカードの利用停止」を撤回
https://www.bcnretail.com/market/detail/20241206_474142.html
一方、三井住友カードでのPayPayの優遇は「Olive」限定となり、「Olive」アプリでのPayPayの残高確認や三井住友銀行口座とPayPay残高間のチャージ・出金(出金手数料無料)、フレキシブルペイの支払いモードへの「PayPay残高による支払い」の追加などが可能になるという。ただ、Oliveのフレキシブルペイの仕組みは一般消費者にはかなり分かりにくく、実際に実装されてみないと使い勝手は未知数だ。
さらに、PayPayポイントとVポイント(運営はCCCMKホールディングス)の相互交換も始める予定だが、ポイントの相互交換サービス自体はさほど目新しいものではなく、Vポイントの前身の旧TポイントはPayPayポイントと交換可能だったので、もとに戻っただけともいえる。
ちなみに記者がおすすめするVポイントの利用先(使い道)は、「Vポイントアプリにチャージした後に交通系電子マネー(モバイルSuica/モバイルPASMO/モバイルICOCA)にチャージする」、PayPayポイントのおすすめの利用先は「ポイント運用」や不定期に開催される「ポイントを使う」キャンペーンだ。前者の場合、ためたVポイント1ポイントが最終的に交通系電子マネーのチャージ残高1円相当となり、電車やバスでの移動時の実質負担が減る。よってVポイントとPayPayポイントの相互交換サービス開始後は、実質的に、PayPayポイントの使い道に、今はできない「交通系電子マネーへのチャージ」が加わることになる。
なお、5月21日からPayPayは、PayPayカードと連携し、PayPayアプリ上で発行してオンラインのVisa加盟店で利用できる審査不要のバーチャルカード「PayPay残高カード」の提供を開始している。
●PayPayブランドのクレカ「PayPayカード」はもう要らない?
「PayPayが三井住友カードを優遇する」「OliveがPayPayを優遇する」という非対称な関係から、今回の業務提携の狙いは、23年3月の提供開始からわずか2年で500万口座、しかも約半数が20代以下と若者世代に支持された「Olive」の強みの上乗せにあると考えられる。
そもそも、PayPay銀行との連携ですでに実現しているPayPayの各機能を三井住友銀行にも拡大するだけであり、「エクスクルーシブ性はない(独占契約ではない)」という。つまり今後、他の金融機関にも同様の連携機能を開放する余地を残しており、PayPayよりも、三井住友カード側のメリットのほうが大きい業務提携といえるだろう。
この三井住友銀行・三井住友カードの「Olive」とPayPayの「大連立」によって得する人は、ずばり、すでに三井住友カードは保有しているが、PayPayカードは保有していない人だ。
会見の質疑応答で「PayPayカードは諦めたのか」という問いに対し、PayPayの中山 一郎 代表取締役 社長執行役員CEOは「PayPayカードが三井住友カードの規模に追いつくには20~30年かかる。提携によってその時間を買った」と否定したが、いったんカード会員の拡大は諦めたと解釈されても仕方ないだろう。なお、少額決済向けというイメージとは裏腹に、PayPayにおいてクレジット機能を使った高額決済は実際は想像以上に行われているそうだ。
考えれば考えるほど、PayPayと三井住友カードの提携は、企業イメージの向上や利用額・頻度頻度の増加が期待できるベストな相互補完に思える。新スマホ決済サービス「Wesmo!」を5月から開始したJR西日本、「Pontaパス」をセットにした新料金プランを6月から提供開始したKDDIをはじめ、生活に欠かせない「決済」とお得な「ポイント」を軸に顧客基盤の拡大を進めようとしていた企業は戦略の一部見直しを迫られそうだ。(BCN・嵯峨野 芙美)
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