パナソニックはこのほど、宇都宮工場の一角で手掛けるリファービッシュ事業による再生家電の工程を報道陣に公開。2024年4月からスタートした「Panasonic Factory Refresh」(以下、PFR)事業の現状を説明した。
PFRは、同社による厳格な出荷基準と1年保証をつけた検査済み再生品を直販サイト「Panasonic Store Plus」で販売することで、サーキュラーエコノミー(CE、循環経済)を実現する事業だ。6月5日から一般ユーザー向けに再生工程の見学コースの受付を開始。同月17日から工場見学を開始して、環境への理解を深める体験機会を提供することで地域貢献にもつなげる。地域コミュニティーとつながる「新しい工場のカタチ」を紹介しよう。

●スタートから1年、「Bランク」「Cランク」の取り扱いも開始
 パナソニック マーケティング ジャパンでダイレクト事業戦略室 新規事業推進部の渡邊暦部長は、宇都宮工場におけるPanasonic Factory Refresh(PFR)の位置づけについて次のように語る。
 「2020年に制定した『Panasonic GREEN IMPACT』では、カーボンニュートラル(CN)とサーキュラーエコノミー(CE)を二つの柱に掲げている。前者は世界の総排出量300億トンの1%以上の削減インパクトを創出する。後者は製品、サービスを通じて天然資源の価値を最大化して環境負荷を低減する。宇都宮工場のPFRの取り組みは後者にフォーカスしている」。
 PFRで扱うカテゴリーは、25年2月に13カテゴリーまで拡大。中核拠点の役割を担う宇都宮工場ではテレビ、BDレコーダー、ポータブルテレビ、一眼カメラ、洗濯機、食器洗い乾燥機、次亜塩素酸 空間除菌脱臭機(ジアイーノ)の7カテゴリーを担当する。
 デジタル家電は、1967年の操業からブラウン管テレビ、2003年に液晶テレビ、17年に有機ELテレビを生産していたこともあり担当。
白物家電は、「水回り」をキーワードにした製品を集中して扱う。
 PFRの開始から1年が経過し、同工場では年間1万台の家電を再生する能力を有する。その内容も進化を遂げている。これまでは、かなり良い状態の「Aランク」品を対象に再生してきたが、25年2月からAランクより少し使用感のある「Bランク」「Cランク」の再生にも取り組んでいる。
 ランク付けは、外観、内観、使用時間/回数、製造年数、臭気という5項目の独自基準で行っている。B、Cランクの再生は現在ドラム洗、冷蔵庫、テレビでスタートしている。
 パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの宇都宮工場の竹田恭介工場長は、“新しい工場のカタチ”として三つを定義する。「一つはCEを通じたリファービッシュ事業で家電の循環を行う。二つめは、再生ならではの視点や気づきを製品の企画や設計にフィードバックし、次の製品をより環境に即した製品に変えていく。三つめが、地域の障がい者雇用や教育、環境貢献など地域と連携する」。
 今回、一般ユーザー向けに工場見学を開始したのも、地域貢献への一環となる。竹田工場長は「これまでは製品を量産して生産台数を増やすことで収益を生み出すことに特化してきた。
これからは再生事業やモノづくりの技術を通して地域や環境に貢献していく」と意気込みを語った。
 なお、リファービッシュとリサイクルの区別は、製品寿命を基準にする。製品寿命が過ぎている製品はリサイクルや廃棄に回し、製品寿命があって一部を修理したりクリーニングしたりすれば使える製品がリファービッシュとなる。具体的に店頭展示品や初期不良品、家電のサブスクリプション型サービスの戻り品が対象となる。
 例えば、ドラム式洗濯乾燥機の場合、以前は初期不良返品分であってもすべて大きな粉砕機にかけて粉々に粉砕し、材料としてリサイクルしていた。一つの部品を交換すればまだ使える製品をリサイクルに回すのはもったいないという思いが、リファービッシュ事業に取り組むきっかけにもなっている。
●写真で見る、7カテゴリーの再生工程
 ここからは、実際の再生工程の様子を見ていこう。まずエントランスで迎えるのは、木材で囲まれた落ち着いた空間。栃木県鹿沼市の杉の木を使用しており、地元経済への貢献だけでなく輸送時の環境負荷の低減にもつなげている。ちなみに、トイレの案内プレートもテレビの梱包廃材を使っている。
 テレビの再生工程では、不具合を検査して適正に処理しながらクリーニングを実施。電源を入れる通電検査では、テレビの量産技術の経験を生かして、不具合を発見しやすい特殊な画像を使って検査しているという。

 暗幕がかかったブースでは、実際の量産用の設備を使ってパナソニック基準のホワイトバランスに再調整する。画質調整を行った後、同社の基準に沿った最終検査を行うことで、量産品と同じ品質を保証している。
 このように、再生品でも高い品質を保てるのは、量産で使っている設備やそこで培った技術、知見を生かしているからだ。
 パネルや基板の不具合も、量産用設備で不良部品を特定して交換する。映像処理エンジンのチップを取り外す際は、はんだゴテで「仮はんだ除去」してから、はんだ吸い取り線を使って「本はんだ除去」をする。その後、クリーニングしてからクリーム状の「はんだ印刷」をして新しいチップを取り付ける。
 ポータブルのプライベートビエラも、傷が多数ついているチューナー部を専用の工具で丁寧に磨き上げる。
●一眼カメラの焦点距離検査で再生ならではの工夫も
 一眼カメラの再生工程では、動作確認をした後にクリーニングして検査する。この際、量産工程と同じようにカメラ本体にケーブルをつないで検査する。
 従来は作業者の手で製品を持ちながらケーブルを接続して検査していたが、不安定で落下する恐れもあるので、3Dプリンターで立体型のケースをつくり、それに固定して検査している。
 精密機械であるカメラの機能を確認するブースでは、作業エリアにダストが入らないようにクリーンエアを内側から気圧をかけて、外側に放出するようにしている。
 レンズサイズの違いによって変わる焦点距離の検査では、カメラを吊り下げてスライドするだけで検査できるようにしている。
量産とは違って、様々なレンズサイズに対応しなければならない再生品ならではの工夫だ。
●熱交換器の詰まりを解消して乾燥機能を回復
 次にドラム式洗濯乾燥機の再生工程を見てみよう。まずは、本体に記録されている洗濯・乾燥回数や使用回数をチェックする。特に乾燥回数は、増えるにつれて乾燥機能が低下する。再生工程では、乾燥機能の回復作業を行う。
 熱交換器(ヒートポンプユニット)で温められた空気は、洗濯槽の中に入って洗濯物を乾かして乾燥フィルターを通って戻っていく。長年の使用により、フィルターを通り抜けて蓄積した細かい繊維やホコリ、髪の毛などが熱交換器に付着する。この目詰まりにより、乾燥機能が低下するのだ。再生工程では、熱交換器を持ち上げながら丁寧にブラシでこすって目詰まりを解消する。
 乾燥機能の回復が確認できたら、乾燥中の空気の温度などを測定して、基準値以上であることを確認する。そのほか、乾燥経路にもほこりが付着しているので水で洗い落とす作業をする。
 ほかにも、洗剤自動投入ユニットの洗浄や、乾燥フィルターの洗浄、洗濯槽の洗浄なども行う。
また、水を入れた状態で水漏れがないか、異常な振動が起きてないかなどもチェックする。
 動作中の消費電力や漏電検査も実施する。最後に量産品と同じように、特殊な掃除機を使った水抜き処理をして完了になる。
 次亜塩素酸 空間除菌脱臭機のジアイーノは、タンクの洗浄やフィルターのホコリを除去するだけでなく、消耗品であるフィルターなどは純正の新品と交換する。
●再生の知見を新製品の企画にフィードバック
 食器洗い乾燥機の再生工程では、パッキンを純正の新品パーツと交換。クリーニング作業では、酸性の汚れにはアルカリ性の洗剤を使い、アルカリ性の汚れには酸性の洗剤で洗うなど、汚れの種類により洗剤を使い分けている。
 再生で得た知見は食洗機の事業部と連携してフィードバックする。新製品を開発する際、組み立てやすい構造にするだけでなく、再生時に分解や掃除しやすい構造を提案している。また、国内輸送に適した梱包形態や製品保護状態を検討した結果なども事業部にフィードバックする。
 最後に、部品の再生工程として、テレビのパネルについているキズを取り除くためにフィルム(偏光板)の貼り替えを行っている。偏光板はテレビの映像を出力する部品の表裏に貼っているフィルムで、特定の方向の光を通す特殊なフィルムである。
 テレビの性能に問題はないのに、フィルムの傷だけで廃棄するのは環境に負荷を与えるため、ここではフィルムを交換する。
まず、表面のフィルムを特殊な治具を使って丁寧にはがす。
 次に、フィルムをはがした後に残る糊を取るために、簡易ブースで溶剤を使いながら取り除く。そして、最終工程でクリーンルームの大型設備でローラーの圧力によるフィルムの貼り合わせ作業を行う。
 冒頭で説明したように、宇都宮工場は地域に開かれた工場として一般ユーザーの工場見学を開始し、循環型モノづくりのショーケースとしての役割も担う。環境への学びとして、子どもの社会見学としても工場見学を考えてみてはいかがだろうか。予約は、Panasonic Factory Refreshのサイトで受け付けている。(BCN・細田 立圭志)
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