しばらく大幅な販売減に苦しんでいた有機ELテレビに、明るい兆しが見えてきた。この9月、販売台数前年比が92.1%まで回復してきたからだ。
販売金額こそ82.0%と依然2桁減だが、しばらく続いた大幅減に比べればかなり改善している。販売台数は23年11月に102.0%を記録して以降、ずっと前年比減が継続。特に昨年9月以降の縮小が激しく、前年比で5割近く減小する月も散見された。足元でも、この7月は台数前年比で55.3%とほぼ半減。しかし8月は79.4%でマイナス幅が縮小。有機ELテレビの販売減は一旦底を打ったように見える。
大きな要因は価格の下落だ。平均単価(税抜き、以下同)は、この8月、9月と2カ月連続で20万円を割り込んだ。その影響で販売が伸びた。平均単価と販売前年比には一定の相関があり、20万円付近が一つの壁になっている。例えば、24年9月、平均単価が22万2500円と直近3年での最高値水準に達すると、販売前年比が51.3%と大幅なマイナスを記録。前月の8月が20万4400円で、販売前年比が92.8%と微減だったところからの急ブレーキだ。
4K以上の液晶テレビが11~12万円程度であることもあり、有機ELテレビの割高感が強まっていた。
この底打ちに貢献したのがパナソニック。7月に販売台数シェア43.3%でトップに立った。23年8月に32.0%で首位を獲得して以来、23か月ぶりのトップ奪還だ。8月、9月も首位を維持しており、久々に同社の存在感が高まっている。24年8月からこの6月まで首位を維持してきたシャープも、この9月で29.7%とパナソニックに再接近。トップシェアをうかがっている。これまでシャープと首位争いを繰り広げてきたTVS REGZAは、やや後退しながらも23.3%と2割台を維持しており、三つ巴の状態だ。かつて圧倒的な強さを誇っていたソニーは、5.9%と5位。9.1%で4位のLGエレクトロニクスの後塵を拝している。
パナソニック急回復の要因も価格だ。特に、同社で最も売れている55型の「TV-55Z90A」の価格下落が大きい。
6月まで平均単価20万円超で推移していた製品だ。7月に17万2000円と約2割安くなると、販売台数前月比が3.9倍に急増した。以降8月、9月と3カ月連続で売り上げトップを疾走。同社のシェアを大幅に引き上げた。同じく、55型の「TV-55Z95A」、65型の「TV-65Z90A」についても2割弱の価格下落で、大幅な販売増を記録している。9月の有機ELテレビの機種別販売台数シェアと平均単価は、1位が前述したパナソニック「TV-55Z90A」で10.9%。平均単価は15万4000円だった。2位が8.0%で15万1000円のシャープ「4T-C55GQ3」、3位が7.1%で14万7000円のTVS REGZA「55X8900N」。いずれも55型だ。
有機ELテレビの販売台数は過半が55型。今年に入って増加傾向で、この5月には61.4%にも達した。価格は10万円を切るものから40万円を超えるものまでさまざまだが、15万円前後が最もホットな価格帯だ。
決して高価で大型の製品が伸びているわけではない。価格下落で販売が伸びているに過ぎない。4K液晶テレビと比べれば、平均単価で倍近い開きがある有機ELテレビ。確かに画面は美しい。しかし、購入してしばらくすれば、画質に慣れてしまうほどの差、ともいえる。現在販売されているほとんどのテレビは、十分きれいな画像が楽しめる。それだけに微妙な画質の差だけでは製品を選びにくくなっている。それよりも、使い勝手や軽快な操作感、オンラインコンテンツの扱いやすさなどのメリットの方がわかりやすく、消費者に「刺さる」。これからのテレビの差別化要因は、画質から「機能」にシフトすることになるだろう。(BCN・道越一郎)
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