ここ数年で一気に選択肢が広がったカフ型オープンイヤー。老舗のオーディオメーカーも参入し、市場は大いに盛り上がっている。
今回の記事では、「気になるけど、まだ手を出せていない」という人のために、カフ型オープンイヤーの現在地を示しつつ、完成度の高さが話題のハーマンインターナショナルの「JBL Soundgear Clips」をレビューしていきたい。

●カフ型オープンイヤーイヤホンはまさに今、進化の途中
 完全ワイヤレスイヤホンのカテゴリーが登場したのは、2014年頃。最近のことのようだが、実は10年以上の時間が経過している。市場が大きく成長したきっかけとなったのは、間違いなくAppleのAirPodsだろう。そこから音質や機能がどんどん洗練され、いまやスマホのように1人1台を当たり前のように所有するガジェットになりつつある。
 そんな早くも成熟を迎えつつある市場で、大きなトレンドとなっているのが、カフ型オープンイヤーだ。「耳を塞がない」タイプのイヤホンは、もともと運動をするときの快適性や外音が取り込める安全性を確保するための機構だったが、直近ではファッション性や着用したまま会話ができるスタイルの評価が高まっており、各社メーカーの次なる戦場になっている。
●カテゴリーの弱点を克服したJBLブランドの意地
 今回フォーカスする「JBL Soundgear Clips」は、ハーマンとして初となるイヤーカフ型のイヤホンだ。発売日は25年9月25日で、市場ではかなり後発といえる。ただ、同社は本製品にかなり勝算を持っているように思える。理由はカフ型オープンイヤーの最大の弱点といえる音質で、他社に対して優位に立てる仕上がりだからだ。
 カフ型オープンイヤーの音質が、耳道にすっぽりと密着させるカナル型や耳の入り口にひっかけるインナーイヤー型と比較して物足りなくなるのは、構造的にある程度は仕方のないことだ。
耳に挟む装着方法だと、どうしても耳に対する圧は弱くならざるを得ない。むしろ強くすれば、魅力である軽やかな装着感や外音取り込みなどを犠牲にしてしまう。さらには音漏れという問題も生じる。
 JBL Soundgear Clipsはこうした問題を無視せず、逆にチャンスと捉えた。11mm径のダイナミックドライバーと独自のバスエンハンスメント機能を採用することで、ウィークポイントである低音を強化。さらに逆位相の音波を当てる「OpenSoundテクノロジー」によって、音漏れを最小限に抑えた。
 筆者はこれまでいくつかのカフ型オープンイヤーを試してきたが、同製品の音質の良さはカナル型などのイヤホンと比較しても遜色ないものに感じた。これまで無意識に「カフ型オープンイヤーとしては良い音だな」と、どこか切り分けて評価していたところが、製品の完成度が高まってきた現在は、こうした先入観は取り除くべきだろう。
 もう少し解像度を上げて説明すると、確かにJBL Soundgear Clipsはカフ型オープンイヤー以外のイヤホンの体に響くような低音とは種類が異なる。耳穴を塞いでいないのだから、聴こえ方が異なるのは当然といえば当然だ。ただ、低音はしっかりとパワフルに耳に飛び込んでくる。この感覚がなかなかに新しいと感じた。

 最初こそ「カフ型オープンイヤーなのに!」という驚きだったが、長時間使用していると「低音を聴き続けているのに疲れないというのは、実はすごいのでは?」という驚きに変わった。どんなに音質の良いヘッドホンやイヤホンでも、低音を聴き続けるとそれなりに疲労感を伴う。しかし、カフ型オープンイヤーであれば耳への圧がほとんどないので、こうしたストレスがかなり軽減される。
●カフ型オープンイヤーならではの快適性は抜群!
 耳に対する圧が少ないという流れで、装着感にも言及したい。JBL Soundgear Clipsはカフ型オープンイヤーとしてのメリットに対してもベストを尽くしており、軽やかなのに落ちない快適さを実現している。メモリーワイヤー入りのソフトなTPU素材と安定したクリップ設計で、柔軟性はあるが耳に挟めばしっかりとロックされて、非常にズレにくい。
 耳の中でフィットするイヤホンと異なり、カフ型オープンイヤーはあまり耳の形に左右されない。耳の裏の固定部位を上下させてちょうどよいポジションを見つけることができれば、ほとんどの人にとってベストなフィッティングになるはずだ。その感覚は大げさではなく装着しているのを忘れるほどで、片方を落としてもそれに気づかないほどだ(実際、筆者は外で片耳から外れたのに気づかずに焦った)。
●音楽だけでなく、仕事も快適にする工夫が満載
 カフ型オープンイヤーの長所として、常時装着して音楽を聴く以外の用途でもシームレスに利用できることが挙げられる。JBL Soundgear Clipsはそのあたりの性能も優秀だ。外音もしっかり取り込んでくれるので、ボリュームを抑えていれば会話もスムーズにできる。
また、四つの通話用ビームフォーミングマイクを搭載しているため、オンライン会議や電話するときも快適だ。
 片方の耳の装着だけでも使える「デュアルコネクト」や2台のデバイスに同時接続可能な「マルチポイント」に対応しているのもうれしい。筆者はオンライン会議や電話の頻度がかなり高いが、PCとスマホの切り替えを意識しなくて済むのは、抜群に快適だった。つけっぱなしのスタイルを志向するなら、必須の機能といっていいかもしれない。
 バッテリーの最大再生時間はイヤホン本体だけで8時間、充電ケースが24時間で、合わせると32時間となる。急速充電にも対応しており、10分間の充電で3時間の再生時間をチャージできる。四六時中装着していても、寝るときに充電していれば、急な電池切れに困ることはないと思う。
●所有欲をくすぐるスケルトンデザイン
 本来なら最初に触れるべきかもしれないが、JBL Soundgear Clipsはデザインもエッジが効いている。写真を見れば一目瞭然だが、昨今ブームになっているスケルトンデザインを採用しているのだ。好みはあるかもしれないが、かつてスケルトンのゲーム機にハマっていた身からすると、とても所有欲をくすぐられる。
 カラーはホワイト、ブラック、カッパー、パープル(Amazon限定)の4色。スタンダードな使いやすい色、落ち着いた高級感のある色、個性を出せる派手な色と、それぞれのバリエーションはだいぶ異なるので、選びがいがある。
ファッション性を重視するユーザーにとっても、見逃せないはずだ。
●念のため、伝えておきたい注意点
 「カフ型オープンイヤーの音質はイマイチ(特に低音)」という先入観を持っている人にこそ試してほしいJBL Soundgear Clipsだが、気をつけてほしいこともある。一つめは、ちょっとした動きでは外れないが、耳に上下から力が加わると意外とポロリと取れるということだ。筆者の場合、帽子を被っているときはたびたびポジションがズレ、ハラハラする場面が何度かあった。今の時期であれば下から触れることがあるマフラーも要注意だ。
 二つめは、言うまでもないが、ノイズキャンセリング機能を搭載していない点だ。カフ型オープンイヤーの中には少なからず搭載しているモデルもあるようだが、それだと外音を取り込むという魅力を損なってしまう。もしノイズを完全にシャットアウトして音楽に集中したいというニーズが強いなら、別のタイプのイヤホンを選択するべきだろう。(OFFICE BIKKURA・小倉 笑助)
■Profile
小倉笑助
家電・IT専門メディアで10年以上の編集・記者経験を経て、現在はフリーライターとして家電レビューや経営者へのインタビューなどをメインに活動している。最近は金融やサブカルにも執筆領域を拡大中
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