(本紙主幹・奥田芳恵)
●笑いと好奇心にあふれた小学生時代
奥田 渡辺先生は発達心理学をご専門とされていますが、ご自身の幼少期はどんなお子さんでしたか?
渡辺 活発な子どもだったようです。もし、そこに土手があったら、すぐにジャンプして飛び降りるタイプですね。弟はソロソロと土手伝いに歩いて降りるタイプだったので、反対だったらよかったのにと親からよく言われました。
奥田 もちろん、お勉強もよくできたのでしょうね。
渡辺 勉強は好きでしたね。でも、受験勉強のような勉強が好きというわけではなく、むしろ学校が好きだったんです。
奥田 楽しい小学校生活だったのですね。
渡辺 私は大阪出身で、毎日のように吉本新喜劇や松竹新喜劇を見て育ったので、中学年から高学年の頃は、みんなの前で落語をしたり、ギャグを披露したりしていました。ちょっとおっちょこちょいなタイプなのかもしれません。
また、父が時代劇が好きで脚本を書いていたり(コラム参照)、母が洋画好きだったこともあり、私も映画好きになりました。父は、一昨年、97歳で亡くなったのですが、亡くなる直前まで原稿用紙に向かっていました。それほど書くことが好きだったのですから、幸せな人生だったのだと思います。
奥田 そうした家庭環境も、おそらく文化的な豊かさをもたらしてくれたのでしょうね。
渡辺 映画も好きでしたし、学校の勉強は知らないことが分かることが楽しかったですね。それはいまも同じですが、好奇心が強かったということだと思います。分かることはうれしいし、面白いので、もっと調べてみようという気持ちにつながります。
奥田 そうした知る喜びが、現在の研究や教育につながっているのですね。ところで、筑波大学で心理学を専攻するきっかけはどんなことだったのでしょうか。
渡辺 後付けの記憶かもしれませんが、高校生のとき、『十二人の怒れる男』という法廷ものの映画を見たことが一つのきっかけですね。陪審員のほとんどが当初は有罪ではないかと判断した裁判で、一人の陪審員が無罪を主張し、それにより他の陪審員の判断が有罪から無罪に変わっていき、最終的に無罪となるというストーリーです。この陪審員たちの気持ちが変わっていくプロセスに私は興味を持ちました。
また当時は、大学に心理学や人間科学の学部や学科が増えてきた時期で、そうしたことも手伝って心理学を学んでみようと思ったのです。
●ほとんどの親が見逃す わが子の「表象の獲得」
奥田 心理学にもいろいろなアプローチがあると思いますが、最初はどんなところから入ろうと考えられましたか。
渡辺 最初は、みなさんがよくイメージするような、心の悩みの相談に乗るカウンセリング的なことを考えたりしていました。ただ、実際に臨床心理の現場を見せてもらって感じたことは、例えば、うつ病の人の深刻な悩みで、若い自分には、その方の気持ちを思いやること自体が難しかったのを記憶しています。
奥田 確かに臨床の現場は、若い学生にとってはとても重い状況なのでしょうね。
渡辺 そこで、まずは「健康」であるということはどういうことかを学ぶべきではないかと考えました。赤ちゃんからどのように発達し、人生の途中でどのように深刻な問題に立ち向かっていくのかを、まず学ぼうと思ったのです。これが発達心理学へのスタート地点ですね。
奥田 発達心理学というのは、成長の過程で心がどのように変わっていくのかを研究する学問なのですか。
渡辺 そうですね。昔は青年期くらいまでしか研究対象ではなかったのですが、いまは胎児期から亡くなるまで、生涯にわたる心の発達について研究されています。
赤ちゃんの研究も進歩していて、例えば「舌出し反応」といって、生まれた日から「べー」と舌を出すまねができることが分かっています。
奥田 生まれた日からですか!
渡辺 また、1歳すぎくらいから「ぶーん」とか「しゅぽっぽー」とかいいながら、ペンなどを飛行機や電車に見立てて遊ぶことがありますが、こうしてイメージで遊ぶことができるというのはけっこうすごいことで、これを「表象の獲得」といいます。
ほとんどの親御さんは「表象」の発達などをご存知でないため、感動的なそういう時期を見逃してしまいますが、こうしたイメージの獲得は大人になってからの社会性や創造力にも大きく寄与するものなのです。
奥田 子どもが初めて立ったときや歩いたときは、まさに成長の証しとしてみんなで喜びますが、表象を獲得した瞬間にはたぶん気付いていないですものね。
渡辺 発達心理学を知ると、面白い事実をたくさん知ることができます。例えば、鏡に映っているのが自分の顔だと分かるのはいつからか、ご存知ですか? こんな些細なようですごい事実も、実験で分かります。
奥田 それはどういう実験ですか。
渡辺 子どもが寝ている間に、鼻に赤い口紅などを付けておき、起きたときに鏡を見せ、鼻をぬぐうようになったら自分の顔が映っていると認識していると分かるのです。それが、だいたい1歳から2歳の間くらいです。
奥田 確かに、すごい成長ですね。
渡辺 そういう実験や調査、観察などの心理学的な方法によって、人間がどういう知識や行動、感情を獲得していくかを見ていくことはとても面白いですよ。
奥田 人間の「発達」の状況を観察したりすることはとても興味深いのですが、そこに「心理学」が付くことについての意味合いを教えていただけますか。
渡辺 心という目に見えない世界を、科学的に明らかにする学問だということです。
奥田 後半では、昨今の社会をめぐる状況を含め、もう少しお話をうかがいたいと思います。(つづく)
●『大江戸捜査網』の台本とお手製のぬいぐるみ
渡辺先生のお父さまは、大学や資格取得のための講習会で無線通信の技術を教える傍ら、時代劇の『大江戸捜査網』や『銭形平次』の脚本を手掛けていた。ジャンルの異なる、すごい二足のわらじだ。お母さまはとても手先が器用で、このようなぬいぐるみをよくつくってくれたという。渡辺先生にとって、両方ともかけがえのない思い出につながっている。
心に響く人生の匠たち
「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
<1000分の第391回(上)>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。











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