【今回のテーマ】
コンビニとコンドーム
コンビニでコンドームを買う場合、たいてい1個~2個あれば十分こと足りるのに、店頭の品揃えは、6個入りが基本で、店によっては12個入りしかないなんて店舗もある。
コンビニにおけるコンドーム購買客の7割は、“緊急目的”であり、お客さまの心理状態は、その後の行為に期待感を持ち、冷静さを欠いているという、かなり特殊な状態。絶対に今すぐ欲しいという状況である場合が多く、余分な入数で、「もったいないなあ」と思いつつも、お客さまは買ってしまうのである。そうした心理をうまく利用して、入数を調整して単価をアップしているのがコンビニにおけるコンドーム販売のポイントなのだ。
30年ほど前までは、コンドームの基本的な購入場所は、薬局の前にある小さな自販機だった。「明るい家族計画」のキャッチコピーで全国の至る所にあったこれらの自販機は、90年代中盤から緊急時はコンビニ、日常使用分はドラッグストアと購買場所を変え、現在では自販機は全国に1000台ほどしかないと言われているようだ。
また20年ほど前は、コンドームを買うのが恥ずかしいという人が今よりも多かったため、コンビニでの販売スタイルも、箱をわざわざ包装紙で包んで販売していたり(余計に買いづらい気もするが……)、恥ずかしさの影響で、万引きされやすい商品ということで、ダミーの箱を売場に置いてカウンターで商品と交換する店舗があったり、極端な場合には、売場にも置かず、レジカウンターの後ろに置いて販売している店舗などもあったほどだ。
しかしそのような販売方法は、万引きは防げるものの「買うのが恥ずかしい」という心理状態のお客さまにとっては、購買に対するハードルを上げることなり、店員に声を掛けて購買するお客さまなどほとんどいなかった。
90年の中頃からエイズの広がりによって、性感染症に対する理解も急速に広まり、コンドームに対する意識が変わった。そのころから徐々に、通常の販売棚で販売されるようになっていった。それと同時にお客さまの層も変わっていき、男性がこっそり買うという購買から、近頃では、カップルで購買、かつ女性の方が支払うということも珍しくなくなってきている。
ちょうど同じ時期にベネトンやミチコ・ロンドンなどファッションブランドが手がけたカジュアルなパッケージデザインをコンドームメーカーが採用したことも、購買に対する“恥ずかしさのハードル”を下げ、販売スタイルに変化をもたらした一因として考えられる。
また、コンドーム全体売上数量は、人口減や草食男子台頭などによりマイナス傾向のようだが、0.02ミリといった薄さを追求する高付加価値商品の開発・販売により、商品単価がアップしたので、金額ベースでは横バイ。
コンビニの売り上げにおいても、市場と連動している状況で本来であれば品揃え減も考えられるが、店舗利益が基本6割を超えるコンビニの商品の中でも群を抜いた高利益商品であるため、各チェーン5品前後の安定的な展開が維持されている。また、基本、夜使用する商品ということもあり、24時間営業のコンビニとは相性が抜群であることは付け加えておこう。
各コンビニチェーンの売り上げが高い店舗としては、東京ディズニーランド(千葉県浦安市)やUSJ(大阪市此花区)など、カップル需要があるお泊まりデートスポットに隣接した店舗やデリバリー系風俗の盛んなホテル街店舗など。同商品に対する購買シーンが比較的想像しやすい立地の店舗が上位となっている。
さまざまなシチュエーションで悲喜こもごもの人間模様の中で販売されるコンドームは、お客さまにとっても、応対する店員にとっても、特別な購買シーンが繰り広げられるのだ。世相や人口動態などの社会情勢によって購買行動に変化が起こる、今後も注視していくべき世相型商品なのかもしれない。
(文=渡辺広明)

2011年まで21年間ローソンに勤務し、そのうち15年間は、コンビニバイヤーとして、さまざまなカテゴリーのメーカーと約600の商品を開発担当。同時期に、日経ビジネスオンラインで「『買わない』私が気になる売り場」や「THE21」 (PHP研究所)で連載のディレクションなどを担当した。そのほか、NPO「MEKOGA」で理事を担当する。モットーは「やらまいか精神 (浜松スピリッツ)」。