2013年は例年よりも刑法犯の発生率が低かったとされているが、強制わいせつなど前年よりも認知件数が増加している犯罪も多く、安全とはいいがたい。日本で犯罪とは無縁の生活を送っているはずの一般市民であっても、ある日突然、犯罪の加害者や被害者となってしまうかもしれないのだ。

 13年の犯罪シーンには、現代社会の必需品である携帯電話、特にスマートフォン(スマホ)が多く登場してきている。そこで、スマホがどのように使用されているのかを見つつ、犯罪傾向を読み解いていきたい。

●振り込め詐欺犯の素顔

 まず、ここ数年で被害者数と被害金額を伸ばしているのが振り込め詐欺だ。

 警視庁の発表によれば、13年の振り込め詐欺による被害額は前年に比べて33%増の383億円となっている(警察庁『犯罪統計』より/対象期間13年1~10月まで)。これで4年連続の増加となったわけだが、詐欺犯たちの顔はいまひとつ見えにくい。現状を踏まえて、刑事事件専門のアトム法律事務所の代表弁護士・岡野武志氏に話を聞いた。

--振り込め詐欺事件の加害者たちは、どんな人たちなのでしょうか?

岡野武志弁護士(以下、岡野) 最も多いのは、20~30代前半だと思います。とにかく若者という印象です。

--04年ごろから被害が拡大し始め、警察が大々的にキャンペーンを打ち出したのは09年ごろです。それから経過した年月を考えると、振り込め詐欺のシステムが確立されて新規参入者たちがノウハウを手に入れて荒稼ぎをしているようですね。

岡野 多分そうだと思います。ただ、ここ数年で振り込め詐欺が増えているのは、加害者に出所組も混ざっているからかもしれません。

詐欺が世に出始めた初期、つまり第一世代が出所して戻ってくる時期になっています。また、振り込め詐欺はIT犯罪に近く、まず携帯電話などの通信機器を駆使する犯罪なので、若い人でなければできない部分もあるのではないかとも思います。

--犯人グループの1人が息子を装い「スマホに変えたから番号を登録し直して」と電話をかけて反応を見るといった話も聞きますし、若い人のほうがやりやすいですよね。振り込め詐欺の加害者の若者の風貌は、いわゆる詐欺師という感じがしないといわれますが、実際はどうですか?

岡野 黒いジャージなどを着たチンピラ風な若者です。

--ある意味ではイメージ通りですね。そんな彼らを弁護するに当たって、彼らの経歴もご覧になると思いますが、どのような人物なのでしょうか?

岡野 学歴は人それぞれで、大卒者もいれば、高卒者もいます。ただやはり組織の上にいる人間ほど頭が切れる、というのを話していて感じます。詐欺師というより、どちらかというとビジネスライク。直接相手をだますのではなく、組織をつくって人を動かす。被害者と直接話すのは現場の部下だけなので、詐欺をしそうな雰囲気というのはないです。

--弁護を依頼してくるのは誰なのですか?

岡野 「息子が捕まったので弁護してほしい」と家族から依頼が来ることもありますし、本人が依頼してくることもあります。しかし、組織の上の者が下の者の弁護を依頼してくる時は、受けないこともあります。

--岡野弁護士の事務所は刑事事件を専門としていますが、ヤクザからの依頼はありますか?

岡野 ヤクザからの依頼は全然なくて、電話すら来ないです。おそらくそれは、当事務所が顧問契約を一切持たないからだと思います。刑事事件は扱いますが、事件単位の付き合いで、そのあとに顧問などにはならないことを明確に宣言しているのです。加えて、料金がほかの事務所よりも高いので「あそこは使いにくい」と噂が回っているのかもしれません。

--なし崩し的に顧問になるよう仕向けられることはあるのでしょうね。

岡野 ただ、ヤクザは一部を除けば、振り込め詐欺グループに比べて、みんなお金を持っていないです。

--裏社会でも格差があるということでしょうか?

岡野 実際に人をだます犯罪の現場にいる立場と、それを使う立場で分かれている感じですね。

●スマホが原因で、あなたも犯罪被害者になる?

 振り込め詐欺よりも、もっと身近な犯罪についても紹介したい。スマホは、いまやビジネスパーソンの必需品なだけに、誰もが被害者や加害者となり得る可能性を含んでいる。スマホが絡んだ事件が13年の犯罪の傾向でもあるのだ。不正アプリによって個人情報が盗まれたり、ワンクリック詐欺被害に引っかかる事例も急増している。FacebookやTwitterといったSNSのアカウントが乗っ取られてしまったりする、個人をターゲットにした事件も多く見られた。

 このように、個人が狙われるケースが増えているのは、多くの人がスマホを所持し頻繁に使っているからともいえる。裏を返すと、誰もが手軽に犯罪に加担できることでもあるのだ。岡野弁護士も、この点について警鐘を鳴らしている。

岡野 スマホの普及に比例して、罪の意識が薄い加害者もどんどん増えています。事件全体を通じても、一番感じるところです。

--スマホに絡んだ事件というと、真っ先に思い浮かぶのは盗撮でしょうか。

岡野 私のところに持ち込まれる、スマホに絡んだ依頼のナンバーワンが盗撮です。性犯罪としては軽いレベルと思われがちですが、れっきとした犯罪です。罪状は「迷惑行為防止条例違反」で、痴漢と一緒です。本当に増えています。

--地域的な傾向はあるんでしょうか?

岡野 スマホによる盗撮は地域差が大きくて、東京都がダントツに多いと思います。特定の場所としては横浜駅が挙げられます。

横浜駅は盗撮のメッカといえます。全国どこの地方でも盗撮はあるんですが、件数自体は格段に少ないです。

--人口の多さに比例するのかもしれませんし、横浜駅のように有名だからこそ盗撮マニアを引き付けてしまうということもあるかもしれませんね。さらに言えば、スマホのように誰でも撮影できる機械を持っていることで、誘惑に負けてしまう常習犯も多そうですね。ほかにスマホを使った事件や性犯罪といえば、三鷹女子高生刺殺事件で話題になった「リベンジポルノ(別れた元パートナーの裸の写真・動画などをインターネット上へ故意に流出させる復讐目的の嫌がらせ行為)」もあります。

岡野 リベンジポルノは厳罰化したほうがいいですね。ひどい犯罪です。ストーカーについては、事件が続いたので警察も神経質になっているでしょうけど、危害を加える前のつきまとい行為なので、立件しづらいんです。

--法律が追いつくのかどうかはわかりませんが、現状では被写体が18歳未満であれば児童ポルノ禁止法違反、成人の場合だとわいせつ物頒布等の罪、内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪が適用されるようです。今後は民事訴訟も増えていくのかもしれません。

岡野 スマホの画質の向上とともに、犯罪の質も少しずつ変わってきているように思います。

--格段に進歩して、操作性も向上したことも関連しているのではないでしょうか。

岡野 それもあるでしょうね。児童買春も増えていて、LINEの登場が拍車をかけていると思います。誰でも簡単に見ず知らずの人とメッセージのやりとりができるので、以前は慣れている人だけがやっていた援助交際に、その場の思いつきやノリで不意に飛び込む人が増えてきて、今まで犯罪に巻き込まれなかった人が巻き込まれてしまう可能性が出てきたんです。

--スマホは盗撮以外に援助交際でも使われているんですね。

岡野 使われています。児童買春は、今までは出会い系サイトで隠語を駆使してやりとりしていました。そこにLINEのID交換に特化した無料掲示板が出てきて、未成年の女の子と大人の男性が接触するという構造が根付いてきた。スマホがここまで普及したことで、敷居が下がったんだと思います。ただ、携帯電話は履歴が残るので、裁判でも証拠として採用されます。便利なだけではないということですね。

 いかに善良なビジネスマンであろうとも、いつも持っているスマホさえあれば誰もが犯罪に加担できてしまう。その半面、自分が被害者になる危険性もある。

そのボーダーラインは、ちょっとした判断ミスや不意の誘惑だったりする。誰もが犯罪加害者・被害者になり得るということを踏まえて、14年も警戒を続けていくべきだろう。
(取材・文=丸山佑介/犯罪ジャーナリスト)

●アトム法律事務所弁護士法人
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