現在、アクリフーズ群馬工場生産の冷凍食品に農薬のマラチオンが混入し、全国で健康被害者が続出して640万パックが回収対象になっています。
食品リスクには大きく2つのリスクがあります。ひとつは「意図的ではないリスク」、もうひとつは「意図的に発生させられたリスク」です。意図的ではないリスクに対しては、HACCP(危害分析・重要管理点)手法で対応する仕組みができ上がってきています。しかし、意図的に発生させられたリスクは、HACCP手法でもある程度対応できるものの、それ以上に社会全体での対応が必要になってきます。特に法的な面です。こういった意図的に発生させられたリスクは「フードテロリズム」といい、米国やEUでは我が国より先んじて対応が進んでいます。
●フードテロリズムの可能性高い今回のマラチオン混入事件に関しては、明らかにフードテロリズムということができます。まず食品の流通の実態から考えると、全国に被害が広がっていること、ひとつの工場の生産物であることから、流通の川下で発生したのではなく川上で発生したことは間違いないと考えることができます。そして混入した商品が極めて多岐にわたり、材料が共通でないものも存在することから、原材料段階の混入ではないことも明らかです。
本稿執筆時点(1月7日)では原因は特定されておりませんが、加工ラインの実態から状況を検討すると、ピザやコロッケは明らかに製造ラインが異なりますので、製造段階でも極めて出口に近いところ(おそらく梱包直前から梱包作業あたり)での混入ではないかと考えることができるのではないでしょうか。
このように考えると、今回はフードテロリズムである可能性が高いと考えられます。
フードテロリズムはなぜ発生するのかというと、食品は多くの人に無差別に影響を与えることにつながるので、社会に与えるインパクトが極めて大きいことにあります。意図して行った人物には、社会に対する悪影響を及ぼそうと考えて行ったパターンと、その企業にダメージを与えることを意図して行ったパターンと、大きく分けると2つあります。いずれも食品で行うと極めて影響は大きくなります。欧米では特に前者に対して警戒しておりますが、後者も含めて管理と罰則を法的に強化しています。
●被害者・企業の責任追及、問題解決にならず 被害者は誰かというと、間違いなく健康被害を受けた消費者であり、社会です。そしてもうひとつ無視してはいけない被害者は、企業です。前出のメタミドホスの事件では、天洋の工場は閉鎖にまで追い込まれました。今回のアクリフーズにも多大なダメージがあるでしょう。
そして多くの評論家やメディアは「企業の管理が悪い」というような論調で企業を攻撃する可能性があり、それこそフードテロリズムを行った人物の意図通りの結果になっていってしまいます。これはテロ行為なのであって、消費者も企業も社会もすべてを攻撃してきているものです。
ゆえに、企業の管理責任を追及することで解決するものではなく、すべての食品にかかわる経営体で発生しうるリスクなのです。なお、天洋の工場もHACCP手法は取り入れていましたし、群馬の工場も高度なHACCP手法を用いるISO22000を取得しており、管理水準は我が国の中でも高いものです。なので、一企業の管理の問題ではないということを認識すべきだと思います。
防止方法は、これが「テロである」という理解をするところから始めます。社会が単なる一企業の問題で片付けるのではなく、テロと戦う姿勢を示し、法的にテロ行為としてみなす整備が求められます。決して威力業務妨害というレベルではないというのが欧米の認識であり、この点は我が国も同様に取り扱うようにしていくことが防止方針としてまず求められます。
(文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授)