今から15年後の2030年の東京は、おひとりさまとヤンキー世帯だけになっているかもしれない。

「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/3月1日号)は『単身社会のリアル ひとりで生きる』という特集を組んでいる。

「男女ともに未婚化が進み、2030年には30代以上の単身世帯数は約1600万になると予想される。特に中高年男性の4人に1人は一人暮らしとなり、男性の単身化が加速する。来る超単身社会をいかに生き抜くべきか」という内容だ。同誌は「高齢ニッポンを考える」という連続特集を組んでおり、今回はその第3弾だ。

 女性の社会進出や価値観の多様化などに伴い、日本では1980年代半ば以降、総人口における単身世帯率が上昇の一途をたどっている。それまでの日本のスタンダードだった「夫婦2人と子ども」を単身世帯が抜いて標準世帯になってしまった。30年、男性の生涯未婚率は30%弱、女性の生涯未婚率は20%弱になるという。

 単身化や個人主義の加速によって、人間関係にも変化が表れている。1月下旬に開かれた博報堂の生活総合研究所は「インフラ友達」と称するセミナーを開いた。

「血縁や地縁、職縁が薄まっている一方、SNSやスマートフォンの普及によって、今後は一人が何役もこなすのではなく、たとえば精神的に助けてくれる友人や、食事や趣味を楽しむ友人などそれぞれの目的に見合った友人を持つようになる」というのが趣旨だ。

「今後は家族のようなべったりとした『セロハンテープ型』ではなく、くっつくけれど自分の意思で剥がせる『付箋型』の関係が増えるのではないか」と、ある研究者は語る。

●地方に増加する「ヤンキー世帯」

「インフラ友達」が都会的な生活スタイルだとすれば、全国的には「ヤンキー世帯」が一般的な生活スタイルになるかもしれない。

 ライバル誌「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/2月22日号)は『消費増税でも売れる!お客をつかむ33の新法則』という特集を組んでいる。「消費者のニーズが多様化し、セグメント化も複雑になる中、多くの企業が『お客の姿』が見えにくくなったと嘆いている。だが、思い描いている消費者像や、それに到達するためのアプローチが間違っている可能性はないだろうか」という内容だ。

 この特集で注目すべきは「ヤンキー世帯」の全国的な増加だ。ヤンキーといえば、不良や暴走族を思い浮かべがちだが、こうした典型的なヤンキーは減り、現在の「ヤンキー世帯」とは「地方の低学歴・低所得層」のことだ。

「決して収入は高くなく、高学歴でもない。家族や仲間を大事にして、何より地元意識が強い。小中学校時代の同級生と今も密接につながり、結婚相手になることもしばしば」という人々で、好きな言葉は「絆」、本や新聞は読まないが、竹島、尖閣諸島問題で政治には興味を持つようになったために「新保守層」とも位置付けられる。

 こうした「ヤンキー世帯」の消費動向は、「ママ雑誌で特集される『一人当たり1食50円の節約レシピ』に精を出し、家族みんなで食べられる鍋やカレーが人気メニュー。普段は徹底的にお金を使わず、週末は地元のイオンをぶらぶらしているだけのことも多い」。日頃聴く音楽は、絆や仲間を重視するEXILEが人気。都心の若者がしなくなった、酒やたばこにパチンコ、車など従来型の消費を続けている。

中古のプリウスやミニバンが人気だ。ある自動車評論家は「自動車メーカーの国内市場はヤンキーに支えられている」と語る。

●格差拡大が生み出したヤンキー経済

 現在、原田曜平・博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの著書『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)も話題になっている。

 原田氏は本書で「上『京』志向がなく、地元で強固な人間関係と生活基盤を構築し、地元から出たがらない若者たち」を「マイルドヤンキー」と定義し、「経済成長ステージを享受した親の地位や収入を超える、大金を稼ぐ、有名になる、都会に出る、などといった大きな夢は抱かず(略)ただ生まれ育った5km四方の地元で、竹馬の友と『永遠に続く日常』を夢見るようになっている」「マイルドヤンキーたちは消費意欲を持った案外『優秀な若年消費者』であり、未来の日本経済は、『(マイルド)ヤンキー経済』が牽引していくだろう」という。

 今回の特集や原田氏の新書を読むと、ヤンキー世帯や「マイルドヤンキー」とは聞こえがいいが、いわゆる“中間層の没落(経済の停滞と格差の拡大)”の問題であり、マーケティングの視点から広告代理店的なネーミングをしただけにすぎないような気もする。

「週刊ダイヤモンド」の同特集内の記事『法則20「東京の生活レベルを地方へ」もうそんな手法は通用しない』において、マーケティングアナリストでカルチャースタディーズ研究所代表の三浦展氏のインタビューを掲載しているが、マーケティングをする側の問題点を指摘している。

「僕のクライアントは大企業ばかりですが、彼らを見ていると、自分自身の給料が高過ぎるんです。東京の大企業で働く大卒社員だと年収600~800万円くらいでしょうが、これでは地方の消費の状況なんて実感できないでしょう。でも、地方なら年収200万円台が普通です。東京でも女性なら400万円だったら高収入に入る。なのに、そういう層になんとかして高いものを買ってもらおうとしている。彼らの感覚で『みんな買うはずだ』と言っても、買いませんよ」

 30年には、さらに格差が広がっているだろう。

そのとき、広告代理店や出版メディアの高額所得者は格差の拡大する「地方の低学歴・低所得層」になんとネーミングをして、訳知り顔になるのだろうか。
(文=松井克明/CFP)

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