「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/6月7日号)は『社長の器 後継者はどこに? ファミリービジネスの苦悶』という特集を組んでいる。「創業者が経営を行うファミリービジネス。
永遠の課題は後継者問題だ。候補者が突然、いなくなったとき、育成時間がないとき、経営者はどういう決断を下すのか」という内容だ。

 今回は、3社の特徴的な後継者問題を紹介している。

 まずは、人気キャラクター「ハローキティ」でおなじみのサンリオだ。特集記事『サンリオ 株式市場も困惑 帝王学授けた息子が急死 86歳トップは決断できるか』によれば、現在のサンリオの社長・辻信太郎氏は86歳。息子の邦彦副社長を後継者に据えようと、40年近く手元に置いて帝王学を授けてきた。創業以来、初めての経営トップ交代を2014年春に定めたその矢先の13年11月、後継者になるはずの邦彦氏が61歳で急死。トップ交代を待ち望んできた株式市場は「邦彦の急死で経営の先行きが見えにくくなると、それまで4000円台に乗せていた株価は半年の間に2000円台に暴落する」。

 信太郎氏は5月21日のアナリスト向け決算説明会で「次の社長を決めるまでには2年が必要。簡単に誰かを連れてくることはできない」と語った上に、この決算説明会では、「ハローキティ」を使った物販事業に力を入れるとも表明。利益率が高いライセンス事業が収益をけん引してきたが、戦略を転換すると受け止められ、翌日、サンリオ株は大量の売り注文となりストップ安に沈むことになった。

 不透明になった後任の社長人事だが、同誌はキティのキャラクターデザインを一手に握ってきた山口裕子取締役に焦点を当てている。

取締役ではあるが、キティデザイン一筋の経歴から見て、経営全般に精通しているとはいえないが、本人に意欲もあり、社内を引っ張っていけるのは山口取締役しかいない。象徴的なトップとして御輿に乗せ、その御輿を外部出身の鳩山玲人常務(名家・鳩山家の一員で、米ハーバード大学でMBAを取得、急逝した邦彦前副社長に招かれてサンリオ入りした)や国内部隊の実務家が担ぐ方法しかないのではないか、としている。

●社長を公募する上場企業も

 次に、特集記事『ユーシン 2度目の社長公募は成功するか』では、新聞公募というただでさえ異例の後継者選びを2度も繰り返している企業があると、独立系の自動車部品メーカー・ユーシンの取り組みを紹介している。

 現在の経営トップは田邊耕二社長。1965年から経営トップとなり、売り上げを50倍に伸ばした名物社長だが、現在80歳。体調に不安を覚えたことを契機に過去約10年間後継者選びを進めてきたが、その結果は失敗の連続で、そのたびにメディアをにぎわせてきた。06年には当時の筆頭株主だった投資ファンドから日産自動車の元常務が送り込まれてきたが、1年3カ月で解任。

 10年には、上場企業では異例の新聞広告で次期社長を「年収3500万円保証」で公募したことで、一躍、ニュースになった。公募には2週間で1722人の応募者が殺到し、社長候補として、東京大学を卒業した外務省官僚と副社長候補としてソニーの関連会社出身者が選ばれた。

 しかし、「(外務省官僚は)根本的な発想が公務員で、金もうけに徹しきれず、商売人に不向きだった」「(ソニーの関連会社出身者も)働き方が期待外れだった」(田邊社長)と後継者選びに失敗した。

 今回の2月の社長公募では、最低報酬を1億円に引き上げ「我こそは地頭が大変良いと思われる方」を追加の条件とし、「現在の会社で優遇されている人にも十分響く」条件とした。今回の公募には前回の10分の1以下の約140人が応募したが、田邊社長が体調を崩しがちで、候補選定が停滞しているという。

 一族経営に終止符を打とうとするのは老舗玩具メーカー、タカラトミーだ。特集記事『タカラトミー 外国人の手腕に託されたトミカとリカちゃんの将来』によれば、「うちには世代交代が必要だ」としてきた富山幹太郎社長は、今年で60歳を迎えるのを機に、ヘッドハンティング会社の紹介を受けて、オランダ出身の50歳のビジネスマンに副社長兼COO(最高執行責任者)職を委ねることにした。就任するのはハロルド・メイ氏。ユニリーバ・ジャパンや日本コカ・コーラなどでマーケティングを担当してきた人物で、30年間は日本で暮らしており、子どものころはミニカー(トミカ)が日本人の子どもと仲良くなるツールだったという。

「日本人より日本人らしい部分があるが、合理的でスピード感も持っている」点が富山社長の高い評価を得たという。

「僕が年を取れば取るほど老害で悪い影響を与えるような気がしてね。企業価値が高まることを一番に考えた」という富山社長と、変革を起こし3年以内には結果を出すつもりというメイ氏。創業家と経営の分離の試みは成功するかどうか。
(文=松井克明/CFP)

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