しかし、同番組のレギュラー放送終了後はショートコントのブームも去り、出演していた芸人たちも徐々にテレビでその姿が見かけられなくなっていく。ななめ45°もご多分に漏れずであった。
そこで今回は、7月に単独ライブ『TRIO DE CARNIVAL!!「Funky Juice」』を控えたななめ45°に、
「ブームに乗って世に出た芸人たちの現在」
「ブームが去ったあと、どのように生き抜いてきたか」
「下池輝明の隠し子騒動(?)」
などについて、『這い上がるヒント~諦めなかったお笑い芸人30組の生き様』(東邦出版)などの著書を持ち、お笑いライブの主催・プロデュースも手掛ける著述家・大川内麻里が聞いた。
●辛うじて生きてます--2010年に『爆笑レッドカーペット』のレギュラー放送が終わり、現在のご活動は?
下池輝明(以下、下池) テレビ埼玉の『ごごたま』という情報番組で、週に1回パーソナリティとしてレギュラー出演させていただいています。それがメインかな……。
岡安章介(以下、岡安) だから、埼玉の人は、僕たちが生きていると知っている(笑)。
土谷隼人(以下、土屋) 千葉と神奈川でも放送されているんですけれどね。いま首都圏を外堀から攻めています。首都圏トライアングルです(笑)。
下池 埼玉では、電車の中でおばちゃんなんかに声をかけられますね。といっても、顔を覚えてもらえているわけじゃなくて、その日の放送で着てた服で「あんた今日テレビに出てたでしょ」って認識されるんですけれど。
--視聴者の間では、やはり電車ネタが鮮烈な記憶として残っているようですね。
岡安 電車ネタといえば、いま『笑神様は突然に…』(日本テレビ系列)に「鉄道BIG4」として、中川家の中川礼二さん、ダーリンハニーの吉川正洋さん、ホリプロ・マネージャーの南田裕介さんとご一緒させていただいています。あのネタのおかげで、お声をかけていただけたので、ありがたいですね。
土谷 おまえ、あまり電車好きじゃないのになぁ(笑)。
岡安 バカ! 違うよ。
土谷 好きじゃないでしょ? だって。
岡安 いやいや、好き好き……。
下池 ほかの鉄道BIG4の皆さんと比べちゃうと、ってことでしょう? あの人たちがスゴすぎるんだよ(笑)。
岡安 そんなわけで、辛うじて生きてます……。
土谷 今日は7月にやる単独ライブの話もさせてもらうのに、お客さんがこの記事を読んで、同情で観にきてくれたんじゃあ、笑いにならなくなっちゃうかも。
岡安 いいじゃん、どんな手を使っても観にきてもらおうよ!
下池 実は、お客さんが集まらなかったら解散しよう、という話になってるんですよね……。
土谷 嘘はやめよう(笑)。解散しませんよ! 最近の活動としては、昨年『歌ネタ王決定戦』(毎日放送)という音ネタの大会が新しく始まったのですが、実は僕たち、準優勝してるんですよ。
決勝でやったのは、上司から説教されていて言われた言葉をメモしていると、だんだんラップの歌詞みたいになってきて、という音ネタ。音ネタはお客さんもノッてくれるので、客席と舞台との一体感があって楽しいです。
●強さ増す逆風--前回『這い上がるヒント』でインタビューさせていただいた時は、ちょうど『レッドカーペット』のレギュラー放送の終了直後でしたね。周りの芸人仲間の方々の引退や解散が相次いでいたこともあり、自分たちもこれからどうなるんだろうと不安を抱えていらっしゃいました。
土谷 当時よりさらにお笑い番組はなくなったので、より逆風は強くなっていますね。
下池 去年くらいは精神的にヤバかったかも。でも数年たって、「考える時間がもったいない」って、今では開き直っちゃった。
岡安 一周して、つらいのを楽しみだしましたね。
下池 仕事の本数や収入が、当初は目に見えて激減していったのでつらかったです。イベントなどのステージでネタをやる営業だって、以前はちょっとテレビに出ていれば声がかかっていた。
岡安 でも、生きてればいいよね。
下池 お笑いどうこうじゃないな。生きていれば、それでいい。
土谷 重たいよ!
●盛り上がるお笑いライブシーン--急降下していく状態が、落ちるところまで落ちた。そこで開き直って、状況を楽しみだしているということでしょうか?
下池 でも、ちょっと持ち直してきてるかな。
岡安 アベノミクスでな。
下池 営業も、そのうち企業がやってくれるようになるんじゃないか?
岡安 お笑い番組がなくなったことで、ネタを見せる場は失いましたが、変わらず毎月1本は必ず新ネタをつくり続けてはいます。都内のお笑いライブには出ていて、そこでまだお客さんからナマの笑いをもらっているので、自分を保てていますね。これがライブでウケなくなったらつらいと思うんですけれど、まだナマの笑いが、2~3個はあるんで。
土谷 少ねえな! でもお笑いのライブシーンは盛り上がっているんですよ。
下池 いまテレビでネタを見られない分、実はみんな見たいんじゃないかなぁ。だから、そろそろお笑い番組もつくっていいんじゃないかと……。あんまり言えないですけれど。
土谷 そこは、お前の判断じゃないだろう。
--周囲の芸人さんたちが引退や解散されていく中、ご自身もそういった選択が頭をよぎることもあるのでは?
下池 僕は結婚していて子どももいますし。妻子のことは、ずっと隠してたんですけれど(笑)。確かに一瞬、普通の仕事をすることも考えました。でも、それは意味わかんないでしょって思って。芸人という仕事が楽しいし、それに仮にも、もう人生の半分近くもの時間を費やしている仕事ですよ。今さらほかの仕事という選択肢はないかなって。
岡安 やめようか考えてたんだ、惜しかったな……。
下池 ちょっと待って、相方がやめさせようとするの、おかしいでしょ。
土谷 (岡安に)もうひと押しだったな。
岡安 (土谷に)あぁ。下池、それいつ思ったの?
下池 1カ月くらい前かな。といっても、悩んだの5分くらいだよ。
岡安、土谷 短えよ! そんなの悩みって言わないよ!
下池 俺、人生の中で悩んだ時間って、トータルでたぶん5時間もないですよ。悩みかけたら、すぐ「いやいや、そんなの意味ないから」って気持ちを切り替えちゃう。
●一歩突き抜けられない芸人たち--毎年開催されるコントの大会『キングオブコント』(TBS系で放送)では、惜しい結果が続いていますね。
下池 そうですね、09年の第2回大会からずっと準決勝止まり。決勝大会は準決勝で敗退した芸人が審査する仕組みなので、審査員用のTシャツがいっぱい家にあって、家族で着ています。悔しいですね。決勝でネタやりたいです。
土谷 前年まで準決勝まで来てなかったのに、いきなり決勝に行く人もいますけれどね。
下池 優勝したい! お金ほしい! リアルな話、お金を渡したら、嫁も認めると思うんですよね。
土谷 嫁には一切認められてないからな、お前。
下池 でも、子どもには認められてるよ。
岡安 気を使ってるんだろ。
下池 やめろよ、子どもに気を使わせて同情されてる、みたいな。子どもがお笑い好きアピールしてくるんだけれど、あれは嘘か?
岡安 お笑いは好きなんだろうけれど、お前に憧れとかはないよ。「お父さんの笑いだったら、(子どもの自分でも)追い抜けそうじゃない?」って。
--お子さんは、下池さんのお仕事をわかっていらっしゃるんですか?
下池 わかってますよ。6歳の男の子と4歳の女の子なんですけれど、僕たちのDVDを観て、ドアを閉めて兄妹で漫才なんてしてます。
岡安 その時点で、お前より面白いよ(笑)。
下池 書かないでください、俺より子どもが面白いとか。
--ところで話は戻りますが、下池さんは妻子持ちであることを隠されていたと?
下池 人気が落ちるかなって思って隠していたんですが、最初から人気なんてなかったことに気付いて、公開に踏み切りました(笑)。だってFKD48(ふきだまり48)っていう芸人ユニットの総選挙では、1位が磁石の永沢たかしで1784票入ったのに対して、僕は4票。当然最下位で、しかもそのうち2票は同じ人がネット投票と会場投票をしてくれたものでした。
--皆さんは、今年で35歳。芸歴15年目の節目の年でもあります。
岡安 Facebookなんか見ていると、同級生が「家を建てました」とか「家族で海外旅行に行きました」「ファミリーカーが納車されました」とかアップしているんですよね。会社でも役職に就いたり出世していたり、起業したって人も。
下池 一方、こっちは“若手”芸人。差を感じますよね。飯食いに行っても、金持ってるし。違う道を歩んでいるわけだから勝負するわけでもヘコむわけでもないけれど、がんばらなきゃなって。
岡安 同級生がそれくらいの感じだってことに驚くし、感動しますよね。
土谷 ああ、自分たちもそんな年齢なんだ、って。周りが芸人ばかりだと、世間一般の感覚との間に溝ができてしまって、自分たちがそういう年齢だということに気付かないんですよね。
岡安 大人だなって、現実を見せられる感じ。この春は、子どもの入学式の写真も目立ちました。
土谷 見るなよ、Facebook。ヘコむから。
下池 でもあれはみんないいところだけ、がんばっているところだけを見せるから、いい刺激にはなるよね。僕もがんばらなきゃなって。ただ毎日見すぎるとしんどくなるかも。たまに見て、刺激もらうくらいならいいんじゃない?
岡安 メールくらいしか連絡手段のなかった友達と、新しいかたちでつながれたり、お互い近況を知れたりするから、いいツールですよね。でも……やめますか、Facebook。
土谷 ヘコんでんじゃねえかよ(笑)。
●「生のお笑いって、こんなに面白い」--毎年、夏に開催されてきた単独ライブ『TRIO DE CARNIVAL!!』が、今年も7月11日(金)~13日(日)に開催されます。毎回、開催回数をさりげなくタイトルに盛り込まれていて、今回は10回目だから「Funky Juice」とのことですね。
岡安 ここから何かが起きるといいよね。ハリウッド映画の人が、たまたま観にきていたりしてさ。
土谷 どんなたまたまだよ。
--前回のライブでは“仕掛け”があまりにも見事で驚かされました。
土谷 そうですね。ただネタを並べるだけじゃ面白くないから、ちょっとした点をつなげていって、全体でひとつの映画を観ているような世界観になるよう仕上げています。
岡安 観にきてくれたお客さんへのサービスというか。笑いではないところで、「なるほどね、実はこういう謎があったのね」とか、「くだらないところでつながっているネタだったのね」などと、押しつけがましくなく楽しんでもらえたらいいなと思っています。
下池 そして、最後に感動モノを持ってくるといいって、本かなんかで読んだ。
土谷 ……違うでしょう。観にきてくれた人に気持ち良く帰ってもらうためでしょう。ちょっと下池、しゃべらないで! 俺らの意向とは違うこと言うから(笑)。
岡安 そういう仕掛けは今回もやりたいと思っています。また、会場の「中野・劇場HOPE」は、僕たち自身が実際観に行ってこだわって選んだところです。普段は演劇などで使われている場所で、お笑いライブは初めてだそうで。ネタで楽しんでもらうことはもちろんですが、ほかにも駅から劇場への道のりで、何かいたずらっぽい仕掛けをお客さんにしたいなとか、オープニングでもこだわりたいなとか考えています。……って、まだ考えてないのにこんなこと言っちゃって、もし何もなかったら、思いつかなかったんだなって思ってください。
土谷 生のお笑いライブというものを体験したことない人には、ぜひ来ていただきたいですね。1時間半、一組の芸人がネタをやるなんて、テレビではないですから、きっと想像もつかない世界なのではないかと思います。お笑いが好きで、ネタ番組は毎回録画していてという人でも、ライブにくると、「生のお笑いってこんなに面白いんだ」って、びっくりするそうなんですよ。
お笑いのネタがいま目の前で展開されている、自分の目で観るという面白さ。カメラ割りなんてものもなくて、自分の目で観て、おかしいところを探して笑う。ネット動画やテレビとはまったく違う体験だし、生のほうがいいという声をよく聞きます。
--電車ネタを観たい、という声には応えていただけるんでしょうか?
岡安 でも「電車ネタやります」って記事に書いてもらっちゃうと、その、ディーゼルとか汽車とかのネタができなくなるから……。
土谷 細かいよ! 世の中の人、そんな厳密に考えてないだろう。みんなひっくるめて「電車」ってとらえてるってば。
下池 鉄道マニアの前でやるわけじゃないだろう。
岡安 怖いんだよ、マニアの人は。ちょっと混同しちゃうとうるさいんだから。
土谷 ていうか、おまえやっぱり電車、そんなに好きじゃないだろう?(笑)
岡安 好きだ、好きだ!
下池 だってチャリ移動じゃん。電車に乗ってる時間、俺のほうが長いよ?
岡安 電車と並走するためのチャリだよ。
下池 何鉄だよ(笑)。
--ライブ、楽しみにしています。ありがとうございました。
(構成=大川内麻里/著述家)
【インタビューを終えて】
岡安さんの圧倒的な表現力。土谷さん、岡安さんから編み出されるネタの緻密さ。そして、下池さんの意識の高まり。それらに支えられて、ななめ45°の笑いはある。体感型の笑い。まさに“巻き込まれた”――それが、前回彼らの単独ライブを訪れたときの感想である。
また彼らは、筆者が過去に行ったインタビューの中でも屈指の笑える時間を提供してくれる。この日、岡安さんと土谷さん、筆者で「お先にどうぞ」と飲み物を譲り合っていたところ、一番最後に部屋に入ってきて、ひとつだけしかないスポーツドリンクを迷いなく持ち去っていった、それが下池輝明という人間である。こういう人になりたい。そう思わされた瞬間であった。
【ライブ情報】
・タイトル:『ななめ45° 単独ライブ TRIO DE CARNIVAL!!「Funky Juice」』
・会場:中野・劇場HOPE(東京)
・公演スケジュール:
7月11日(金)開場18:30 開演19:00
7月12日(土)開場14:30 開演15:00/開場18:30 開演19:00
7月13日(日)開場14:30 開演15:00
・料金:3000円(全席自由席)
チケットぴあにて好評発売中
0570-02-9988(Pコード:437-174)
【ななめ45°プロフィール】
岡安章介(ボケ)、土谷隼人(ツッコミ)、下池輝明(ボケ)によるお笑いトリオ。ホリプロコム所属。駅員ネタで人気を博した。ほかにも音ネタ、言葉遊びネタや勘違いネタなど、そのよく練り上げられた、バリエーション豊かなネタには定評がある。3人は「芸人になる前、ひきこもりじゃないニート」であったと告白している。

1977年、福岡県生まれ。著述家・編集者。自身の被虐待や母娘関係の問題、不登校や高校中退(大検を取得し進学。心理学専攻)、離婚、うつ病などの実体験をもとに活動。執筆、講演や心理相談のほか、出版プロデュースや、お笑いライブの主催・プロデュースを手掛ける。13年に渡るキャリアのなかで、300人以上にインタビューを行い、各界の著名人との親交も深い。naked heart代表。著書に『這い上がるヒント~諦めなかったお笑い芸人30組の生き様』(東邦出版)、『うまくいかない自分から抜け出す方法』(かんき出版)ほか。好評連載『芸人の半生は笑えない~私があきらめず天職につけたワケ』『幸せになるための 母娘関係・考~私は私、母は母』『チバレイ&マリの壮絶うつトーク~うつ女子ほど、仕事も恋もうまくいく!』など。
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