『Doraemon In Real Life』(無料動画共有サイト「YouTube」より)
動画URL http://youtu.be/-1vh43NTQgU

 日本人にはなじみが深い漫画『ドラえもん』(小学館)。アニメや映画も多数の作品があり、主人公のドラえもんは、まさに国民的キャラクターとなっている。

しかし、意外にもベトナムの若者たちが『ドラえもん』のパロディ動画を無料動画共有サイト「YouTube」に投稿し、話題となっている。果たして、その内容とはいかなるものか?

●世界各国から大きな反響

 ドラえもん役は全身タイツのようなコスチュームにヘルメットをかぶり、青ずくめとなった中年男性で、コスプレにしてはお粗末な出来映えだ。のび太はちょっと老けていること以外は高い再現率で、スネ夫は角刈り、ジャイアンに至ってはなんと女の子だ。もうちょっとマシな配役はなかったのか、と首をかしげたくなるキャスト陣がシュールなコントを延々繰り広げるという内容に、世界中のインターネットユーザーから嘲笑交じりのコメントが殺到。

 一方、同作品の母国である日本国内の反応は、「しずかちゃん役の子がかわいい」と賞賛する声をはじめ、概ね好意的に受け取られているようだ。富山大学名誉教授で、「ドラえもん学」の提唱者でもある横山泰行氏は、同作品を次のように評する。

「漫画連載初期の設定を積極的に参考にしており、非常に楽しい動画です。例えば、しずかちゃんのヴァイオリン演奏は、現在の設定ではジャイアンリサイタルに匹敵する音の公害とされていますが、初期はその実力を天才と称されています。この動画内のしずかちゃんはヴァイオリンを上手に弾いていますから、初期の彼女を描いているのでしょう。また、『なぜジャイアンが女の子なのか』と指摘されていますが、これはジャイアンではなく、ジャイアンの妹で初期におてんばな設定だったジャイ子だと思います。もともとジャイ子はバットを持ってのび太を追いかけ回したりもしていたほど荒っぽかったので、つじつまは合います。以上のように見てみても、この作品はよく再現できていると思います」

 制作した本人たちがどこまで意図しているかは不明だが、このような考察を踏まえてあらためて鑑賞してみると、この動画もなかなかあなどれない。


●ベトナムで放送当初の視聴率は40%

 この動画を制作したのは、ベトナム・ハノイで活動する若手俳優グループ「THE5050」のメンバーだが、異国の若者たちがパロディ作品をつくったということに驚く。『ドラえもん』の海外での認知度は、どの程度なのだろうか?

「1980年代に台湾、香港、タイから海賊版の『ドラえもん』コミックがアジア全体に広がりました。その後、さらに韓国、中国、マレーシア、インドネシアなど9カ国でアニメが放送され、大変な人気を得ました。それからヨーロッパ、中近東、中南米にも浸透し、『ドラえもん』は世界的なタイトルとなりました。作者の藤子・F・不二雄先生は亡くなる前に、ベトナムの子供たちのために『ドラえもん教育基金』を設立しており、ベトナム国内における『ドラえもん』と藤子・F・不二雄先生の人気は絶大です。2000年より同国内でアニメが放送されましたが、開始当時の平均視聴率は40%近かったと聞いています」(横山氏)

 ベトナムでの『ドラえもん』人気は、作品の魅力のみならず、異国の子どものために教育基金を設立した藤子・F・不二雄氏の優しさによるところも大きいのだろう。

●『ドラえもん』が日本経済に与える影響

 そんな世界に誇れる文化である『ドラえもん』だが、経済的視点で見た場合、一体どのような効果を日本にもたらしているのだろう。

「日本は現在さまざまな文化を世界に発信していますが、その中でも最も強い影響力があるのは、コミック、アニメ、ゲームなどのコンテンツ産業といわれています。『ポケットモンスター』(ポケモン)の全世界での経済的波及効果は1兆円を超えているともいわれており、コンテンツ産業の先導役である『ドラえもん』も世界最古のニュース雑誌で格式が高いアメリカの『タイム』誌で特集されました。8ページにわたって紹介されたのは、トヨタ自動車や日立製作所でも成しえなかった快挙で、『ドラえもん』がいかに影響力があるかがわかります。同作品の日本への経済的貢献度は非常に高いといっていいでしょう」(横山氏)

 日本のアニメが世界の人々を惹きつけるコンテンツとなって久しいが、そのパイオニアこそが、私たちが小さい頃から親しんだ『ドラえもん』だったようだ。ドラえもんの誕生日まで、あと100年足らず。

その頃までに日本のコンテンツ産業をさらに成熟させ、生まれてきたドラえもんを驚かせたいものである。
(文=武松佑季/A4studio)

編集部おすすめ