住友3Mは、米3Mの完全子会社になり、9月1日付でスリーエムジャパンに社名変更した。米3Mのインゲ・チューリンCEO(最高経営責任者)は書面で「われわれは50年以上かけて住友3Mを採算性の高い事業に成長させてきた。(完全子会社化によって)特に大きな成功を収めた住友3Mの全体を掌握できる」と述べ、戦略的な株式取得だったことを明らかにした。
住友3Mは1961年、米3Mが50%、住友電工とNECが25%ずつ出資し、合弁会社として発足した。2003年にNECが保有株を米3Mに売却して撤退。資本金は189億円であり、株式は公開していない。住友3Mの主要事業は工業用テープや接着剤、フィルムなどの製造で、住友3Mグループ9社の13年12月期連結売上高は2485億円、米3Mの世界最大の系列会社だった。
住友電工は米3Mとの半世紀にわたる提携関係を解消するが、提携で得たものは大きかった。電線製造企業だった住友電工は、米3Mとの提携が刺激となり、手掛ける製品が多様化した。
「今後50年間、100年間、成功を続け、環境の変化に対応していく企業を1社だけ選べといわれれば、わたしたちは3Mを選ぶだろう」。米経営学者ジェームズ・C・コリンズとジェリー・I・ポラスは共著『ビジョナリーカンパニー』(日経BP出版センター)で米3Mの経営手法をこうたたえた。同社は工業製品、事務用品大手と紹介されることが多いが、「本業はない」といわれることもある。社名は02年までミネソタ・マイニング・アンドマニュファクチャリングだったが、「マイニング」という言葉が示す通り、鉱山関連事業から出発したが、今では化学品、自動車部材、一般消費者向けの文房具、キッチン用品まで幅広く手掛けている。
一見脈絡のない雑多なビジネスの寄せ集めに見えるが、3Mの経営には一本筋が通っている。イノベーション(革新)を続けることを経営指標としている点だ。全売上高のうち発売から1年以内の新商品が10%、4年以内の商品が30%を占めなければならない。この経営指標を達成するために、常に新製品を開発する必要がある。
米3Mは創業から1世紀にわたって活力を維持してきた。そのカギは一種の「遊び(doodling)」を許容し、奨励している点だ。社員の個性や独自性を尊重し、研究開発の方向を無理に一つにまとめないことで、逆に数多くの新製品を生み出すことができている。
●イノベーションを支えるユニークな社内制度
米3Mはイノベーションを生み出すために、ユニークな社内制度を整えている。
・社内表彰制度
5代目社長のリチャード・カールトン氏の名前からとったカールトン賞は3Mのノーベル賞といわれ、研究成果が会社の発展に大きく貢献した者だけに与えられる。世界的に大ヒットした糊付き付箋メモ「ポスト・イット」の開発者アート・フライは1983年に受賞している。
・15パーセント・ルール
業務時間の15%を本業以外の自分の好きな研究に費やしていいというルールだ。本業以外の好きな研究に充てることを許している。
・ブートレッギング
「密造酒づくり」という意味で、上司の命令に背くことになっても、自分の信じる研究をするために、勤務時間終了後に、会社の設備を使って密かに研究を進めることを推奨している。
・スポンサーシップ制度
アイデアを持った社員がいる場合、管理職は予算・人事面で支援するスポンサー役にならなければならない。
・汝、アイデアを殺すなかれ
キリスト教の10の戒律になぞらえて、3Mの第11番目の戒律といわれている。上司は、部下が「やりたい」と申し出た場合、明らかに失敗すると証明できない限り止めてはならない。
安い材料を用いてユニークな製品をつくる。これは、3Mの歴史そのものといってよい。数々の新商品を開発してきた住友3Mは、まさに米3M流イノベーションの申し子だった。
(文=編集部)