女子学生を中心に爆発的な人気を見せている“タピオカ”。2018年下半期から始まった専門店の開店ラッシュはいまだ衰えを見せず、連日都内を中心に全国各地で新たな専門店がオープンしている。
こうしたタピオカ専門店は、台湾をはじめ各国の専門店が日本でフランチャイズ展開するパターンだけでなく、国内業者がオリジナルブランドを立ち上げているケースも多い。なかには、飲食業のノウハウもない企業が金儲けのためにタピオカ事業に手を出し、質の低い商品とサービスで荒稼ぎしている例もあるという。さらに、ブームに乗じて儲けているのは店舗を運営する企業だけではないようだ。
第3次ブームの火付け役は台湾の人気店「日本で最初にタピオカが広まったのは1990年頃。当時は白い小粒のタイプが一般的で、ココナッツミルクのトッピングとして使われることが多かった。あくまで個人の見解ですが、私はこの時期をタピオカの『第0.5次ブーム』と呼んでいます」
そう話すのは、タピオカ情報サイト「タピオカナビ」を主宰する梅村実礼さん。梅村さんは、これまでに累計1200杯以上ものタピオカを飲んでいる無類のタピオカマニアだ。さらに、専門店のイメージガールや販売員として働いた経験を生かし、さまざまなメディアでタピオカに関する情報を発信するほか、タピオカ専門店のコンサルティングも務めている。
消費者と提供者という2つの側面からタピオカを分析してきた梅村さんいわく、第0.5次ブーム以降、タピオカは日本で何度もブームを起こしており、現在は「第3次ブーム」に当たるという。
「第3次ブームの始まりは2017年。台湾の人気ブランドである『CoCo都可』『THE ALLEY』『Chatime』が立て続けに日本展開を始め、今日まで続くブームの火付け役となりました」(梅村さん)
第1次ブームではクレープのお供として、第2次ブームではスターバックスなどに代表される“カフェブーム”の一部として、流行していたタピオカ。それが第3次ブームでは華々しく主役に躍り出た。
「第2次ブームの際にコーヒーやスムージーをはじめとする『飲み歩き』の文化が根付いたおかげで、これまで座って食べるメニューばかりだったスイーツの分野でも飲み歩きに対応したメニューが出てきたのです。第3次ブームでは、どのブランドも回転率重視のドリンクスタンド形式を採用し、タピオカはドリンクとスイーツの中間という唯一無二のポジションを獲得しました」(同)
そうした手軽さやフォトジェニックな容器デザインなどが「インスタ映えする」と女子中高生に刺さり、たちまちトレンドに。そして、各ブランドは競うように若者が集まる土地への出店を続け、店舗数が増加していった。
とにかく早く楽に稼げるタピオカこれ以降、タピオカというトレンドが生み出す経済効果に目をつけた日本企業や個人が「ブームのうちに急いで開業を!」と、こだわりの弱い急ごしらえの専門店を量産させていったという。もちろん、すべての専門店が金儲けしか考えていないわけではなく、なかにはきちんと味にこだわる優良店もあるが、稼ぎ優先の店があまりに多いため、陰に隠れてしまっているのだ。
「現在、国内の専門店は、店舗数なら『Gong cha』『THE ALLEY』など海外発ブランドが多いのですが、ブランド数に目を向けると、日本発のブランドが圧倒的に多いんです。本場から呼んでくるのも手間だし、とにかく早く開業して稼げるうちにガッポリ稼ごう、と考える日本人が多いのでしょう」(同)
さらに、利に走る日本人がタピオカに手を出すのは、出店におけるさまざまなハードルの低さが関係しているという。タピオカ専門店は、持ち帰り専門なら座席は不要、調理場所を含めても最低5坪あれば開業できる。調理は簡単なので技術もいらない。初期投資が少なくて済む上、その回収も早いと、とにかく好条件のビジネスなのだ。
だが、こうした儲け最優先の店は商品のクオリティも低く、接客も雑なことが多い。特に接客についてはメニューの説明もろくにできない店員が多く、そもそもまともな教育をしていない店ばかりだという。
「第3次ブームは各ブランドでメインターゲットが二分化されています。現在、タピオカの消費を支えているのは学生(中学~大学生)と20~30代の社会人の2つの層。前者の場合は商品や接客の質にはあまりこだわりがなく、『タレントや有名モデルがインスタで紹介していたお店に行きたい!』という理由で来店する人が多いんですね。そこで、学生をターゲットにしたブランドは人気のインスタグラマーやインフルエンサーなどにPR活動を依頼し、集客するのです。こうしたPR投稿は、フォロワー数にもよりますが1投稿で30万円くらい。インフルエンサーたちも、金儲けのためにおいしくもないタピオカを宣伝してしまう人もいるんです」(同)
タピオカブーム、あと1年で終了?こうして、詰めが甘くともマーケティング次第では大儲けできるタピオカは、たちまち人気ビジネスとなった。しかし、梅村さんは「金儲け優先の専門店が目立っている現状では、2020年の東京五輪を境にブームが終わる」と危惧する。
「味や接客と並んで問題になっているのが、行列整備と環境問題です。人気店は行列が絶えませんが、店側がその行列の整備をしないところもあり、近隣施設などから苦情が殺到しているんです」(同)
そもそも、教育が行き届いていない従業員に列を整備させるのは無理な話だろう。また、もうひとつ問題視されているのは、排出されるゴミの多さだ。道端にタピオカの飲み残しが捨てられている光景を目にしたことがある人も多いのではないだろうか。
「ポイ捨てされている飲み残しをはじめ、タピオカに欠かせないストローや容器、ビニール袋などのゴミの多さが印象を悪くしています。否定的な意見を持つ人のなかには、『タピオカ=環境を破壊する』という認識を持っている人もいるのです」(同)
このまま世間的なイメージが向上しなければ、今回もタピオカは一過性のブームで終わり、食文化として定着することもないだろう。
「危機感を持った一部の人気チェーンは徐々に動き出しています。たとえば、『春水堂』や『CoCo都可』はゴミ拾い活動を、『Gong cha』も行列ができる店舗には必ず警備員をつけ、近隣施設に迷惑がかからないよう配慮していますね」(同)
このような活動に人気チェーンが協力して取り組めばイメージアップにつながり、状況は好転するかもしれない。しかし、現在の“タピオカ戦国時代”では、各ブランドが手を取り合うのは難しいという。
「ブランド間での協力が難しいなら、まずは各ブランドがエコ活動に取り組んでほしいですね。私は、各専門店がスターバックスのようなオリジナルタンブラーやタピオカ用のステンレスストローを販売すれば、環境配慮と収益のどちらも叶えられるのでは、と思っています」(同)
タピオカを「金のなる木」としか思っていない企業は、食文化として根付かせようなどとは思っていない。人気がなくなったらすぐに見切りをつけ、新たなブームに便乗する準備を始めるだけだろう。
(文=鶉野珠子/清談社)