ボルボが躍進を続けている。2019年上半期の世界新車販売台数は前年同期を7.3%上回る34万826台で、上半期としては過去最高を記録した。

14年の46万5866台から18年には64万2253台となっており、19年通年では70万台近くになりそうだ。国内市場の販売台数は22年前には2万台を超えたが、その後は低迷し、14年には1万3264台になっていた。しかし、現在は順調に回復中で、19年は再び2万台に達しそうだ。

 ボルボが乗用車の製造を開始したのは1927年。59年には3点式シートベルトを発明して特許を取るも、「安全は独占すべきものではない」として特許を無償公開、3点式シートベルトは全世界に広がっていった。99年、乗用車部門がフォードグループの一員となるが、2010年にフォードがボルボ・カーズの株式をすべて中国・吉利汽車の親会社に譲渡、それ以来、中国資本のもとでフォード時代よりも明確なビジョンに基づいた技術開発、クルマづくりが行われている。

ボルボが掲げる「Vision 2020」

 ボルボは「安全は独占すべきものではない」という信念のもと、幾多の安全関連技術を開発してきた。現在は「Vision 2020」(20年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故による死亡者や重傷者をゼロにする)を掲げ、それを妨げる要因として、(1)スピードの出しすぎ(死亡事故要因の25%)、(2)飲酒や薬物使用による酩酊(同33%)、(3)注意散漫(同9%)を挙げている。

 そして、(1)への対応として、20年以降に生産されるすべてのボルボ車の最高速度を180km/hに制限、任意に最高速度などを設定できる「ケア・キー」を標準装備する。

 加えて、(2)(3)への対応として、20年代前半導入予定のすべてのボルボ車にドライバーモニターカメラを標準装備し、異常を検知した際に、警告、減速、安全な場所に停車、通報などの措置がとられるようにするという。ボルボの安全性関連技術開発上の大きな特色は、実際の事故データを分析、活用してきたことで、1970年に開始以来の事故データは4万5000件にのぼるという。また、「Volvo E.V.A.」で検索すると、各種のデータ、映像に加えて、200もの論文に誰でも無償でアクセスすることができるのも、ボルボらしい対応だ。

ボルボ「V60CC」に試乗

 今回、私が試乗したのは新型「V60CC(クロスカントリー)」だ。最低地上高210mmの優れたラフロード走破性を備えた4輪駆動だが、全高が1505mmに抑えられているため、立体駐車場の利用も可能で、専用フェンダーエクステンションも貢献してV60ステーションワゴンとは一味違ったアクティブな外観に仕上がっている。

 エンジンは2Lのインタークーラー付きターボで、変速機は電子制御8速AT、35.7kgmの最大トルクが1500rpmから4800rpmまで得られるため、1.8tを少し超える車重だが、走り始めた瞬間から非常に満足のいく走りを示してくれた。新型V60のプラットフォームはD、Eセグメント用のFFとFFベースの4WD専用プラットフォームで、2014年導入の2代目XC90を皮切りに90、60シリーズに採用されており、曲がる・止まるも非常に気持ち良く、路面からの振動伝達も良く抑えられている。V60CCは、間違いなくボルボの基幹車種に育っていくだろう。

ボルボ・カー・ジャパンの躍進

 ヤナセの系列会社によるボルボの日本市場への導入は1960年にさかのぼる。その後の経緯は省略するが、2013年に日本の販売会社の名称が「ボルボ・カー・ジャパン」になり、それを14年から率いているのが木村隆之社長だ。

 木村社長は1987年にトヨタ自動車に入社、海外商品企画、海外営業を中心に活躍し、2003年にはノースカロライナ大学でMBA(経営学修士)を取得後、レクサスに異動する。07年にファーストリテイリング入社、08年からは日産自動車系の海外販売会社の代表取締役社長を務め、14年にボルボ・カー・ジャパンの社長に就任した、経験豊かな経営者だ。

 日本市場におけるボルボの近年の躍進は木村社長の手腕によるところが大きいようだし、ゆくゆくはボルボ本社の社長にもなってほしいところだ。木村社長と小沢コージ氏の共著『最高の顧客が集まるブランド戦略 ボルボはいかにして「無骨な外車」から プレミアムカーへ進化したのか』(幻冬舎)は非常に共鳴できる内容で、ぜひ一読をお勧めしたい。

 木村社長の広報重視という姿勢には、まったく同感だ。

マツダで通算10年強にわたり広報を担当してきた私としては、近年の日本の大手メーカーをはじめとする多くのブランドにおける「広報軽視」の姿勢に強い危機感を持ってきた。高額な広告料が必要な「広告」に比べて、ネットも含め対価を払わずに有効な情報を「報道」として拡散する「広報活動」のほうが、はるかに効率的で説得性が高いからだ。

 広報領域ではないが一点理解できないのは、ボルボのカタログ内の技術的解説があまりにも限定されていることだ。ボルボ車の購入を検討している顧客にとって、より広範な解説は有意義な情報になることは間違いないと思うからである。

(文=小早川隆治/モータージャーナリスト)

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