日本原子力研究開発機構(JAEA)は、北海道の幌延町と岐阜県の瑞浪市で、原発から出る高レベル放射性廃棄物の地層処分研究を行なっている。この研究、2年後の2021年から2022年には終了すると、これまで説明されてきた。
JAEAと言われてもピンとこない読者のために補足すれば、高速増殖原型炉もんじゅや東海再処理施設で事故や不祥事を頻発させ、解体に追い込まれた動燃(動力炉・核燃料開発事業団。のちに核燃料サイクル開発機構へと改組)を、日本原子力研究所と統合させて生まれた、国の研究機関(国立研究開発法人)のこと。動燃は1995年の「もんじゅナトリウム漏洩火災事故」の際、事故現場を撮影したビデオ動画を隠し、当時の所管官庁である科学技術庁や福井県に対してウソの報告を重ね、果ては身内の職員から自殺者を出すまでに至っていた。その当時、動燃につけられていた徒名は「ウソつき動燃」である。
高レベル放射性廃棄物の地層処分研究は、その動燃がもともと行なっていたものだ。ただし、「研究」の名の下に核のゴミ捨て場にされかねないとの懸念から、研究では現物の放射性廃棄物を一切持ち込まず、使わないとする協定を、地元自治体の北海道や岐阜県、幌延町、瑞浪市と結んだ上で、研究が行なわれてきた。
今年5月29日には岐阜新聞と中日新聞に、JAEAの瑞浪超深地層研究所(岐阜県瑞浪市明世町)が最深で500メートルの深さまで掘っていた地下坑道の埋め戻しに、年度内にも着手するとの記事が掲載され、予定どおりに研究が終了するものと受け止められていた。ところが8月2日、「超深地層研、返還延期へ」との見出しとともに、瑞浪市の市有地にある同研究所の土地を同市に返還するのを「5年程度」延期する――とする記事が岐阜新聞に載った。つまり、事実上の研究延長宣言である。
瑞浪市での計画では、市有地を返還する際には原状回復するのが条件だった。
「『5年程度』などという、期限をはっきりと区切らないJAEAのやり方が、不信を招くのです」
こう語るのは、地元の市民団体「放射能のゴミはいらない! 市民ネット・岐阜」の兼松秀代代表。兼松さんがそう感じるのには訳がある。JAEAが発行している広報用パンフレットに記載されていた「市有地は、20年間の予定でお借りしており、地層科学研究の終了後は埋め戻してお返しすることになっております」との文言がコッソリ削除される“事件”が今年1月に発覚していたからだ。兼松さんらが抗議すると、JAEAは「配慮が足りない部分があった」として、削除した文言をパンフに復活させていた。
その後、8月8日の記者会見でJAEAは、市有地の返還を「6年延長」することを決めたと発表。さっそく、さらに1年延ばされた。これ以上絶対に延長されないという保証は、今のところない。
北海道では「7年延長」研究期間の延長を画策する動きは、北海道幌延町のJAEA「幌延深地層研究センター」でも同時に起きていた。瑞浪市での動きが明らかになったのと同じ8月2日、JAEAは北海道庁と幌延町に対し、2028年度末まで調査研究を継続するとの研究計画案を提出した。当初の計画では、2021年度末までの「20年程度」とされていた研究期間が、新たな計画案では7年延長されている。しかも、研究が本当に終了する時期はハッキリと示されておらず、今後検討するのだという。
幌延町の計画でも、研究終了後には施設を閉鎖し、地下の坑道を埋め戻すことが、JAEAと北海道、幌延町との間で交わされた3者協定で決まっていた。今年度中には研究終了までの工程や埋め戻し着手の時期が決まるはずだったのも、瑞浪市での計画と同じである。ただ、幌延深地層研究センターのある土地の所有者はJAEAであり、埋め戻し終了後に土地を返還するわけではないところが、瑞浪市での研究と異なる。幌延町での新計画案は語る。
「地層処分の技術基盤の整備の完了が確認できれば、埋め戻しを行うことを具体的工程として示します」
つまりJAEAとしては、地層処分計画の今後の進捗次第によっては、いつまでも埋め戻し計画を示さないつもりらしい。このような人を食ったやり方に、「期間延長は約束違反だ」として猛然と反発したのは北海道新聞である。同紙は8月4日付の社説で、
「約束通りなら、21年ごろに終了するはずだったが、提出された計画案は従来の研究課題に引き続き取り組む意向を表明し、3者協定を事実上ほごにした」
と、JAEAの姿勢を猛然と批判。次のように北海道庁と幌延町の尻を叩いた。
「研究期間を巡っては、機構(JAEA)はこれまで「『20年程度』は20年程度」などと説明し、期限を区切るのを避けてきた。道や幌延町もあいまいな解釈を放置し、その隙を突かれたといえる。(中略)道と幌延町は追加の研究が必要かも含め計画案を精査し、協定などで研究終了と埋め戻しの時期を厳格に取り決めるのが筋である」
埋め戻しの開始時期は「NUMO次第」高レベル放射性廃棄物を埋設処分するための適地を国(経済産業省・資源エネルギー庁)が示した「科学的特性マップ」(2017年7月。下の地図)によれば、幌延町を含む北海道内のおよそ80市町村が「最適地」とされているようだ。
高レベル放射性廃棄物を地層処分(=埋設処分)する場所は、20年以上前から探しているのに、今なお決まっていない。埋設処分を実際に実施するのはJAEAではなく、経済産業省が所管するNUMO(ニューモ/原子力発電環境整備機構)という別の法人である。念のため、幌延町での新計画案にある、「地層処分の技術基盤の整備の完了が確認できれば、埋め戻しを行うことを具体的工程として示します」との文言の意味を、8月8日、JAEAの報道課に確認した。
NUMOが今後、地層処分地を決めた場合、これまでJAEAが研究で得た成果をNUMOにフィードバックするのだが、それが「地層処分の技術基盤の整備の完了」になるそうである。埋め戻し作業の具体的なスケジュールを地元にお知らせするのはその後になり、埋め戻し作業の完了はさらにその先となる。
この日、原子力規制委員会の更田豊志委員長が幌延深地層研究センターを訪れ、深さ350メートルの地下坑道を視察した。この模様を報じた8月9日付北海道新聞によれば、JAEAのOBでもある更田委員長は、「施設を見た感想は、まだまだ研究施設として有益なものだと思う。関係者のご理解を得て(研究)期間を延長するというのはふさわしい判断だと思う」と、古巣をあけすけに激励。福島第一原発事故前と寸分違わぬ原子力規制当局の姿が、そこにあった。
かつての動燃が晒した醜態を彷彿とさせる、JAEAの「核のゴミ捨て場研究」延命作戦。しかし、作戦はまだ「計画案」の段階であり、彼らの思惑どおりにコトが運ぶかどうかは、今後の地元行政の態度いかんにかかっている。
(文=明石昇二郎/ルポライター)