米ファストファッション大手のフォーエバー21が、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請を検討していると米ブルームバーグ通信が報じ、衝撃が走った。
報道によると、同社は債務圧縮のため追加融資先を探しているが、交渉は難航しているという。
フォーエバー21は1984年に創業。米西部カリフォルニア州ロサンゼルスに本社を置き、若者向けのカジュアル衣料品などを扱う。米国のほか欧州やアジアなど世界で800店以上を展開する。
フォーエバー21は世界各国で苦戦が続いている。今年に入って、中国市場から撤退を余儀なくされた。2008年に中国に初進出したが、早期に撤退。11年に再度進出したが、消費者からの支持が得られず、二度目の撤退に追い込まれた。
日本ではどうか。フォーエバー21の日本1号店となる原宿店が東京・渋谷にオープンしたのは09年4月。最新の流行を取り入れた服を低価格で販売し、若い女性を中心に連日賑わいを見せた。10年には東京・銀座に2号店をオープン。
だが、拡大路線は長くは続かなかった。早期閉店に追い込まれる店舗が続出。17年10月には旗艦店だった原宿店が閉鎖に追い込まれた。高い賃料が負担になっていたとみられる。現在は14店が営業を続ける。
フォーエバー21とH&Mの違いファストファッションは競争が激しくなっている。おもしろいことに、フォーエバー21は原宿店が閉店に追い込まれたが、スウェーデン発のH&Mは同地で原宿店がまだ生き残ってい る。
H&Mはフォーエバー21より一足早い08年9月に日本に進出した。銀座に1号店となる銀座店を開き、同年11月に2号店となる原宿店を出店。翌09年に同店の隣にフォーエバー21の原宿店がオープンし、両者は原宿の地で激しいバトルを繰り広げることとなった。その結果、フォーエバー21は閉店したが、H&Mは現在も営業を続けている。
H&Mは現在、全国に90店以上を展開するが、フォーエバー21と違い、店舗数は増加傾向にある。 原宿だけでなく、全体の勢いでもH&Mはフォーエバー21を圧倒する。もっとも、H&Mは銀座店が昨年に閉店に追い込まれるなど、すべてが順調というわけではない。
フォーエバー21とH&Mは「ファストファッション」という括りでは同じだが、ビジネスモデルや商品のデザインは大きく異なる。
ビジネスモデルは、H&Mが商品の企画から製造、販売までを一貫して手がけるSPA(製造小売り)型なのに対し、フォーエバー21は他社が開発、生産した商品を買い付けて自社の店舗で販売する仕入れ型だ。SPA型はほかに、GAP(ギャップ)やZARA、ユニクロなどがある。仕入れ型はファッションセンターしまむらなどが有名だ。
デザインも大きく異なる。H&Mはモノトーンをベースにしたシックなものが多い。一方、フォーエバー21はピンクやオレンジといったカラフルなものが多く、デザインはやや奇抜で派手だ。どちらも若者向けが中心だが、フォーエバー21のほうがより低年齢層向けだ。
フォーエバー21は、特にデザインにおいて大きな問題を抱えているように思える。実際の商品を見てみるとよくわかるが、ヒョウ柄のものや胸元が大きく開いたものなど、奇抜で派手なものが多い。万人受けするとはいえず、需要は限られているといえる。
個人商店や小規模チェーンであれば問題はないだろうが、全国的に大規模に展開するとなると、かなり厳しいものがある。ファッション感度の高い原宿に立地していた原宿店でさえ閉店に追い込まれたことも考えると、デザインに問題があるといわざるを得ない。これが苦戦の大きな要因だろう。
日本ではユニクロ、ジーユーが好調もっとも、苦戦を強いられたのはフォーエバー21だけではない。日本から撤退に追い込まれたファストファッションはほかにもある。米国発のギャップの姉妹ブランド、Old Navy(オールドネイビー)もそうだ。オールドネイビーはギャップよりも低価格で、1万円もあれば全身コーディネートできるとして一時、人気を博した。
オールドネイビーは12年に日本1号店をオープン。イオンモールなどショッピングセンターを中心に出店を重ね、53店にまで拡大したが、わずか4年で撤退に追い込まれた。ほかのファストファッションとの違いが打ち出せず、埋没したままで終わった。
ギャップも厳しい状況にある。今年5月に旗艦店の原宿店が閉店したことが話題になった。ほかに、4月にイオンモール旭川西店(北海道旭川市)、5月にサンシャインシティアル パ店(東京・豊島)、京都河原町店(京都市)、8月に京都高島屋店(同)が閉店した。店舗閉鎖が相次いでいる状況だ。
ギャップはアウトレット店などを含めて全国に現在約150店を展開するが、プロパー店(約100店)では閉店が相次ぎ、より低価格のアウトレット店への依存を強めている。また、ギャップの プロパー店では「50%オフ」といったセールを頻繁に行っており、セールを行わないと売れない状況に陥っている。価格の高さが敬遠されていることがわかる。
ギャップは世界的に苦戦している。18年度の世界ギャップブランドの既存店売上高は前年度比5%減。
日本ではユニクロが勢力を誇り、姉妹ブランドのGU(ジーユー)が急速に存在感を高めている。ユニクロの店舗数は長らく横ばいが続いているが、それでも800店超を展開し、存在感は抜群だ。ベーシックなアイテムが多く、老若男女、幅広い層から支持を獲得している。18年9月~19 年7月累計の既存店売上高は前年同期比0.5%増とプラスだ。
ジーユーはユニクロよりも安く、ベーシックなものからトレンドを取り入れたものまで幅広い。若者を中心に人気を博している。06年に1号店を出店し、今年5月末時点で422店を展開する。
こうした状況から、日本のファストファッションは日本勢に分があることがわかる。日本の企業だけに、日本人の好みをよくわかっていることが大きいだろう。また、ユニクロとジーユーは、服の丈夫さなど品質にも定評がある。
一方、フォーエバー21はデザインのほか、品質にも課題がある。生地の丈夫さや縫製の精緻さなどにおいて、レベルの低さを指摘する声が少なくない。デザインと品質において抜本的な対策を講じることができなければ、顧客離れは加速し、日本撤退は免れないだろう。いずれにせよ、破産検討の行方と日本市場の動向を注視していきたい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。