「お客様第一主義」を掲げる経営をしてきた菓子大手のロッテが大失態を演じた。8月7日、アレルギー物質のうち、本来入っていないはずの乳成分が自社基準を超えて検出されたことから、チョコレート2種類を自主回収すると発表した。

 なぜこんなことが起こったのか。問題となったのは「乳酸菌ショコラ カカオ70」(2018年10月16日発売)と「ポリフェノールショコラ<カカオ70%>」(18年9月18日発売)の2つの製品。ロッテの広報部は次のように語る。

「本製品については、2019年4月、弊社にてアレルギー成分に関する定期検査を行ったところ、乳成分が弊社基準値(10ppm)を超えて検出されました。乳成分の混入については、製造ロットにより差異があるために、複数ロットの分析が必要と判断し、製造日の異なるロットのサンプルを集め、同年8月までに複数回にわたり検査を行ったところ、複数ロットの製品から弊社基準値を超える乳成分が検出されましたので、自主回収を決定するに至りました」

 しかし、ここで疑問となるのが消費者の告発時期だ。消費者からアレルギー被害の連絡があったのが昨年11月。それ以降、購入者7人から「乳アレルギーの症状が出た」といった連絡があったという。

 にもかかわらず、消費者には「本製品の原材料に乳成分は含まれないものの、乳成分を含む製品と共通の設備で製造しているため、パッケージに『本品は卵・乳成分・小麦を含む製品と共通の設備で製造しています。』との注意喚起表示をしている旨をお伝えしつつ、もしご心配な点があるようであればご利用を差し控えいただくようお願い申し上げます」とだけ連絡。消費者には謝罪すらされていなかったという。

 そして、前述のように乳成分の混入が今年4月の定期検査で発覚。さらに、発表はそれから4カ月後の8月にされている。

これに対して、ロッテの工場で勤めた経験のある元社員は次のように語る。

「それはまったくあり得ない。少なくとも、私がいた頃のロッテはお客様からアレルギーの連絡があれば、1件でもきちんと調査してきました。それはきちんとお詫び状を書くためです。ただ、1件だと誤解ということもあり得る。しかし、2件以上こうした問題があれば、即座に生産ラインを止め、問題を究明します。それが以前のロッテのやり方です」

 ロッテ広報部は次のように語る。

「2018年11月に乳アレルギー症状が発症したとのご連絡を受けたのにもかかわらず、社内における情報共有の遅れにより、2019年4月の定期検査まで検査が行われず、対応が遅れてしまったことについては、大変遺憾であり、誠に申し訳なく思っています」

 今回は7件も問題があったにもかかわらず、検査が行われなかったのはなぜなのか。乳アレルギーは小さい子どもが発症する割合が高く、場合によっては死に至ることもある。食品メーカーにとっては極めてセンシティブな問題だ。

「コールセンターから工場や本部に連絡がなかった」(ロッテ広報部)というが、そんなことがあるのか。ロッテのコールセンター業務に詳しい元社員に聞いた。

「コールセンターはお客様相談室の一部署。コールセンターの受電者はお客様の名前、連絡先、事故の発生状況、製品名、お買い求めの店舗・日時を聞き取り、事故品の返品をお願いします。これを聞きながら、定型の帳票に記入しますから、ここで情報が止まることはありません。ここで止まったら、別の意味で危険な会社ですよ。

 そして、これにより上司に提出・報告し、この連絡票を返品された事故品ととともに、工場の生産技術課品質管理担当に送ります。工場で検査分析し、報告書を作成します。これを工場長が確認し、それを本社のお客様相談室に送ります。このような重要案件は、本社の品質管理部に報告するはずです」

製造工程にも残る疑問

 また、1カ月おきに本社のクレーム対策会議があり、そこには担当役員、本社生産本部責任者、全国の各工場長や生産技術課長、お客様相談室室長などが出席するという。当時の担当役員は荒川直之専務、危機管理担当の役員として委員長を兼務していたという。これに対して、ロッテの広報担当者は言う。

「2重3重の対策を取っています。これは今も同じです」

 さらに問題なのは、この製品の製造工程だ。

チョコレートは油性であるため簡単に洗浄ができない。

「水で洗浄すればチョコレートは凝固します。だから配管をバラバラに分解して洗浄したり、チョコレートを使った洗浄などをやるのでしょうが、手間がかかる。少なくとも私がいた頃には、異なるアレルゲンを含むような成分の違うチョコレートを同じ生産ラインでつくるようなことはなかった」(前出の元ロッテ工場経験者)

 こうした事態は、専門家であれば製品の企画段階で予測できたことであるし、新しい生産ラインをつくることだってできたはずだ。この点について、再三にわたってロッテに確認したが、一切説明はなかった。問題の原因を明らかにしないまま幕引きを図ったロッテ。果たしてロッテは今後、同じような問題を繰り返すことはないのだろうか。多くの疑問が残る。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

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