新たな原発マネー還流の実態が判明した。朝日新聞や共同通信などは27日、「関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長ら同社役員6人が2010年ごろから7年間にわたって、関電高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役森山栄治氏(故人、今年3月に90歳で死亡)から、計約1億8000万円の資金を受け取っていたことが、金沢国税庁の税務調査でわかった」と報じた。
これまでも、電力会社が原発立地自治体に「匿名の寄付」などのかたちで資金を還流させていた事例は枚挙にいとまがないが、自治体の幹部から電力会社に金が渡っていたという事例が発覚したのは非常に珍しい。一見すると贈収賄罪の可能性が高いように見えるが、法律的にどうなのか。
「違法ではなく不適切な行為」と説明報道によると、同町元助役の森山氏は原発のメンテナンスなどを行う地元建設会社から約3億円を受領していたこともわかったという。国税局に対し、資金提供について森山氏は「お世話になっているから」などと説明していたという。
つまり地元企業が3億円を森山氏に渡し、森山氏はこのうち1億8000万円を関電に提供。地元企業はその見返りとして関電から工事を受注していたというのだ。
関電の岩根社長は27日午前、会見を開き、「森山氏から受け取った資金が、原発工事発注先の企業から出ているという認識はあった。一時的に各個人の管理下で返却の機会をうかがいながら保管していたが、現時点では儀礼の範囲内以外のものはすでに返却を完了した。社内調査ですでに関係者を処分した。基本的に違法な行為ではなく、不適切な行為であったため公表はしなかった」と説明。儀礼の範囲とは「お歳暮やお中元など」とした。東京電力福島第1原発事故発生直後もこのようなかたちで資金を受け取り続けたことに関しては、「原子力の信頼を回復しなければならない時期に、社会の皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪した。
原発マネー関連の不祥事発覚は、これまで電力会社側から地元自治体に支払われる流れがメーンだった。なかでも東京電力が自治体に「寄付」した原発マネーの総額は1990年代から約20年にわたって計400億円超。1~4億円程度の「少額寄付」を繰り返し、寄付者の実名公表基準を避けるように「匿名の寄付」を続けていたことが明らかになっている。そうした資金は役場庁舎やスポーツ施設の新設など公共事業に姿を変え、地域の建設会社の仕事創出が図られた。
青森県の原子力関連施設立地自治体の建設事業者は、次のように説明する。
「原発立地自治体の地域振興を図ることで、住民の(原発賛成のための)合意形成を図る目的で電力会社が自治体に寄付をしていました。ただ東京電力福島第1原発事故以降、少し状況は変わりつつあるのかもしれません」
原発事故以降、全国の原発は国の安全基準の見直しを受けて全基停止。建設中の原発に関しても工事は中止され、稼働計画が見直されたり、凍結されたりしている。こうした状況でもっとも影響を受けたのは、原発立地自治体の建設会社だ。原発が稼働していなければ大規模メンテナンス工事の発注がなくなり、原発建設が止まれば首都圏や関西圏への出稼ぎが不可避になる。仮に廃炉や再稼働が決定しても、すぐに具体的な工事発注につながるわけではない。
「原発立地自治体は人口減少や高齢化が深刻だからこそ、原発を誘致せねばならなかった地域です。
だからといって、町役場の元幹部が、地元企業と利害関係のある特定の企業に対して橋渡しを行い、資金まで渡していいのか。弁護士法人ALG&Associates執行役員の山岸純弁護士は次のように解説する。
山岸弁護士の解説今回の件は、“なんだかよくわからないけど、間違いなくダークなおカネ”を受け取ったほうが「公務員」ではないので、元助役にも関電の役員にも、刑法上の贈賄罪(ワイロを渡すほう)や収賄罪(ワイロをもらうほう)は成立しません。
もっとも、元助役が地元建設会社から金銭を受け取った時点で、それが「職務に関し受け取った金銭」と考えられるなら、たとえそれをそのまま関電の役員に流したとしても、元助役に収賄罪が成立する可能性があります。地元建設会社には贈賄罪が成立するでしょう。
ところで、会社法967条は、「(取締役などが)その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」と規定しております(取締役などの贈収賄罪)。
これは、会社という組織が、社会に大きな影響を与える可能性がある存在であることから、取締役などの職務の公正さを維持するために設けられた規定です。
ここで、「不正の請託」とは、その担当している職務に関して違法に一定の行為を行う・行わないことを意味しています。
要するに、取締役などが第三者からカネをもらって、その会社での担当業務を行うようになると、「カネをもらわないと仕事をしない」「その会社への国民の信頼がゆらぐ」などのデメリットが発生してしまうので、このような行為を取り締まることとしたわけです。
今回、関電の取締役などが元助役を通じ、関電高浜原発が立地する福井県高浜町の地元建設業者などから “なんだかよくわからないけど、間違いなくダークなおカネ”をもらっていたわけですが、「関電の取締役」が「関電高浜原発」に関する職務を行っているなかで、「新しい工事が欲しい」「原発のメンテナンスを発注してほしい」などと依頼を受けてこの“ダークなおカネ”をもらっているのであれば、「取締役などの贈収賄罪」が成立する可能性は極めて高いと考えられます。
そして、この場合、“ダークなおカネ”を渡したほう(地元建設業者、元助役)も「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」が科されます。
もっとも、会社の取締役などの場合、「取締役などの贈収賄罪」よりも罪が重い「特別背任罪(自分の利益などを図ったり、会社に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、会社に損害を与える罪。会社法960条)」で処罰されることのほうが多いようです(こちらは10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)。
「原子力発電所」という国家政策・国家プロジェクトに関してこのような犯罪が敢行されている自体トンデモナイことですが、とにかく、これらの犯罪(と思しき行為)を暴いた税務署などの努力に感謝です。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)
●山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。弁護士法人ALG&Associates執行役員として法律事務所を経営し、また同法人によせられる離婚相談、相続問題、刑事問題を取り扱う民事・刑事事業部長として後輩の指導・育成も行っている。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。弁護士としては、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験を離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。