ドトールコーヒーが今年から導入した有休取得制度が物議を醸している。「会社の休日」を暦上の祝休日数にかかわらず「年119日」に固定し、それ以上休む場合は有給休暇を使うよう社員に「奨励」するというもので、朝日新聞が7日に報じた。

ドトールは全社員に対し「一部の国民の祝日が出勤日となり、同時に、有給休暇取得奨励日になります」と通知したという。令和元年の今年は祝休日が例年より多いため、暦通り休むためには有休の取得が必要になる。インターネット上ではこの報道以降、早くも「ドトールブラック企業説」が流れ始めている。

実質的な休日数の減

 ドトールは全国に1300店以上のコーヒーチェーン店を展開しているが、店舗の7割以上はフランチャイズ(FC)出店で、各店の店員はそれぞれのオーナーらが雇っている。今回ドトールが導入したとされる制度は、FCを含まない本社や工場、直営店で働いている社員が対象だ。

 これまで同社では土日と祝日、年末年始(12月31日~1月3日)を会社休日に設定していたが、3月に就業規則を変更した。記事によると「(規則変更の)通知文書で会社は『変更の背景』として、『2019年の新天皇の即位や2020年のオリンピックによる国民の祝日日数の変動をコントロールするため』という点を挙げた」という。

 実質的な休日の削減で、同記事では保育園に子どもを通わせている社員の苦境や弁護士の見解を詳述。そのうえで、政府の働き方改革に逆行する流れではないかと疑問を呈した。

 Twitter上では、ドトールの処遇に対して、次のような否定的な意見が噴出している。

「どうせ使われていない有休を消化できて、実質休みの数は変わらないから良いじゃないか、という上層の考えが見える」(原文ママ、以下同)

「意味ないじゃん。でも案の定こういう動きが出るんだなとも。

法律上は問題なくても、論理のすり替えして、恥ずかしいと思わない企業の感覚が残念すぎる。普通に働いて、当たり前に休んで、安心して暮らせる世の中はいつになったら実現されるんだろう」

「ドトールじゃ、国民の休日なのに有給使わなきゃいけないらしい。さすが2019年度版就活四季報で、3年後離職率、驚異の60.3%を記録したドトールさんや!」

「まあ年間休日は会社が決めるものだからねえ。法定休日は52、3日だから違法とは言えない。特に飲食業は休みが稼働なのは当たり前。問題は法制化された有給取得義務をドトールが守るか、ですね。有休消化の脱法的な変更だと合理性認められなくない?」

「社員はいつも祝日に休日出勤している」

 都内のドトールのFC店の20代アルバイト女性は次のように話す。

「休みが減るのはかわいそうだなと思います。店舗は土日祝日、関係なく開いています。オーナー店長が本部の担当がいつも休日出勤していて気遣っていました。本部に問い合わせが必要なトラブルが発生するのは、常連のビジネスマンや近所のお年寄りが多い平日より、子連れのママ友会などで繁盛する祝日が多いです。

 お役所ではないので暦通りかどうかが問題なのではなく、休日を減らさず、祝日分を平日に休むとか現場の繁忙期にちゃんと対応できるよう合理化したほうがいいと思います」

 従来よりドトールの社員は暦通りに休みを取り、業務に対応できていたのかも疑問が残る。

そもそも有給休暇や会社休日を返上して働いている社員もいる中で、さらに休日数が減る今回の「休日固定119日制度」を導入すれば、労働環境の悪化は不可避なのではないか。

 朝日の記事やインターネット上の指摘通り、有休消化は国の方針だが、休みそのものが減るのであれば本末転倒だ。少なくとも、労働者側に対する不利益変更に見えるのだが、法律で定められている「社員の過半数の代表の同意」を本当に得られていたのだろうか。

 ドトール広報課に事実関係を問い合わせたところ、次のような回答を得た。

「弊社には労働組合はありませんが、過半数の社員が所属する社友会という組織があります。今回の就業規則の変更は同会の意見を踏まえて、労働基準監督署に提出しました。同会の代表者は社員のアンケートによって選ばれています。

 休日出勤を行っている直営店部門と比較的に暦通りに休むことができる本社の事務部門の間に、休日取得状況に偏りがあります。今回の規則変更は、それを平準化するために行いました」

労働者との合意なき規則変更は無効

 労働ジャーナリストの溝上憲文氏は次のようにこの問題の背景を説明する。

「まず、会社が労働者を1日8時間、週40時間以上労働させる場合は、労働者代表と36協定を結ぶ必要があります。さらに休日労働協定を含めて就業規則の制定、変更も労働者代表との協議が必要です。就業規則などは労働基準監督署に提出する必要がありますが、労働者代表との合意のない就業規則は無効となります。

 労働者側は社内に労働組合(従業員の過半数が加入していることが前提)があれば労組が、労組がなければ従業員の過半数を代表する代表者が、会社側と協定を結ぶ必要があります。

 法律上の労働者の代表者とは、労働者の自主的かつ公正な選出によって過半数以上の支持を得た社員を指します。ところが実際には、経営者側が都合のよい社員を代表に指名したり、あるいは部課長など管理職から選出したりと、いいかげんな選出が行われていました。

 そうした実態を受け、働き方関連法の施行で労働者代表の選出方法も厳格化されました。同法では、年5日の時季指定による有休休暇の取得も義務化されています。

 例えば、労働基準法施行規則第6条の2第1項で『過半数代表労働者の選出要件』には、『管理監督者ではないこと』などが明記されています。具体的には、管理職を除く一般社員を選出の対象にすること、そして協定の対象になる社員にどのような協定なのか、あるいは意見を求めるなどの内容をしっかり説明したうえで、投票もしくは集会で挙手などによる民主的手続きを踏まないといけないことになっています。

 代表を申し出る社員がいない場合は、社員の間で誰かを推薦し、推薦した人を信任投票することもできます。経営者が推薦することはもちろんダメです。こうした手続きを踏まないで労基署に届けた就業規則、協定類は無効となり、法的効果を持ちません。

 今回のドトールのケースでは従来の休日数を削減したものになっており、労働条件の不利益変更の疑いがあります。厚生労働省も、今回の法改正を契機に法定休日ではない祝日などの所定休日を有給休暇に振り替えるような手法は『実質的に年次有給休暇の取得につながっておらず、望ましくない』という通達をあえて出しています。

 仮に協定が正当な手続きを経たものであるとしても、裁判で『就業規則の改定が労働者に不利益をもたらすもの』だとして訴えることも可能です。就業規則の不利益変更が合理的であること求めている労働契約法10条に違反している可能性があるからです。

 ドトールの就業規則、協定の変更が、従業員に自ら有休をとらざるをえない状況にして、年5日の有休取得義務化を回避しようという目的であれば、就業規則、協定の変更は無効だという判決が下される可能性もあります。

 今回労基法の取得義務化の改正は、労働者の休みを増やそうという趣旨であり、もし会社がそれに逆行する行為をとれば、脱法行為といわざるをえません。

 したがって、ドトールの問題は労働者代表選出手続きがちゃんと行われていたのかが重要です。もし無効であれば年間119日に減らした協定は無効になります。仮に正当な手続きを経ていても、裁判所に提訴すれば無効になる可能性もあると思います」

労組がない企業の不利益変更増加が懸念

 最近では、ドトールと同様に労組のない会社も増加している。労組があっても社員が加入しないケースも目立つ。非正規雇用の労働者も多いなか、今後も各社で同様のトラブルが頻発するケースも考えられる。

 溝上氏はそれに関しても次のように指摘する。

「労組がないことを逆手にとって、経営者が恣意的に法的な手続きを踏む可能性があります。とくに今回の働き方改革関連法は労働者代表との協議事項がたくさんあります。

法律を逆手にとって、会社に都合の良い仕組みにするなど脱法的行為の多発が懸念されます。

 有休休暇の年5日の時季指定による取得義務化は正社員だけではなく、パートなど非正規社員にも適用されます。一定の労働日数があれば、アルバイトにも有休を付与しないといけません。知人の社会保険労務士は、ある経営者から『月水金勤務のパートにも今回の法改正で年5日有休を取得させないといけないが、出勤日ではない木曜日を有休扱いにしてもいいか』と相談を受けたそうです。

 その社労士は『それでは本人が有休を取ったことにならないし、違法だ』と指摘したそうですが、『もしかしたらその経営者はやってしまうかもしれない』と言っていました。

 この20年間、労組がないことをいいことに経営者が長時間労働を強いたり、アルバイトにも有休はあるのに、知らないことをいいことに『ない』と言ったり、法を無視した行為を繰り返してきました。長時間労働の上限規制や有休の付与、非正規との同一労働同一賃金の法制化は労働者の処遇の改善を目指したものですが、社員が逆らえないことをいいことに、逆に悪用するケースが多発する危険があります」

 働き方改革の趣旨や理念は多くの人が賛成している。問題はその場しのぎの対策を図る会社経営のあり方なのだろう。制度をうまく活用して、的確な人員配置や仕事量の配分などを工夫し利益を上げている企業もたくさんある。小手先だけの労務対策では、深刻化する人口減少社会で人員を確保して生き抜くことは難しい。知恵を絞って経営全体を見直さなければ、今回のドトールのように外部から厳しい指摘を受け、企業のブランディングに大きな支障が出ることもあるだろう。

(文=編集部)

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