グルメ情報サイト「食べログ」の店舗評価について、「年会費を払えば店の評価を上げるという営業電話がかかってきた」という報告がTwitter上で相次いでいる。公正取引委員会は9日、食べログや「ぐるなび」など複数のグルメ情報サイトの実態調査に着手したことを公表するなど、情勢は急展開している。

食べログ運営会社のカカクコムは10日、疑惑を全面否定したが、インターネット上での議論はやむ気配がみられない。

お金を払えば悪い口コミが消える?

 公取委の山田昭典事務総長は9日、記者会見を開き、飲食店情報サイトが参加店舗に対して不当な条件を押し付けるようなケースの有無に関する調査を開始したと発表した。時事通信などによると、公取委は今後、運営事業者や参加店舗に聞き取りを行う方針。運営事業者が優越的な地位を利用して参加店舗に割引を強要したり、他の情報サイトとの契約を制限したりしていないかなどが焦点となるという。

 報道によると、「山田事務総長は、これらのサイトの認知度が高まる中、運営事業者の立場が強まり、実態を把握する必要が生じたと説明。調査対象は『それなりに名の通ったところ』と述べるにとどめ、具体的な企業名には言及しなかった」という。業界を2分する食べログとぐるなびが調査対象に入っていることはほぼ確実な情勢だ。

 5日ごろから、Twitter上では食べログの営業のあり方に関して告発が相次いでいた。10年ほど前に飲食店に勤めていたという男性は「食べログの営業がやってきて、何点以上はいくら、みたいなテーブル表があって、要はそれを月額払っているとその点数を保証しますよ、とのことだった」と指摘。別の飲食店経営者らは「年会費を払えば店の評価を上げると言われ、断ったら口コミ数は変わらないのに評価だけが下がった」「お金を払えば悪い口コミを消せると言われた」などの報告が相次いだ。

複雑かつ秘密の評価点数算出方式

 「食べログ」には、年会費を支払うことでサイト内での各種PRが可能になる「食べログ店舗会員」という制度がある。会員になると、検索された際に優先表示されるなどの特典を受けられる。

一方で来店者が店の味や雰囲気などを評価し投稿する「口コミ」の点数の算出法は、有料サービスに加入しているかどうかは一切関係なく、すべてのお店について、独自の方法で点数が算出される方式を取っているという。この点数制度について食べログはホームページ上で次のように説明している。

「各評価がお店の点数に与える影響度はユーザーによって異なります。基本的には食べ歩きの経験が豊富な方の影響を大きくするという考え方のもと設計されており、ある程度食べログで投稿を繰り返しているユーザーについて、様々な要素をもとに影響度を設定しています」

 つまり、食べログ上で表示されている店舗の評価点数は「口コミ」投稿をしたユーザー全体の単純平均ではなく、運営側にヘビーユーザーと認定されている人の点数が大きくなるような加重平均で表示されているということだ。

カカクコムは疑惑を全否定

 カカクコムの広報担当は10日、一連のツイッターの投稿に対して次のように見解を示した。

「投稿された口コミの全件を、システムチェックはもちろん、専任スタッフ(数十名単位の専任チーム)による目視で投稿後24時間以内に確認しております。規約やガイドラインに則って一定の条件を満たしていないものや表現に問題のある口コミについては、レビュアー(口コミ投稿者)に対する修正依頼、内容や表現に問題が多い場合には弊社による口コミ削除などを行なっております。

 点数の算出方法については、ユーザーの皆様にとってよりご利用いただきやすくなるよう、サービス開始当初から課題を見つける度に見直しを行っておりますが、不正な点数操作を防ぐため、詳細は非公開とさせていただいております。

 また、食べログでは公正さを保つため、点数の不正操作防止対策として、定期的にお店の点数を更新しております。更新にあたっては、新たに行われた口コミの投稿、ユーザーごとの影響度の変更および全体的な算出方法の改善などをふまえて、お店ごとの点数が再計算されます。このため、更新のタイミングで点数が変動することがあります。

 飲食店向け有料サービスを含む食べログとの何らかのお取引によって、お店の点数やランキングが変動するということは一切ございません。

飲食店向け有料サービスはあくまでお店からの情報発信機能を充実させ集客にお役立ていただくためのものであり、そのご利用の有無が、ユーザーの声を集約した点数・ランキングに影響を生じさせることは一切ございません」

疑惑の行為で運営は利益が出るのか

 カカクコムと昨年まで資本関係にあった電通の関係者は一連のTwitter上での投稿に対して次のように分析した。

「飲食店に対して『食べログの営業』を名乗っていることと、電話営業だったという2点が気になります。まずカカクコム本社の営業が各地の店舗ごとに電話をして、『有料会員にならないと評価を下げる』などと勧誘するのは労力と利益が見合いません。かなりリスキーな行為です。

 考えられるのは次の2点です。例えば、営業成績が振るわない一部の社員や業務委託先などが営業トークの一環として、事実と違うことを織り交ぜて交渉した可能性です。実際問題として食べログの運営には多くの社員が携わっています。仮に評価を下げるとなると、部局横断的な対応が求められるでしょう。営業担当者だけでどうにかできるシステムだとは思えません。

 もう一つは『食べログの営業』をかたる業者が行った可能性です。食べログの評価点を外部の業者が『年会費を払わないことを理由に下げる』ことは、同サイトのシステム的に難しい気がします。一方で上げるのであれば、いわゆる『ヘビーユーザー』を一定数囲い込んでいれば月2回の評価更新日に合わせて点数を上げることも理論上は不可能ではないでしょう。

 あらかじめターゲットにした店に、業者と利害関係のあるユーザーを相当規模投入し、低い評価で口コミを投稿させてから金銭を要求します。その後、評価更新のタイミングに合わせて各ユーザーが投稿済みの口コミの評価を上げれば、店としての評価も上がります。これであれば口コミ数は変わりません。ただかかった労力のコストに利益が見合うかは疑問です」

 また、別の飲食業界関係者は次のように話す。

「カカクコムでは9月に点数の評価方式が変わりました。これにより各ジャンルでトップ10に入っている店を除いて、サイト全体で店舗の評価が0.2ポイントくらい下がったようです。今回の件は、このタイミングが重なったため飲食店経営者側にも事実誤認があったのではないでしょうか。

 一方で、有料会員になると点数は上がりやすいということは確かにあるようです。また、悪い評価などをつけられた場合は顧客サポートに直接連絡がいくので、対応もスムーズです。有料会員が有利な点は確かにあると思います」

 飲食店情報サイトの評価がすべてではない。だが、重要な情報インフラになりつつあることは間違いない。公取委の調査の推移を注視したい。

(文=編集部)

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