元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな車は「車両運搬具」です。

 僕の知り合いが経営する会社に、税務調査が入りました。業種は自動車修理業で、事故などでぼろぼろになったベンツやポルシェを10万円とか20万円といった価格で買ってきて、綺麗に修理して業者に販売していました。

 社長は、もともと正社員として働いていましたが、独立し、従業員を雇い、着々と売上を伸ばしていたところ、4期目で税務調査を受けたそうです。

 初めての税務調査。社長の知り合いもおらず、何かしらの団体に所属しているわけでもないため、誰にも相談できません。唯一の味方である税理士には、格安の顧問料しか支払っておらず、気軽に質問することもできない状況で、不安と恐怖から毎日のようにキャバクラに通い、領収証を切ったそうです。

「それまで、キャバクラには通っていなかったんですか?」と聞くと、「いや、週3で行っていたよ」と答えるような社長です。

 税務調査の前日も遅くまでキャバクラで飲み、約束の10時から30分ほど遅れてしまいました。税理士と若い調査担当者は来ていましたが、帳簿の場所がわからず、何もしていなかったようです。

「怒られるかな」と思ったけれど、そんなことはなく、売上や経費の話を聞かれ、帳簿の場所を教えました。会計のことはわからないので、質問されれば曖昧に答え、あとはタバコを吸っていました。

 12時になると、調査担当者が「休憩にしましょう」と言いました。

社長が「先生、鰻でも食べに行きましょう」と席を立つと、調査担当者が「では、私も」と言いました。

「こいつ、俺の金で鰻を食べるつもりか?」と思い、キッと睨むと、その思いに気づいたのか、「私はお弁当を持ってきておりますので」と言って、公園のほうに歩いていきました。一緒に食べるわけではないんですね。

 午後からも帳簿を見られ、従業員にも話を聞かれ、16時過ぎに資料を持って帰っていきました。税理士に「大丈夫ですかね?」と聞くと、「まあ、大丈夫でしょう」と無表情で言いました。70歳くらいの国税OBの税理士です。きっと調査にも慣れているのだろうと、社長は安心しきっていました。

修正申告を拒否

 調査はこの1日だけで、その後は2週間ほどなんの連絡もないまま日が過ぎました。ところが、車体が大きく歪んだアウディを修理していたある日、税理士から連絡がありました。

「法人税と消費税の修正申告をすることになりました。それぞれ3年分です。税務調査の立ち会い料も含めて、◯◯万円頂くことになります。

さらに、追徴課税が概算で△△万円です」

 これを聞いて社長は「何を言っているんだ、こいつは」と思いました。「大丈夫でしょう」と言っていたのはなんだったのか。そんな大金、払えるわけがない。「払えません」とはっきりと言いました。電話の向こうで税理士が困っている様子が感じ取れます。しばらくの沈黙の後、税理士が言いました。

「1年分ならどうでしょう? 立ち会い料金は変わりませんが、修正申告書の作成代金と追徴課税は3分の1になります」

 それくらいなら、なんとか支払えそうです。「わかりました」と答え、電話を切りました。ただ、そんなことが可能なのでしょうか。しばらくたって、税務署からしつこく電話がかかってきましたが、すべて無視し、仕事も休んでいました。クルマの修理は従業員に任せ、キャバクラで英気を養っていたのです。

 2週間ほど休んでから仕事に行くと、従業員から「この間、税務署の人が来ていましたよ」と報告を受けました。

話を聞くと、「税理士が提出した1年分の修正申告書では調査を終えることはできない。ちゃんと3年分出してくれ」「税理士とも連絡が取れなくなってしまったので、社長が自分で修正申告を書いてくれ」「社長はいつなら会えるんだ」などと言っていたそうです。

 会えば金を払わされることは明らかなので、会うつもりはありません。調査担当者が諦めるまで、仕事は休むことにしました。もちろん、いい加減な仕事をした税理士にも報酬の支払いはせず、月に1万円払っていた顧問料も今後は払わないと決めたようです。

 社長は「いい経験になった」と言っていますが、法人が税理士に支払う月額の顧問料が1万円というのは聞いたことがありません。おそらく税理士の善意で、格安で引き受けていたのだと思います。そのことに感謝せず、税務調査にも非協力的。法人の経営者として、それでいいのかと疑問に思います。税務調査の際に、意見をはっきりと示すことは大切ですが、信義則に反するような行為は慎むべきだと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

●さんきゅう倉田
大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。

退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。2017年12月14日、処女作『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)が発売された。

「ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員が社会をサバイバルするために必須の知識のみを厳選。たのしく学べます」

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