今秋、同じ日本テレビが手がける“1話1年×10話”の『同期のサクラ』、“30分×2本立て”の『俺の話は長い』とともに、今冬に放送された「『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』の半年後」という異例の構成で話題を集めていた『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』。
主演は1年前に『今日から俺は!!』で爆発的な人気を得た賀来賢人であり、同作以降、『日曜ドラマ』(日曜22時30分~)は『3年A組』『あなたの番です』とヒット作を連発してきただけに、日テレ社内外ともに期待値は高かった。
しかし、世帯視聴率は1話7.8%、2話6.5%、3話6.4%と低空飛行の上に右肩下がり(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。ネット上にも批判の声が多く、徐々に話題の数さえ減り始めている。
同作の序盤には、どんな問題があり、中盤以降はどんな内容が望まれているのか。
「9歳の子どもまで大暴れ」の過剰さ番組ホームページの「Introduction」には、「これが、刑事ドラマと呼べるのか――」「この物語、一度見たらその結末を見届けるまで、『とんでもないこと』が止まらない」と書かれ、賀来も「今まで日本で見たことのない、スケールのドラマ」とコメントしていたが、確かに既存の刑事ドラマとは程遠いものだった。
その「見たことのない」「とんでもない」の意味は、残念ながら称賛ではなく批判で、なかでももっとも多いのは「うるさい!」という声。第1話から刑事たちが、わめき、叫び、殴り合い、暴れっ放し。過剰な狂気と暴力で画面を埋め尽くしている。
それを象徴していたのが、第3話の「子どもが喫茶店の食器やグラスを破壊しまくる」というシーン。9歳の子どもにすらエキセントリックな演技をさせるのだから、明らかに「視聴者が楽しく見られる」という一線を越えてしまっていた。
賀来賢人も、井浦新も、工藤阿須加も、かつてないほど感情を爆発させるような演技を見せているが、視聴者たちはそれを熱演と思っていない。不満どころか、「嫌悪感がスゴイ」「胸やけがする」とまで書かれてしまうのが気の毒だ。
もうひとつ「うるさい」と言われているのが、繰り返されるBGM。
そもそも、日曜の22時以降は明日からの仕事や学校がチラつき「穏やかに見られる」「明るく笑い飛ばせる」番組が好まれる時間帯。ノイジーやバイオレンスを前面に押し出したドラマで、しかも黒幕や謎解きを考えさせるミステリーであることを踏まえても、さすがにミスマッチだったのではないか。
「『山猫』『3年A組』を超える」という意志当作をここまでノイジーやバイオレンスに振り切らせたキーマンは、福井雄太プロデューサーと脚本家の武藤将吾。2人は『怪盗 山猫』(日本テレビ系)、『3年A組』でもタッグを組み、登場人物が感情や暴力を爆発させるシーンを繰り返してきた。『ニッポンノワール』がとりわけノイジーでバイオレンスなのは、「前2作を超えよう」という意志の表れに見えてしまうのだ。
さらに、ノイジーでバイオレンスな世界観が色濃くなっている理由のひとつに挙げておきたいのは、日テレが進めている若年層対策。「わかりやすく強烈なシーン」や「振り切った世界観」で若年層の話題となり、ネット上の反響を集めようという狙いが見える。
日テレのドラマは、CM収入のために他局よりも若年層を意識して制作されていて、だからこそ冒頭に書いたような“バズらせるための仕掛け”が多い。仕掛けること自体は素晴らしく強みとなっているのだが、当作に限っては「ここまでぶっ飛んだことをやらないと若年層を引きつけられないと思っているのか?」とみなされても仕方がないだろう。
もったいないのは、ノイジーでバイオレンスを前面に出し過ぎたことで、肝心の「碓氷薫警部殺害事件」「十億円強奪事件」を追うミステリーに目を向けにくくなっていること。
実際、ツイッターやクチコミサイトを見ていて、もっとも厳しい声と感じたのだが、「誰が黒幕なのか興味が湧かない」という声が散見される。
11月3日に放送される第4話の予告映像には、いまだ疑惑が残る才門要(井浦新)が頭に指を当てて、「レッツシンク」と声を発するシーンがある。これは『3年A組』の主人公・柊一颯(菅田将暉)の口グセだったセリフだが、いよいよ両作の本格的なリンクが始まっていくのか。
第3話でも、フェイク動画、特撮ヒーロー・ガルムフェニックス、スーツアクター・ファイター田中(前川泰之)などの共通点があっただけに期待感は募る。単なる「ツイート狙いの小ネタ」でなく、大きな展開につながっていくことを望んでいる視聴者は多いはずだ。
心配なのは、「主人公を含めた刑事全員が容疑者」「疑いが加速し、裏切りが止まらない」と思い切り煽った挙げ句、拍子抜けの結末にならないか。
『日曜ドラマ』のここ2作は、『3年A組』は「黒幕がネット上で無責任な誹謗中傷をする人々」、『あなたの番です』は「黒幕がただのサイコパス」という結末に失望の声が続出していただけに不安が残る。
最後にもうひとつ忘れてはならないのは、ネット上で「日テレ商法」と揶揄される「Hulu」との連動コンテンツ。多くの人々が最終話後の「続きはHuluで」という仕掛けに嫌悪感を示しているだけに、それだけは避けたほうがいいだろう。好き嫌いがハッキリ分かれる作品だが、意欲的なオリジナル作であることに疑いはなく、「最終話まで見ていてよかった」と思わせてくれることに期待したい。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。