来年の東京オリンピック・パラリンピックの大会運営を担うアルバイトの募集が続いている。時給1600円以上という破格の給与での募集に、インターネット上では批判が殺到している。
現在、アルバイトを募集しているのは、組織委が業務委託をしている人材派遣会社大手のパソナグループとヤマトホールディングス(ヤマトHD)などだ。ヤマトHDは2015年、荷物輸送サービスカテゴリーのオフィシャルパートナー契約を組織委と締結。パソナは18年に人材派遣や企業向けの研修など人材サービスの分野でオフィシャルサポーター契約を組織委と締結している。
本来、大会運営はボランティアがメインになるはずだった。組織委は9月12日、大会ボランティアの共通研修に約8万人が参加すると発表した。大会ボランティアには20万4680人が応募し、組織委は2~7月に全国で面談を実施。希望する活動分野や条件が合わなかった約12万人が不採用になった。結局、人手は足りたのか、足りなかったのか。
ここで、パソナの求人を見てみると「東京2020で働く。大会を支える2000の仕事があなたを待っています」というキャッチフレーズが掲げられている。職種内容は「一緒に盛り上げてくれる組織委員会運営スタッフ大募集!!皆で協力し合い、運営をささえましょう!」とあり、具体的な仕事内容として「選手村運営」「トランスポート」「国際コミュニケーション」「メディカル」「IT・テクノロジー」「会場・施設管理」「バックオフィス」などを挙げている。
パソナの求人に掲載されている仕事内容は、ボランティアで募集していた仕事と表現こそ異なるものの、その多くは同じように見受けられる。非常に不可解なタイミングでのバイト募集に、インターネット上では疑問の声が噴出している。
「東京五輪ボランティア、結局人が足りずバイトを募集開始!!同じ仕事でもボランティアには給料なしな!!」(原文ママ、以下同)
「東京五輪、バイト募集してて草だしボランティア全員逃走とか有り得そう」
「東京五輪のボランティア当初言われてた通り金が出ない上に高額バイトと同じ内容なんてことになろうものなら責任も投げてぶっちする人大量発生しそうだな」
実際に五輪ボランティア参加予定者にも感想を聞いてみた。横浜市の会社員男性(52)は次のように語る。
「インターネット上でバイト募集に関して批判が出ているのは知っていますが、わかっていないなという感じです。オリンピックに参加できるというのは何百万円お金を積んでもできない経験です。最近の若い人は会社でもプライベートでも、すぐ『いくらですか』ばかりです。嫌々働く人たちと一緒にしないでもらいたいです」
一方で、明治大学の学生(21)は、次のように眉をひそめる。
「3年前から東日本大震災で陸前高田市などにボランティアに行っています。最近、五輪ボランティアは震災時のような自発的な善意でやる仕事ではないんだなと実感しました。
うまく言えないのですが困っている人を助ける仕事ならいくらでも無償でがんばれます。
今回アルバイトを大々的に募集しているパソナといえば、元総務大臣の竹中平蔵氏が代表取締役会長を務めており、組織委の森喜朗会長とも懇意だ。五輪のオフィシャルスタッフの業務と合わせて、東日本大震災の復興・被災地雇用事業に関しても政府から委託を受けている。来年は震災から10年の節目でもあるため、関連の復興イベントのスタッフ派遣業務などの大量受注も見込まれる。
東京電力福島第1原発事故で避難指示区域に指定された福島県浪江町の被災者男性(67)は、次のようにぼやく。
「以前から、内閣府や組織委などから復興五輪に関連した行事に関する提案が町にあったし、来年に向けていろいろ話は来ているようです。
提案を聞いている限りだと、いろいろ計画をしているのは、組織委に出向している電通さんやパソナさんの社員です。町民は、福島県内はもとより、全国に散らばっている。五輪では野球の会場になっている福島市でいろいろなイベントをやります。それらのイベントへの出席は必須ということで、我々被災者も呼ばれています。ただ大会の『壁の花』になるために住民を集めて福島市や東京まで行き、イベントに参加したり、競技を観戦したりするというのは何か違う気がします」
ちなみに、パソナが五輪オフィシャルサポーター契約をする際の契約料がいくらだったのかは今でも明らかにされていない。
東京五輪のボランティア問題に詳しい作家の本間龍氏は次のように語る。
「20万人もボランティアの応募があって、そのなかでマッチングをして8万人を選んだのに、今になって人手が足りないというのはいったいどういうことなのか。極めて不可解です。
パソナがオフィシャルサポーター契約をした時点で、『集めたボランティアのとりまとめを行うチームリーダーを、同社がプールしている人材から派遣するのだろう』と推測していましたが、新たに大規模にアルバイトを募集するとは思いませんでした。
ここで考えられるのは、まず酷暑に対する組織委の恐怖感です。実際にボランティアを集めてみたものの、大会が近づくにあたって熱中症の危険性が高まり、いろいろなメディアで指摘され始めています。この結果、大会当日、ボランティアが来ないということを本気で恐れ始めたのかもしれません。かなり高い時給を支払えばスタッフのモチベーションも保てます。配属される部署によっては屋内の場合もあるでしょうし、これだけの時給を支払っていればがんばれると考えているのかもしれません。
ボランティアの研修は大会までに2~3回しか行われません。速成人員だけで大会運営は難しいでしょう。今回、募集されているアルバイトは2~9月までの長期で、しっかり研修もできますし、その間に組織委に囲い込めるはずです。
選手村など絶対に欠員が出てはいけない場所をアルバイトで固めるのでしょう。パソナ、ヤマト双方ともに募集人数は明らかにされていませんが、おそらく数千人規模と見込んでいます。組織委としては、その規模であっても、8万人のボランティア全員を雇うよりは安くなるということなのでしょう。
組織を組み立てるのにあたって、プロを入れるのは理解できます。しかし、それなら、最初から全員、アルバイトで雇えば良いのではないでしょうか。同じ仕事をするのに、片方では高い賃金が支払われ、一方では労働ではないというのはいかがなものでしょうか。
ボランティアに参加した人たちからも、厳しい研修の様子を聞いています。『資料はすべて頭にたたきこんでおけ』『時間に絶対遅れるな』『スポンサーの商品以外はSNSに写りこませるな』などを短い研修で叩きこまれています。研修は非常に高圧的な雰囲気だということです。同じような責任を負わされるのに、研修やフォローは促成栽培です。ボランティアからアルバイトに切り替える人も出てくるのではないでしょうか。
組織委のホームページには今も『ボランティアは、TOKYO2020を動かす力だ。』という標語が掲げられています。組織委の方々に聞きたいものです。こんなことをして、ボランティアに参加した人がどのように思うか考えられなかったのですか、と」
本間氏は今回のバイト募集に関して、組織委に質問状を提出している。回答は果たしてくるのだろうか。
(文=編集部)