昨年放送されたシーズン1が大人気となり、今年の夏には映画化もされたテレビ朝日系ドラマ『おっさんずラブ』。今年11月からはシーズン2となる『おっさんずラブ -in the sky-』の放送が始まったが、シーズン1とはまったく設定が異なる“パラレルワールド”の物語ということもあり、前作のファンから反発を食らう結果となっている。
「シーズン1で描かれたキャラクターたちを愛していたディープなファンを置いてけぼりにして、いきなり設定を変更したのはまさに失策。『おっさんずラブ展~in the sky~』『おっさんずラブコンサート』などというイベントも開催されますが、いずれもチケットの売り上げはイマイチのようですね」(テレビ局関係者)
シーズン2によって失われたコアなファンそんな『おっさんずラブ -in the sky-』だが、視聴率だけを見れば、そこまで悪いわけでは決してない。シーズン1全7話の平均視聴率は4.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だが、シーズン2の初回(11月2日放送)は5.8%。以降は11月16日放送の第3話こそ3.5%だったが、それ以外の放送回では4%台をキープしている(12月14日の第7話までの記録)。
「テレビでオンエアーを見るだけのライトなファンの数はそこまで変わっていないといえるでしょう。しかし、ネット上での反応を見てみると、シーズン1に熱狂してグッズをたくさん買ったり何度も映画版を見に行ったりしたようなコアなファンが、とにかくシーズン2に反発している。つまりシーズン2で、コンテンツの売り上げを支えているディープなファンを失ったということだと思います。今後『おっさんずラブ』を長く愛されるコンテンツに育てようという狙いがあるのであれば、完全に大失敗ということになりますね」(同)
シーズン1では「天空不動産」という会社が舞台だったが、シーズン2ではそれが、「天空ピーチエアライン」という航空会社に変更された。
「ただ単に職場が変わったくらいの設定変更であれば、シーズン1のファンもまだ納得したかもしれない。しかしシーズン2では、実在の航空会社であるピーチとタイアップしているということもあり、設定変更の裏側になんらかの“大人の事情”が見え隠れしている。ファンの思いよりも、そういった“大人の事情”を優先したかのような設定変更だったことが、失敗の最大の理由でしょうね」(同)
Sexy Zoneの“ファン裏切り行為”シリーズもののドラマや映画、アニメなどでは、物語の急展開によってファンから反発を食らうことは少なくないだろう。それでファンを減らすこともあれば、そこまで減らないこともある。
たとえば、1995年から現在まで続いている『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズであれば、幾度となくファンの予想を大幅に裏切るような展開が起きている。特に現時点での最新作となる『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年公開)では、かつての仲間同士が新組織を結成して戦うという内ゲバの展開となり、一部のファンからは“駄作”とのレッテルを貼られた。
フィクションのコンテンツではないが、ジャニーズ事務所のアイドルたちにおいてもまた、ファンに対する裏切りは何度も繰り返されている。その代表的存在がSexy Zoneだ。
2011年に5人組としてメジャーデビューしたSexy Zoneだが、2014年にメンバーの松島聡を中心とする「Sexy 松」と、マリウス葉を中心とする「Sexy Boyz」という2つの弟分的グループを結成。残った3人は「Sexy Zone」として活動し、グループ全体を「Sexy Family」と称すると発表されたのだ。実際に3人体制のSexy ZoneとしてCDを1枚リリースしたが、この体制は長く続かず、翌年には5人体制のSexy Zoneに復帰している。
Ya-Ya-yahの地獄絵図エヴァのケースもジャニーズのケースもそうだが、ファンの間に一時的な反発や混乱は見られたとしても、大打撃を食らって失速するところまで至るわけではなく、結局その後は長期コンテンツとして愛され続けている。それはどうしてなのだろうか。エンタメに詳しいフリーライターの大塚ナギサ氏はこう分析する。
「まず、歴史が長いコンテンツの場合、多少の“急展開”があっても、それまで積み重ねてきた歴史が重すぎるがゆえに、結果として影響を受けにくいというところはあるでしょう。直近にネガティブな急展開があったとしても、それまでに積み重ねてきたコンテンツのおもしろさのほうがあまりに魅力的なので、当該コンテンツの価値がそう簡単に毀損されることはないわけです。
また、長く愛されているコンテンツであれば、少々の急展開があっても、ファンの側に“耐性”ができているという側面もある。
「長いジャニーズの歴史の中で、ファンに歓迎されない出来事は何度も起きています。特にジャニーズJr.内ユニットの急なメンバーチェンジなどはよくあること。Jr.内で圧倒的な人気を誇り、横浜アリーナでの単独公演まで敢行した4人組グループYa-Ya-yahが突如として活動を休止し、2007年に薮宏太と八乙女光のみがHey! Say! JUMPのメンバーとしてメジャーデビューした際などには、ファンの間に阿鼻叫喚の地獄のような衝撃が走りました。そういったことが繰り返されてきているので、ファンもそういった急な人事に慣れているんですよね。ゆえに、ファンの希望とは異なる動きがあったとしても、それなりに受容できる下地が整っているんです。
しかし、それはやはり長い歴史があるからこそ成立するものであって、『おっさんずラブ』の場合はまだ歴史が積み重なっていない状態なのにもかかわらず、シーズン2でいきなり急激な設定変更をしてしまった。これでは、シーズン1のファンがついてこられないのも仕方がないと思いますね」(大塚氏)
いちばん重要な部分を捨ててしまったでは、『おっさんずラブ -in the sky-』がどういった作品であったならば、シーズン1のディープなファンにも愛されたのだろうか。
「すごくシンプルな話で、シーズン1のファンは、春田創一(田中圭)と牧凌太(林遣都)を中心とした物語の世界観やキャラクターたちを愛していたということなのだと思います。この物語をいかにして広げていくかが、長く愛されるコンテンツになるための重要なファクターだったはず。しかし、シーズン2では『おっさんずラブ』という箱だけを残して、いちばん重要な部分を捨ててしまった。これがたとえば“シーズン6”くらいでの展開であれば、“そういうのもアリかも”となっていたかもしれませんが、シーズン2でやるにはちょっと早すぎましたね」(大塚氏)
また、SNSで大いに盛り上がったことが、シーズン1大ヒットの大きなきっかけとなっていることも忘れてはならない事実だ。
「『おっさんずラブ』の場合、やはり“ファンが育てた作品”という感覚がファンの側に強いんですよね。実際それは事実だと思いますし、ファンの側にはその思いがなおのこと強いでしょう。作品に思い切り感情移入して、その思いをSNSにぶちまける。そういった視聴者が多かったからこそ、大ヒットした。“作品を楽しむ姿勢”みたいなものを含めて、『おっさんずラブ』という作品の魅力になっていたわけです。だからこそシーズン2においても、そうしたファンの思いに寄り添った形での制作が意識されるべきだったのだと思います。ファンが育てた作品なのに、いきなりファンを突き放してしまっては、そりゃあ反発を食らいますよね」
シーズン3はファンに“媚び倒す”べき以上の通りシーズン1の熱心なファンを切り捨ててしまった『おっさんずラブ』が、今後長期コンテンツ化する可能性はあるのだろうか。
「長く愛されるコンテンツというのは、“おたく”と呼ばれるようなしっかりとお金を落としてくれる熱心な固定ファンをつかまなくてはいけない。しかし今の『おっさんずラブ』は、そうしたおたく層を無視し、ライトなファンだけに向けて作っているような状況です。単発で終わらせるのならそれでもいいのでしょうが、今後のシリーズ化を目論んでいるのならば、シーズン2のこの状況のままでは絶対にだめでしょうね。
一度失った信用を取り戻すのは簡単ではない。『おっさんずラブ』をヒットさせたシーズン1のファンたちに許してもらうには、相当な努力が必要となりそうだ。
(文=編集部)