新型コロナウイルスの影響でテレビドラマの新規撮影が困難となったため、テレビの世界では、各局がゴールデンタイムに名作ドラマを再放送するという異常事態が発生。また、それが意外にも高視聴率を稼ぎ、SNSで話題を集めるなどの現象も見られる。
そんな流れを受けて、ウェブ上で「再放送してほしいドラマ」といったテーマのアンケートが実施されることも。2020年ともなると、さすがにこの手のアンケートで昭和のドラマがランキング上位に入ることはなく、名前が挙がるのはジャニーズ事務所に所属するタレントが出演した平成期の作品ばかりである。つまりこの30年間、テレビ界とジャニーズ事務所との蜜月関係から生まれた作品群が、多くの人の支持を集めてきたということなのだろう。
しかし、そんなジャニーズ事務所関連ドラマのなかにも、観たくても観られない、絶対に再放送されない作品もある。再放送ドラマが熱いこの時期に、本稿ではあえて、そんな“封印作品”をクローズアップしたい。
木村拓哉『ギフト』は殺人事件への影響で封印に再放送されないドラマとして代表的なものに、木村拓哉の連続ドラマ単独初主演作『ギフト』(1997年/フジテレビ系)がある。木村演じる記憶喪失の青年が、「届け屋」という仕事を続けていくうちに記憶を取り戻していくというストーリーだ。この作品は、放送翌年の“ある事件”がきっかけで封印扱いになってしまったのである。
というのも、栃木県でバタフライナイフを用いた殺傷事件を起こした13歳の少年が、「『ギフト』を観てカッコいいと思った」といった供述をしたからだ。バタフライナイフは、劇中で効果的な小道具としてたびたび登場していた。
少年の供述が報道されると、東海地方で再放送されていた本作は途中で打ち切りに。以後、バタフライナイフを用いた少年犯罪が続いたこともあり、『ギフト』の再放送は皆無となり、長らくソフト化もされることがなかった。
ただし、事件から長い時間が経ったことが考慮されてか、放送開始から22年後の2019年に、ようやくDVDとBlu-rayがリリースされたので、現在は視聴が可能である。
同じように現実世界で起きた事件が原因で封印された作品に、元SMAPの草彅剛が大食いバトルのチャンピオンを演じた『フードファイト』(2000年/日本テレビ系)がある。
2002年1月に愛知県で、早食い競争をした中学生がパンを喉に詰まらせて死亡する事件が発生。これによって、『フードファイト』は、再放送、ソフト化がされない作品となってしまう。その後、草彅がジャニーズ事務所を辞めたことで、ますます再放送が困難になったのではないだろうか(この問題については後述)。なお、『フードファイト』には、横山裕(現・関ジャニ∞)もゲスト出演していたり、主人公が飼っている九官鳥の声を木村拓哉が担当していたりと、ジャニーズファンには見どころがいろいろとある。
現実世界との関連でいえば、昭和の作品だが、男闘呼組のメンバーだった岡本健一(Hey! Say! JUMPの岡本圭人の父親)が主演した『サーティーン・ボーイ』(TBS系/1985年)も、おそらく二度と観ることができないドラマだ。
この作品は、大金を手にした中学生が豪遊しながらも派手な逃亡活動を展開するという物語で、1983年に実際に起った少年犯罪をモチーフとした内容だった。そのモデルとなった少年への配慮なのか、あるいは中学生の犯罪を描いた内容が倫理的にNGと考えられたのか、ソフト化はならず、再放送もされない封印状態になっている。
イノッチと瀬戸朝香が出会ったドラマの“問題点”『終らない夏』(1995年/日本テレビ系)は、主演の瀬戸朝香と、のちに彼女と結婚することとなる井ノ原快彦(現・V6)が出会った作品である。この夫婦にとっては忘れられない思い出のドラマなのだろうが、残念ながらこれも再放送は絶望的である。
なぜならその脚本が、紡木たくの名作マンガ『ホットロード』(2014年に能年玲奈主演で映画化)からのストーリー、人物の設定、台詞などの盗用があることが指摘され、大問題になったからだ。
堂本剛(KinKi Kids)、松本潤(嵐)、亀梨和也(KAT-TUN)、山田涼介(Hey! Say! JUMP)と、歴代ジャニーズメンバーが主演を務めてきた『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)は、全作品が封印された訳ではないが、脚本の問題で二度と観られない回がある。それは、1995年にスタートした同作の記念すべき第1話「異人館村殺人事件」だ(堂本剛主演)。このエピソードは、脚本にケチがついた。島田荘司の小説『占星術殺人事件』からのトリックの流用が指摘されたことで、以後のソフト化の際は欠番扱いとなり、再放送もされなくなってしまったのだ。
少年犯罪がしばしば描かれたKinKi Kids出演作なお、『金田一少年の事件簿』は日本テレビの土曜21時からの「土曜グランド劇場」の作品だが、この放送枠にはほかにも封印ジャニーズドラマが目立つ。
堂本光一 (KinKi Kids)が主演し、三宅健(V6)、 井ノ原快彦も出演していた『銀狼怪奇ファイル』(1996年)は、VHS化はされたものの、再放送、DVD化は一度もない。これは、1997年の「神戸連続児童殺傷事件」の発生を背景として、作品内での猟奇的な描写が問題視されたからだといわれている。また、その後ジャニーズ事務所を離れた人物が出演していることも、ソフト化されない一因だという説もある。
松岡昌宏(TOKIO)が主演で、井ノ原快彦も出ていた『サイコメトラーEIJI』(1997年)は、1999年に続編も放送される人気作だった。しかしこの作品も、VHS化はされたが再放送とDVD化は実現していない。この作品に関しても、ジャニーズ事務所を離れた人物が出演していることもソフト化されない理由だとの説もある。
『ぼくらの勇気 未満都市』(1997年)は、KinKi Kidsの堂本光一と堂本剛の共演作で、相葉雅紀(現・嵐)と松本潤のドラマデビュー作でもある。この作品も、少年による犯罪が描かれており、しばらくソフト化が見送られ、再放送もされなかった。なお同作にも、その後ジャニーズ事務所を辞めることとなる者が複数出演している。
ただし、2017年にKinKi Kidsデビュー20周年特別企画として、続編の『ぼくらの勇気 未満都市2017』が放送されたことで、一挙に解禁ムードに。DVD化、Blu-ray化が実現し、有料動画配信サービスのHuluにて配信がスタートした。ただし、地上波での再放送となると、今後も難しいのではないだろうか。
元ジャニーズ出演作は再放送NGなのか『それが答えだ!』(1997年/フジテレビ系)は、わけあって地方の中学校で音楽指導をすることになった世界的マエストロ、という役どころを三上博史が演じた作品だ。生徒役として深田恭子や藤原竜也とともに、当時のジャニーズJr.メンバーが数名出演していた。それが、再放送・ソフト化が叶わない理由だと見られている。
松本人志と中居正広のダブル主演作『伝説の教師』(2000年/日本テレビ系)も、再放送されない作品だ。権利問題がその理由だという説もあるが、確認しておくと、この作品にも生徒役で元ジャニーズJr.が出演している。
また、これも昭和期の作品だが、1993年の解散後にメンバー4名中3名がジャニーズ事務所を離れた男闘呼組の出演ドラマ、『ぼくの姉キはパイロット!』(1987年/TBS系)、 『オトコだろッ!』(1988年/フジテレビ系)は、日の目を見ることがない。
このように、「元ジャニーズ所属者が出ているから」という理由で再放送が不可なのだとすると、元SMAPの面々、つまり稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾が出演した数多くの作品は、ことごとく再放送がNGということになってしまう。元祖“元SMAP”森且行主演の『ツヨシしっかりしなさい』(1989年/日本テレビ系)が封印されていることを考えても、現在の情勢が変わらない限り、今後も上記3名の出演作は、地上波での再放送は難しいのではないだろうか。また、中居正広も2020年3月にジャニーズ事務所を去ったが、では彼の出演作はいったいどういう扱いになるのだろうか?
『古畑任三郎 vs SMAP』における“SMAPの美しい友情”あのSMAPという存在が“なかったこと”にされつつある今、このタイミングでゴールデンタイムでの再放送をすれば確実に高視聴率が期待できるが、絶対に放送されないであろう作品がある。『古畑任三郎 vs SMAP』(1999年/フジテレビ系)である。三谷幸喜が脚本を手掛けた人気シリーズ『古畑任三郎』に、犯人役でSMAPの5人が出演した特別篇で、正月特番として同年の1月3日に放送された。
メンバーが演じたのは、中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾による国民的アイドルグループ「SMAP」。つまり、実名での登場だった。そして、5人が共謀して殺人事件に関わるのである。ただし、冒頭であくまでフィクションであることが強調され、現実とは違い劇中のSMAPは、メンバーが芸能界に入る前からの友情で結ばれている……という設定になっていた。そして、そこが事件のカギともなっている。
あの後味の悪い解散劇を経た今観ると、『古畑任三郎 vs SMAP』には色々と興味深い場面が多い。
実はこの作品、再放送されたことがないわけではない。フジテレビは、SMAP解散直前の2016年11月に、関連ドラマ、映画などを一挙放送したことがあったのだが、そのラインナップに『古畑任三郎 vs SMAP』も含まれていたのだ。
見方を変えると、このタイミングが再放送のラストチャンスだったのだ、といえよう。
SMAPの解散から3年半。この空前のドラマ再放送ラッシュにあっても、ジャニーズ事務所がテレビ界に強い影響力を持っている限り、『古畑任三郎 vs SMAP』がオンエアされる可能性は限りなくゼロに近いのだろう。
(文=編集部)