プロ野球開幕が間近に迫ってきた。今季は、北海道日本ハムファイターズの“BIGBOSS”こと新庄剛志監督が世間の注目を集めている。
就任会見で「優勝なんか一切目指さない」と語った新庄監督に対し、元中日ドラゴンズ監督の落合博満氏がテレビ番組で苦言を呈した。自由な発言を繰り返す新庄監督について「球団側がストップをかけない限り、好きなことをやっていい」と評価した落合氏だが、就任会見での「優勝なんか目指さない」発言だけは「理解できない」と首をかしげた。
「新庄発言の真意は『最初から優勝を目指すと余計な力が入る。優勝を目指せる成績になるまでは、力まずに野球をやりたい』ということなのかもしれません」とスポーツ紙記者は語るが、落合氏は「勝つためにやるのがプロ野球の世界」と断言した。
自身の監督就任会見で「優勝を勝ち取る。負けたら俺の責任」と明言した落合氏は、キャンプで選手を徹底的にしごいた結果、就任初年度に優勝を手にした。荒木雅博や井端弘和ら選手の意識を変えて「チーム力を10%底上げ」したことが優勝の原動力となったが、新庄日本ハムは選手たちの意識改革がどのように進んだか。これが最初の注目点だ。
監督が選手より目立つチームは弱い?柱となる選手がチームを結束させた結果、チーム力がアップし、先輩の背中を見て若手が成長していくのがプロ野球のチームである。今の日本ハムの中心選手は、野手では近藤健介、投手なら上沢直之だ。
一方で、シーズン10勝を挙げて東京オリンピックでも活躍した2年目の伊藤大海、抑えの切り札・宮西尚生など実績のある選手もいるものの、全体的な戦力不足は否めない。
監督の意をくんでチームをまとめ、自身の言動もしくはプレーでチームを引っ張る選手は出現するだろうか。裏を返せば、選手の中にスターがおらず、チームに華がないのも、新庄監督が目立つ理由である。
過去を振り返ると、監督が選手よりも目立つチームは弱い、というイメージがある。近年では野村克也氏の阪神タイガース&東北楽天ゴールデンイーグルスや中畑清氏の横浜DeNAベイスターズなど。長嶋茂雄氏の読売ジャイアンツも、二度の就任初年度は最下位と3位で2年目に優勝を果たした。
「観客動員を増やしたいのなら、マスコミやファンに受ける監督がチームを強くする。これがベストですが、両立は難しいものです。ファンはパフォーマンスも好きですが、最優先はチームの勝利です。新庄監督は最初こそ注目されますが、負けが込んでくるとファンのテンションも下がり、観客動員数も落ちていくでしょう」(前出のスポーツ紙記者)
黄金期をつくったチームのほとんどには、一目置かれるキャプテン、野手陣の柱、投手陣の柱、精神的支柱となるベテランなど複数人の“柱”がいた。
2021年末にバラエティ番組に新庄監督が出演した際、オリックス・バファローズの杉本裕太郎がコメントした瞬間に「つまんない」「普通すぎる」とダメ出しをしていた。
ホームランを打った後は“ラオウの昇天パフォーマンス”を嬉々としてやるのに、テレビになると緊張しておもしろいことを言えないというのは、逆にいえばおもしろいキャラクターでもある。本来はもっと気の利いたことを言えるのに、慣れない番組収録で緊張していたのかもしれない。
新庄監督のダメ出しは番組を盛り上げようとした発言とはいえ、嫌な上司を思い出した人もいただろう。
阪神でキャプテンを務めた鳥谷敬は周りから「覇気が感じられない」と言われていたが、元来が淡々とプレーをするタイプ。ストイックで誰よりも練習をするし、プレーでチームを引っ張っていった。人間が多種多様であるように、プロ野球選手も十人十色である。
「新庄監督は、1年目にチームの力を底上げして、2年目か3年目の優勝を望んでいると思います。来年は新球場ができ上がりますし、そのためにも選手がファンから注目されて観客動員数が増えるよう、インタビューなどの受け応えに関しても指導してきました。
3つ目の注目点である発信力の強化は、どういう変化をもたらすだろうか。
球界では、監督は3年が一つの目安となる。新庄監督の「優勝なんか目指さない」という発言は、長期的視点によるものかもしれない。
(文=林田浩一/スポーツライター)